出来たものの確認
作ったばかりの投槍器と投げ槍を持って庭に出る。まずは投げ槍をそのまま投げてみる。戦闘のチートもそこそこ貰っている(そこらの人間よりはかなり強いようだ)のでその分は差し引いて考える必要があるが、指標としては十分だろう。
庭……というか家の周辺は結構広い。100m~200mが確保できるくらいあるのだ。でないと弓の練習が出来ないし、畑や増築するスペースも確保できないしな。
実際に飛んだ距離は目測でいいだろう。実際に使うときがもし来たときもレーザー測距計で距離を測って投げるなんてことはないわけだし。
担ぎ上げるような格好で槍を持ち、少しだけ助走をつけて投げる。前の世界のやり投げの記録はおおよそ100m前後だが、当然俺がそこまで投げられるわけもなく、目測でおおよそ50mほど飛んだ。威嚇するだけならこれでも十分過ぎるな。
次は投槍器に槍をセットして投げる。テコの原理で大きな力を得た槍は俺の思ったよりも遥かに飛んでいき、おおよそ140mほど飛んで地面に深々と突き刺さる。
確か前の世界でも芸人さんが投槍器で槍を投げて100m先の風船を割ったそうだし、投槍器はそこそこは使えるのかも知れない。
ただ、狙撃では弓矢に劣るし、近距離は投石機(トレビュシェットのような大型のものではなく、スリングと呼ばれる個人で使うもの)のほうが弾丸の調達もしやすい。携帯できる弾数も槍と矢では文字通りケタが変わってくる。前の世界でかなり古代から使われていたらしいのに、後世まで残っていた地域が少ないのはその辺りに理由がありそうだ。
とはいえ、総鉄製の槍が遠くから自分を目がけて飛んでくるのはインパクトがあるし、こちらの兵科に投槍兵がいるかはわからないが、慣れていても投槍器なしに投げ返したところでこちらには届かない。そして届く頃にはとっくに弓の射程に入っている。そうすると作ったのも無意味ではないか。
作った投槍器と槍の具合を確認したが、まだ少し時間があるので、もう2本ほど予備の槍を作っておいた。基本的には投射武器だし、弾がないと意味が薄れるからな。
俺の方は早めに片付いたので、リケの作った魔力込みのナイフを見てみる。俺の作る高級モデルと比べるとギリギリもう一歩と言った感じではあるが、一般モデルと言うにはやたら出来が良い。普通の工房ならこれで家に帰っても良いくらいじゃなかろうか。俺がそう言うと、
「親方が特注で作っているものに手がかかったら、が目標ですから。」
「けっこう長いと思うぞ、それ。」
「もちろんです!でないと弟子入りの意味がありません!」
フンスと鼻息も荒くリケは返してくる。最初来た頃は魔力のことは俺も知らなかったので、ドワーフとして鉄の組成を活かせば高級モデルまでならいけると踏んだのだが、今は魔力の存在も分かっているから、本当に俺の特注に手が届くかも知れない。
俺のはチートなので具体的に教えたりできないのが心苦しいが、見取りでも頑張ってほしいところである。
「それはそうだな。」
リケが家に帰ると言い出したときには、とんでもなく寂しさを感じるんだろうな、そう思ったが、それは顔に出さずに俺は微笑んだ。
そのあと、リケと俺で後片付けをしているとカランコロンと作業場の鳴子が鳴った。狩りに出ていた組が帰ってきたようだ。
「ただいま。」
サーミャが勢いよく作業場に入ってくる。随分と機嫌がいい。
「おう、おかえり。」
「あの弓のおかげで今までで一番デカい猪を捕れたぜ!」
ああ、それで機嫌がいいのか。
「おお、それは良かった。作った甲斐がある。」
「3人共弓が使えると言うのも大きかったわね。」
「気取られる前に射掛けられるのはいいですね。」
ディアナとリディが続いて言う。今まではずっと勢子だけしてたみたいだしなぁ。その辺り臨機応変に対応できると色々楽になる、というのはわかる気がする。
「じゃあ、明日の昼は少し豪華にしないとな。」
「ヒャッホウ!」
俺の言葉にサーミャが喜び、リケがたしなめ、皆で笑ういつもの光景がそこにあるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます