薄氷
そして刃が西洋剣と比して遥かに薄いので”薄氷”、読み方は源義経の刀である”
だから読み方は「はくひょう」ではなく「うすごおり」なのである。
「氷かぁ」
「見たことあるのか」
サーミャの呟きに俺が反応すると、彼女はコクリと頷いた。
「ここらも雪なんかは滅多に降らないけど、寒い年はあったからな。そのときに汲んであった水が凍っててビックリした」
「なるほどねぇ」
一応、母親から短い子育て期間中に水が凍ることは聞いていたので、そういうことがあるのは知っていたが、やはり聞いているだけと実際に見るのとでは大きく違うらしい。
そこへディアナが加わってくる。
「3年前かしら?」
「あー、それくらいだったかな?」
「確かにあの年は特に寒かったわね」
この森と都は比較的近い。であれば概ね同じような気候だろう。
ここは森の中なので、風の勢いが違うとかの違いはあるだろうが、天候的な面でサーミャとディアナの経験はこの5年で言えば似たりよったりのはずだ。
「私の工房はあんまり寒くならないので、楽しみといえば楽しみですね」
「風の流れのせいなのか、私の森も比較的温暖でした」
リケとリディの住んでいたところはそう言う感じらしい。
流石にこれだけ人の行き来がある時代なので、氷がどういうものなのかとか、そもそも言葉を知らないとかそんなことはないが、見たことがない人は割といるみたいだな。
前の世界で、海なし県に住んでてほとんど海を見ない人みたいな感じか。あっちの方は流石に人生で何度も海自体は見たことがある、って感じだろうが。
「アタイはアチコチ行ってたから、デカい氷も見たことあるぞ」
ヘレンは傭兵稼業だから、仕事で寒い地域にも行ったことが何回もあるらしい。一番寒いところで雪が1メートルほどつもるところだそうだ。
本来はそんなことなく普通に仕事できるはずだったのが、突然の寒波でそうなったらしい。寒すぎて仕事にならなかったみたいだが、そりゃそうだろうなぁ……。
この世界でも北のほうが寒い……と、インストールにはあるので、この世界では北方の出身ということになっている俺が、氷を見たことがあるのは不思議でもなんでもない。
いずれここでない地方への旅行に行って見聞を広めたいところではある。
それぞれの住んでいたところの気候を話しながら鍛冶場に戻る。ディアナとヘレンはこのまま稽古だ。クルルとルーシーはそれの見学をするらしい。
鍛冶場に戻って、神棚の下に薄氷と号されるようになった刀を戻す。その後片付けて、この日は終いになった。
翌日、一通り朝の日課を済ませたら、鍛冶場に火を入れる。鍔と
外から持ってきた材木に薄氷を当てて型をとる。この形に鞘を作るのだが、刀身が浮くように作らねばならないのが難しいところだ。
と言っても、ほぼ全てチートで賄うのだが。
刃の形に鞘の内側を彫ったり、膠で張り合わせたりと言った工程は前と変わらない。
鞘には西洋剣の鞘にも使っている油を塗ったが、そのうち漆塗りにしたいところだなぁ。北方から入ってきていないか、またカミロに聞いてみよう。
鞘を乾かしている間に、鍔や栗形なんかの部品を作っていく。納品するものでもないし、護身用だからシンプルにしておいた。
気になったら休みにしたときにでもコツコツ作ればいい。
小物の方は鋼で作るのでスイスイとできた。それらを組み合わせて一振りの刀にしていく。
そして、ほぼ白木の鞘に、柄巻きは革の日本刀が出来上がった。早速、布をサラシ代わりに腰に巻いてそこに刀を差す。
軽く抜き差ししてみるが、特に問題はない。これでいつでも持ち運べるな。
持ち運べはする……のだが、俺の今の服装はいわゆるRPGの村人スタイルである。
鍛冶仕事のときは革製のエプロンをつけたりしているが、基本的な格好は上は麻の服に革ベスト、下も似たりよったりな感じで、そこに簡素とは言え刀を下げているのである。
俺の個人的な美意識では違和感がものすごい。
「なあ、変じゃないか?」
俺は思わず皆に聞いてみたが、特におかしいとは言われなかった。そもそも和服を見ることがほぼ無いからだろうな、これ。
そのうち、和服も手に入れたほうが良いのかも知れない。もしくは剣吊りのようなものを作るかだな。
色々と問題は残ったままだが、ひとまずは強力な護身用の武器は完成したのだ。これで外へ出る時の安心が増えてくれるといいのだが。
俺はそう思いながら、一揃いを神棚の下に安置した。
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