捜索
しとしとと降り続く雨のほとんどは樹々が精一杯に伸ばしたその枝葉で遮られ、俺たちのところまではあまり落ちてこない。
時々クルルがプルプルと首を振って雨を払っている。ルーシーも派手に水を撒き散らして、ディアナやアンネが喜びなのか悲鳴なのかよく分からない声をあげていた。
「そう言えば、
「出るよ。目の前が見えなくなるくらいになるときもある」
今まさに雨が降っている最中では出ないだろうが、雨の止んだ後は出やすかろうと思ってサーミャに聞いてみたが、やはり出るのか。
「そう言うときは……動物たちもこもってるか」
「アタシたちは見通しが利かなくて狩りができないからそうするけど、声が聞こえるし臭いもするからから狼や鹿は多少うろついてるんじゃないかな」
「へえ、鼻が利くとある程度は動けるもんか」
「そうみたいだな」
サーミャたち獣人が人間よりもはるかに感覚が鋭敏とは言っても、森の獣ほどではない。視覚情報に頼るところも多いだろうから、そんなときに霧が出ていたら大変そうだ。
「まいったな。明日か明後日には街へ行かなきゃならんのだが」
「あいつらもウロウロはしてるけど、いきなり襲いかかってきたりはしないよ。霧が出てないときのほうがいいのはあいつらも一緒だ」
「なるほど」
チート持ちではあるが基本的にはただの人の領域におさまる俺の場合、霧で視界が奪われると襲われたときに対処が難しい。そんなところで例えば狼の群れに襲われたらどうしようもない気がする。
しかし、嗅覚だけで襲うよりも、視覚も併用して襲いかかるほうが有利なのは彼らも同じ話ではある。そこはむしろ賢さに救われたと言うべきか。
「じゃあ、気にせずゆっくり進めば問題ないか」
「だな。道を見失いやすいからおすすめはしないけど」
「そりゃそうだ」
俺はそう言いながら、うへえと肩をすくめた。いくら勝手知ったる”黒の森”でも、霧で様相が違ってしまえばあっさり迷うことは十分にありえる。
そうならないように、霧が深ければ延期も考えないといけないか。
そうして、森の入口が近づいてきた。樹の数が減っていき、俺達に直接届く雨粒の数はそれにつれて増えていく。ルーシーが身体を震わせる回数も増えた。
「このあたりか」
なんだかもう遠い昔のように思えるが、実際にはあれから1週間も経っていない。
「何人かずつに別れて探すか?」
「いや……臭いがする」
サーミャが心底げんなりした顔で言った。血の臭いは降り続いた雨でもうしなくなっていると思う。だとすると……。
「わかった。そっちへ行こう」
俺は臭いのもとが何なのかは聞かずに言った。ディアナとリケはあまりピンと来ていないようだ。ヘレンはすぐに思い当たったようで、顔を少し歪めている。アンネが思い当たっている感じなのはゾッとしないな。
臭いのもとにはすぐにたどり着いた。隠蔽はされているが、あまり丁寧ではない。俺たちがいつやってくるか分からないし、しっかりとした隠蔽はできなかったのだろう。
それでも何も知らずに通りすがったら、異臭に気がつく可能性は少しあるが、そのまま通り過ぎてしまうだろう、と言う程度には隠されている。
俺はディアナとリケ、リディと
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