貯水槽作り

 テラスは完成した。後は水槽だが、これは総出でやるまでもあるまい。

 今週中に一度狩りに出ておきたいってことだったし、サーミャ、ディアナ、リディ、そしてヘレンのハンティングチームは狩りに出てもらうことにする。

 ヘレン以外の3人は前に俺が作った複合弓で、ヘレンはサーミャが使っていた弓である。元の仕事柄、弓も使えないことはないらしいが、サーミャとリディに教わりつつ参加している。

 そのうちヘレン用の複合弓も作ってやらないといけないな。その時は彼女の力に合わせてちょっと強めに調整するか。

 それと、ルーシーもついていった。狩りに慣れてくれたらハンティングチームの大きな力になるだろうし、無茶をしそうになっても言えば聞いてくれるだろう。……尻尾をブンブン振り回してるけど、聞くよな?

 俺がふと心配を口にすると、


「猟犬も子犬から躾けるって言うから平気じゃない? この子賢いし」


 ディアナがそう言った。ママのお墨付きならいいか。弓を携えて、側に狼が控えている姿はさながら神話の女神のようでもある。

 今のところ、狼が子狼なのが絵面としては締まらないし、狩りなので服装が野暮ったいが。


「まぁ、気をつけてな」

「おう、いってきます」


 ブンブン手を振るサーミャを含めた4人を見送って、俺とリケで水槽を組み立てる。まず底板を敷くが、前の世界のフローリングみたいにさねぎで噛み合わせを作って敷いていく。

 凸側をほんの少しだけ太めにして、木槌で叩いて嵌め込む。十分に乾いた木の板であれば、この後水を含んで膨張するとよりしっかりと噛み合って、本格的な防水は無理でも、これで多少は漏れ防止が出来るはずだ。

 あんまり太くしすぎると割れたりするので、そこは調整が必要なのだが、この水槽の場合は鍛冶場設備に類するものということで鍛冶屋のチートのほうが働いてくれた。鍛冶場にあるのは石をくり抜いた水槽だが、焼入れを始めとした作業で何かと水を使うし、鍛冶場に欠かせないからなぁ。

 こうして底を作ったら、それにハマるように四隅の柱と壁板を作って組み付けていく。


 本来は縦長の板で円柱状に組み上げていって、金属製のバンドで締め上げたりする(前の世界ではアメリカのビルの屋上にある貯水槽がそうである)のだが、今回は簡易ということで四角い貯水ますにしている。

 一番低いところにあたる横板の一部だけ、田んぼに水を入れる水門(というほど大げさなものでもないが)みたいに、木の板をスライドさせることで水を抜けるようにしておいた。

 たった2人での作業だが、俺とリケの鍛冶師組の作業な上にそんなに大きくもないので、若干複雑ではあったが夕方頃には完成してしまう。


「こんなもんかね」

「これくらいなら、十分溜まりそうですね」


 出来上がった水槽を2人で眺める。飲料水用にするのなら落ち葉が入らないようにする蓋なんかが必要なのだろうが、生活用水なのでガランとしたままだ。

 屋根から樋を延ばすかどうか迷ったが、雨季の雨は結構降るらしいので、一旦見送ることにする。雨季が終わっても雨自体は時々降るのだし、その時でも間に合うだろうと言う判断である。


「こうして見てると風呂桶みたいだな」

「北方のお風呂ってこういうのなんですか?」

「ああ。こんな感じのに湯を貯めて、そこに浸かる」

「へえ、温泉が家にあるみたいですね」

「実家ではどうだったんだ?」

「うちは今と変わらないですよ。あ、でも偶に山の温泉には行ってました。怪我によく効くので」


 リケの実家は鉱山が近いところにあるんだったか。であれば温泉が湧いてることもあるだろうな。


「この辺で温泉があるってのは聞いたこと無いな」

「ですね。前にサーミャに聞いてみたんですが、温かい湯の出る泉は知らない、と言ってました」

「そうか……」


 前の世界ではシャワー派だったせいもあってか、こっちの世界で湯船に浸かれないことにあまり不満がない俺ではあるが、元日本人としては偶にそれをしたくなることがある。

 ましてや今の活計を立てる手段は日々汗だくになる鍛冶仕事である。湯に浸かることができれば、どれほどサッパリするか。

 リケともしかしたらディアナはその気持ちよさを知っているだろうが、他のメンツにも教えたいところだな。これは家風呂計画を前倒しにするべきかも知れない。

 そこまで考えたところで、クルルがのそりと小屋から出てきた。多分ハンティングチームが帰ってきたんだろう。

 俺とリケは皆を出迎えるべく、作業の後始末を始めるのだった。

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