厄介事

 おやっさんの店を出て、6人で街路を行く。

 時間帯によるのか、来たときにはもう少し空いていた道が混んでいる。俺たちは固まってスリなどを警戒することにした。

 俺とヘレンとディアナの3人で警戒すれば滅多なことはないだろう。ヘレンなんかは同時に目立たないよう武器に手をかけつつ、わずかだが殺気を放っている。

 この様子なら生半可なやつは近寄れもしないだろう。実際に俺たち集団の周りには少しだけ空間が空いていた。さすが凄腕の傭兵と言うべきか。


「気がついてるか?」


 ヘレンがかろうじて俺に聞こえるくらいの声で言う。


「ああ。3人か」


 俺がそう答えると、ヘレンはやはり小さく口笛を鳴らした。


「さすがだな。2人までは分かると思ってたけど、3人全員か」


 ヘレンが言っているのは俺たちを狙っている輩の数だ。いや、俺たち、と言うのは正確ではない。恐らくはリディを攫おうとしている。虎の獣人はそれなりにいるし、ドワーフもとても、と言うほど珍しくはない。ディアナも美人だが、手練れぽい人間に接近する危険を冒すだけの価値があるような格好を今はしていない。

 だがエルフのリディについては、もし上手くいけば一攫千金のチャンスに見えるだろう。

 家族だから連れて行かないのもなんだなと思って連れてきたが、今後は変装をさせて来なきゃいけないな。そもそも今回もそうすべきだった。街で平気だったから大丈夫かと思って油断した、俺の失態だ。


 そしてそれが3人。2人は目立っているが、1人は人混みに上手く紛れている。そこそこの手練れだ。”そこそこ”と言ったのは、リスクを冒してまで決行しないといけない連中の腕が良いとは思えないことと、そもそも俺たちに気付かれているところだ。

 足がつきやすいだろうエルフを金に換える当てはあるんだろうから、ただのチンピラでもないんだろうが。


「エイゾウ、どうする?」

「追っ手をまけるか?」

「……難しいな。こっちは人数が多い」


 まけるならそれが一番良かったんだが、仕方ない。


「このまま行けば人通りが少ないところに出るんだよな?」


 俺はディアナに聞いた。ディアナは黙って頷く。


「そこで仕掛けるか」


 そう言うと、今度はヘレンが頷いた。


 警戒を続けつつ、元々目的だった店へ向かう。

 目的の店は外街の中では高級だが、内街と比べると劣る……といったくらいの店である。

 内街の店にしなかったのは貴族向けだからで、貴族向けの豪奢なデザインは作るのが面倒だと言うのもあるが、そんな高いものを常に身につけているのもどうかと思ったからだ。

 手に入れやすい感じのものよりは、もう少しだけいいやつ、くらいの絶妙なところを抑えたいのだ。出来るかどうかはともかく。


 そういった外街の人々の大勢がおいそれとは買えない、かといって内街の貴族も足繁くは通ったりはしない感じの店が多いところなので人通りは比較的少ない。比較的、なので人にまぎれて接近するのがなんとか出来るくらいにはまだ人通りがあるが。

 そこへ進んでいくと、3人も徐々に距離を詰めてくる。動きから言って、2人に目を向けて1人がその間に……みたいなつもりなんだろうな。

 俺とヘレン、そしてディアナは目配せをして頷くと、スッと角を曲がって更に人通りの少ない路地へ移動した。

 3人が慌てて着いてきたので、俺達は立ち止まって声をかけた。


「さて、もう気がついてるのはわかったと思うがどうする?逃げるなら何もしないことを保証しよう」


 これで立ち去るなら、とりあえずは見逃してやる(余罪は山程あるとは思うがそれはそれとして)が、そうでないならこちらも対応するだけだ。

 バレた時点で失敗しているようなものだし、出来れば逃げて欲しいんだがな……。


 場に緊張が走る。3人は逡巡しているようだ。こう言うときにサッと決断できないのは減点だな。俺は懐のナイフに手を伸ばしつつ、相手の対応を伺った。

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