受注
「おいおい、”条件”は知ってるだろ?」
俺はそう言いながら、カミロの方をチラッと見た。彼は俺の視線に気がつくと、頷いている。説明済みと言うことだ。
欲しい人がうちへ一人でやって来ること。帝国の皇帝にまで守らせたルールである。
いや、実際には一度緩めたことはあったか。カミロに頼まれてミスリルの細剣を打ったときだ。恐らくはそれを知って頼んでいるのだとは思うが、一応通さねばならない筋目ってのがあるからな。
「勿論、知ってはいる。家の場所までは聞いておらん……と言うよりも奴が話さなかったのだが」
ムスッとした顔を取り繕うこともせず、侯爵が言った。おそらくではあるが、侯爵が”資格”に足りない、と言うことはなさそうなので、多分厄介事に巻き込まれないようにカミロがそうしてくれたんだろう。
「今回はそれを曲げて頼みたい。事態を収拾するのに一番いい方法がそれなんだ。この通り」
マリウスが頭を下げる。話をするだけなら侯爵だけでも良い(なんなら俺を呼びつけるのがベストだろう)のに、わざわざマリウスを伴って出向いたのはこれが目的だろうな。
少なくとも俺が友人だと思っている人物に頭を下げられると弱いのは事実である。
「うーむ」
俺は腕を組んで考え込んだ。正直なところ、俺はともかく家族に累が及ぶことがなければ何でもいいのだ。後はできればアンネも。知らぬ人ならまだしも、そうでない人が何かに巻き込まれるのは夢見が悪い。
そこだけ確認しようかと思ったその時、ディアナが机に手をついて口を開いた。
「お兄様」
その眼差しは強く、兄であるマリウスを見つめている。
「ん? どうした? ディアナ」
「それでエイゾウが厄介なことに巻き込まれたりはしないのね?」
「そうだな。そうなるように取り計らうつもりだ」
「分かった」
そう言うと彼女は再び席についた。他の皆も今のマリウスの言を聞いてうんうんと頷いている。後は俺の判断次第、と言うことか。
「俺からも一つ確認がある」
「なんだ?」
「家族も厄介なことにはならないよな?」
「ああ。そっちは保証しよう」
マリウスは真正面から俺の目を見つめて言った。サーミャが口を挟んでこないということは、真実なのだろう。
「わかった。引き受けよう」
「すまんな、助かる」
「それで、何を作れば良いんだ?」
「槍だな。それを4本だ」
「4本か」
数的には余裕だが、なぜ4本もいるのかが少し引っかかる。でも、理由を聞いてしまうと巻き込まれてしまう予感がヒシヒシと伝わってくる。
「わかった。形はこっちで決めていいな?」
「ああ。ただし、その4本の形は同じものにして欲しい」
「全く同じものを4本、ということか?」
「そうだ」
大量生産でもないのに同じものを4つ欲しい、ってのはますます怪しいが、やはり聞かぬが花というやつなんだろうな……。
「まぁ、悪いようにはせんよ」
侯爵がニッコリとそう言い添えたが、俺には少し不気味に思えて仕方なかった。
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