さあ繰り出そう

「おおー!」


 大きな街路を見て、サーミャが声を上げた。これだけの幅の道と人は街でも見ることはない。

 老若男女、種族さえも様々な人が通りを行き交ったり、露店を広げたり、立ち話をしている。

 その向こうには大きな城(前の世界のノイシュバンシュタイン城みたいなものとは違い、イメージ的には要塞に近い)がその威容をもって都の主の権勢を示している。


 ディアナは地元だし、ヘレンは時々来ていたみたいなので別として、初めて来た面々は目を輝かせている。リディもだ。


「いろんな人がいますね」


 目を輝かせたまま、リディが言った。今現在、都で1番珍しいのはエルフのリディだと思うが、それを面に出さないようにして、俺はつとめてのんびりと返す。


「リザードマン達は街ではほとんど見ないからなぁ」

「巨人族の人、大きいですねえ」


 リケが感心した声で言う。見た目には人間の少女に見えるが、ドワーフなので立派に成人している(らしい)彼女から見たら、俺たちよりもさらに大きく見えることだろう。


 完全「おのぼりさん」状態になってあちこちを見回す皆。それに負けず劣らずキョロキョロしているのがルーシーだ。

 尻尾をパタパタ振りながら、荷台の上を縦横無尽に動き回って、荷台から動く景色を見ている。

 ヒョコッと荷台から顔を覗かせると、近くに居た通行人は一瞬ギョッとするが、すぐに和やかな顔になる。

 大人の犬(狼)だったら怖さの方が勝つかも知れないが、ルーシーはまだ子狼で、愛嬌がある。

 もちろん犬が苦手な人はこの世界にも多くいるとは思うが、大抵は可愛さに軍配が上がるだろう。

 そうやって通行人や露天の人々を和ませつつ、その様子に車内の俺たちも和みながら、竜車はエイムール邸へ進んでいった。


 エイムール邸に着くと、カテリナさんの指示で客用の馬車止めに竜車を止める。

 クルルを車から外したり、ルーシーを荷台から下ろそうとしていると、屋敷から使用人の人達が出てきた。


「皆様、ようこそお越しくださいました」

「ボーマンさん。それに皆さんもわざわざ出てこなくても結構でしたのに」

「いえいえ、お客様がいらしてるのにそんな無礼な真似をいたしますと、エイムール家の名に関わりますので。生憎当主は出かけておりますが、自分の家と思ってお使いください。そう仰せつかっておりますので、ご遠慮なく」

「ありがとうございます」


 声をかけてきたのはボーマンさんだった。相変わらず雰囲気が柔らかい。恰幅の良さが拍車をかけているようにも思える。使用人の人達もニコニコと俺たちを出迎えてくれた。

 マリウスはいないらしい。まぁ、普通の日に伯爵が暇、ってのは王国大丈夫かとはなるもんな。


「お嬢様もお元気そうで何よりです」

「ええ。皆も変わりないみたいで安心したわ」


 ボーマンさんはディアナにも声をかける。ディアナもそれに応える。

 すぐに女性の使用人の人達とキャッキャし始める。前に帰ってきたときもそうだったけど、仲良いんだよな。

 ディアナはそのままうちの女性陣――俺以外全員だが――の紹介を始めた。


「大事なものは屋敷の中でお預かりいたしましょう」

「すみません、助かります」


 それを横目にボーマンさんと俺は荷物を屋敷に入れる。と言っても俺の刀といくつかの武器くらいで、それもすぐに済んだ。


「そろそろお食事かと思いますが、どうされるので?」

「ああ、行こうと思ってるところがあるんですよ。用意してくださってたらすみません」

「いえいえ、旦那様が”おやっさん”のところに行くだろう、と仰っていたので、失礼ながらご用意はいたしておりません。お気になさらず」

「それを聞いてほっとしましたよ」


 俺は偽らざる自分の心境をボーマンさんに伝えた。あらかじめちゃんと連絡しておくべきだったな。危うく食事を無駄にするところだ。マリウスのおかげで助かったとは言っても、今後は気をつけるとしよう。


「おーい、行くぞー」


 俺はまだ話している皆に声をかける。名残惜しいだろうが、用事が早く済めばまた戻ってきて、お言葉に甘えてゆっくりさせて貰えばいい。


 皆から返事が返ってきて、エイムール邸を出る。振り返ると、カテリナさんがルーシーを抱っこして手を振っていた。


 さて、繰り出しますか。

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