関所を通る
今日も朝イチから移動なので、俺も御者さんも起きて一緒に朝飯を食っていた。周りにも状況が同じであろう人たちが朝食をとったり、それもそこそこに出立していったりしている。
そこへカミロが戻ってきた。スッキリしたようなそうでないような微妙な顔をしている。
「で、どうだった?」
俺はカミロに聞いてみる。無論、娼館のレベルの話ではない。
「ああ。いくつかの情報の裏付けはとれたな。どの街にいるのかは確定だ。」
「普通に良い情報じゃないか。」
「ただ……」
「ただ?」
カミロは俺に顔を寄せ、声を潜めて言った。
「ちょっと思ったより決起が早くなっていそうだ。」
「それはそれは……」
「後は道すがら話そう。」
「ああ。」
カミロが宿の食事をかきこむように食べたあと、三人一緒に外に出る。昨日はもう殆ど日が暮れていたのではっきり見えなかったが、山がその姿を見せている。国境はその山の方にあるはずだ。
俺たちは馬車に乗り込んで国境を目指し、街を出た。
この辺りでは唯一らしい街道を馬車で行く。途中で分岐するようなところもなくなり、どんどん山が近づいていくる。この様子だと、昨日宿泊した街はほとんど前線基地ってことだな。
やがて馬車は山の麓辺りに到着する。国境と思しきところには木の柵が張られていて、逆茂木が据え付けられている。そのすぐそばには石造りの砦があり、そこから周囲を見通せるようだ。物見台と思しきところには弓を背負った兵士が立っている。
砦の外周には馬が繋いであった。非常時にはあれで追いかけたり、伝令を飛ばしたりするのだろう。
柵が途切れたところには簡易の門があって、前の世界の時代劇に出てくる関所のようにも見える。いやまぁ、実際に機能としては関所なわけだが。
違うのは立っている衛兵が重武装なことと、砦と門のあたりに帝国のものだろう紋章が描かれた旗が風をはらんではためいていることだ。
そこに通過チェック待ちの列ができていた。通常なら帝国側から王国側に抜ける方もそれなりの行列ができていても良さそうなものだが、そちらはほとんどいない。出国禁止と言うのは本当のようだな。
ただ、そちらは荷物に帝国の住民が隠れたりしていないかのチェックなんかでやたら時間がかかっているみたいだ。
通常なら帰りはここを通る必要があるわけだが、俺やカミロは勿論、御者さんもヘレンも帝国民ではないから、多分大丈夫だろう。行きも帰りもよいよいといきたいところだ。
俺たちは帝国へ入国する方の列に並ぶ。ジリジリと列が進み、俺達の順番になった。衛兵が俺たちに声を掛ける。
「入国する目的を述べよ。」
「私は行商人で、これから街を巡って商売をします。こちらが証になります。」
カミロは懐から木札を取り出すと、衛兵に渡す。衛兵は内容を確認すると、頷いてカミロに返し、今度は俺に声をかけてきた。
「お前は?」
「へい、ヨシミツという北から流れてきた鍛冶屋で、この方にくっついて鎌や鍬なんかを直したり打ったりするんでさあ。」
「それも私の商売になっています。」
俺の説明をカミロが引き取る。これで大丈夫だとカミロは言っていたが、こんな経験はしたことがない。前の世界でも海外旅行なんかしてないからな。
俺の名前が偽名なのは念の為である。とは言ってもちゃんとした戸籍謄本なんかがあるわけではないし、あったとしても俺にそんなものは存在しないから、本当に念の為でしかないが。
「……」
衛兵が俺の顔をじっと見るので、俺はあまり得意とは言えない愛想笑いをする。
「よし、通っていいぞ。」
内心ホッとしながら衛兵に頭を下げると、馬車は進みだした。
「ああ、ヒヤッとした。」
「ここは綺麗な道がここだけだし、山も近いからあんな設備があるが、普通はないからなぁ。」
「そうなのか?」
「何のために街に外壁や門があると思ってるんだ?」
「なるほど確かに。」
柵もあるが、関所の機能はつまりはもののついでなんだろう。本当の機能はここで王国からの侵攻を発見、足止めして時間稼ぎしつつ早馬を飛ばして援軍を呼びその間持ちこたえることのようだ。
ただ、この砦を大きく迂回できなくはない。山を越えるというリスクをとれば関所を通ることなく帝国から王国、あるいはその逆も可能だ。実際そうしようとした人もいるのだろう。どうなったのかは知る由もないが。
「それで、どうなんだ?」
街道に誰もいなくなったところで俺はカミロに聞いてみた。
「娼館の娘が言うには、この数日で”俺と同じような行商人”がたくさん通ったってよ。」
「それで決起が早まりそうって話をしてたのか。」
「そうだ。」
「しかし、急に武器が入りだしたら帝国側に怪しまれないか?」
「それもあるからだよ。帝国の調査が終わる前に決起してしまえば、不意も打てるし。」
「なるほど。」
俺はこういった
「それで、お前には悪いがいる街も分かったし、今日は街へ宿泊せずになるべくその街を目指す。休憩は必要だから野宿だな。」
「わかった。」
「すまんな。おい。」
声をかけられた御者さんは頷くと、馬に鞭を入れる。サスペンションのおかげで多少速度を上げても平気ということもあって、俺たちの載った馬車はなかなかの速度で街道を駆けていった。
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