両手剣の試し斬り

 皆に鍛冶場の後始末をしてもらっている間に、柄に皮を巻きつけて滑り止めにした。これで真の完成である。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 俺はアンネに両手剣を渡した。それを受け取った彼女は、商談スペースの方へ移動していく。あっちの方がちょっと広いからな。

 アンネは両手剣をぐっと持ち上げ上段に構えた後、振り下ろした。ブゥンと空気ごと割れるかのような音がする。

 次は横薙ぎだ。やはり重い音がする。あれを剣で受け止めようとしたら、そのまま剣ごと叩き切られそうにしか思えない。

 あれを縦横に振り回せるだけでも、筋力が十二分にあることがわかる。種族の特性なのだろうか。


「昔のディアナみたいだ」


 いつの間にか俺のすぐ隣に来ていたヘレンがボソリと言った。


「綺麗だけど、実戦向きでないってことか?」


 小声で言った俺の言葉にヘレンが頷く。稽古はしてても実戦経験は積んでないってことか。


「それなら俺で対処できるな」

「舐めてると痛い目に遭うぞ」

「分かってるよ」


 筋力に任せてあの両手剣を振り回されたら危ないのには違いないからな。心配してくれているのはよく分かったので、ヘレンの背中をポンポンと叩いて感謝を示す。

 感謝が伝わったのか、ヘレンは少しだけ後ろに下がった。


「こいつを使ってみてください」


 俺は適当な丸太に一般モデルのロングソードを突き刺した的を用意して、アンネに声をかける。


「いいんですか?」

「ええ。壊れたら打ち直します」


 うちの自慢の品の一つではあるが、こういう役の立ち方もしてもらっても良いだろう。備品にしても良いし。


「それでは」


 アンネは両手剣をグッと横薙ぎ出来るように構えた。そのまま力を溜めるようにじっとしていたかと思うと、


「ハッ!」


 気合い一閃、真一文字に鈍い銀色の光が走る。キィンと甲高い音がして、両手剣はそのまま真横に振り抜かれた。まるで何にも当たらなかったかのように。

 だが、実際にはちゃんと的に中った事は明白である。丸太に突き刺したロングソードは、ちょうどその真ん中から上が姿を消していたからだ。

 一瞬だけ間を空けて、カランと音がする。少し離れたところに、ロングソードの残り半分が転がっていた。


「お見事」


 俺は拍手してアンネの剣の腕を褒めた。ヘレンの言うとおり、舐めていたら俺の上半身もああなりかねないな……。


「いえいえ、これが凄いんですよ。私の腕前はとても……」


 両手剣を手に謙遜するアンネ。


「それにしても、本当に凄いですね」

「それが仕事ですから」

「いえ……まぁ、そういうことにしておきましょう」


 彼女はそう言って含みのある笑みを浮かべた。やはり、ただの事情説明と注文だけじゃないんだろうな……。

 とりあえずそこには触れないでおく。出来ればこのまま触れずに帰って欲しいところだが、はてさて、俺の希望するとおりになるだろうか。


 そんな不安も抱えながら、俺は夕食の準備をするべく、鍛冶場を後にした。

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