作刀2日目

 翌日、今日は素延べの次の工程からになる。いよいよ刀の形を作っていく工程、火造りだ。今日の作業からはリケも見学をする。サーミャとディアナ、リディは剣の型作りだ。

 ドワーフ製の刀とかなかなかロマンのある話でいいな。頑張って作れるようになって欲しいところだ。


 火造りはまだ全体的には四角形でしかない素延べの状態から、熱して叩き、断面を細長い五角形にする作業である。当たり前だが、五角形の1つの頂点が刃先となる。

 刃先の逆の辺が棟(峰)で、その両脇の辺がしのぎ地になるわけだ。素延べした刀身を10cmくらいずつ加熱して叩いて整える。

 そのあと、柄の中に収まる部分である茎の形もつくり、切先も峰側の先端を三角に落として叩いて形作っていく。刀の切先も長かったり短かったり、丸かったりやや直線に近かったりといろいろあるのだが、今回は丸くて短めのくび切先にしておいた。


 前の世界だと、このあたりの形状で概ねどの時代のどこの刀工のものか、みたいなことが分かるのだそうだが、この世界ではそう言うことも関係ないし、基本的には俺の感覚ベースのチート任せである。

 この時に反りについても、後で焼入れをしたときのどれくらい反りが出るかを考えてある程度作っていかねばならない。俺はチートで随分と楽をさせてもらっているが、前の世界での刀鍛冶の方々がどれだけ凄いことをしているか、こうやって自分で作るとよく分かるな。


 そうして作業をしていくと、俺のよく見知った刀の形ができあがった。だが当然ながらまだまだ完成ではない。

 一旦全体が冷えるのを待ってから、再び加熱をする。今度は赤熱するほどには加熱せずに低めの温度で全体を熱してから冷ます。

 表面には酸化鉄の被膜があるので砥石で落とした後、鎬地と平地(鎬から刃先にかけての平らな部分)を鎚で叩いていく。これで締まって斬れ味が増す……ようだ。チートでやってるから本当なのかどうかはちょっと分かっていない。


 その作業も終わったらいよいよ焼入れ……ではなく、いくらチートを使っての作業とは言え、鎚で金属を叩いているので、大小はあれど刀の表面には凹凸がある。

 これをヤスリや専用のカンナ(ないので特注モデルナイフで代用)で削って平らに整えるのだ。微妙な歪みもここで整える。茎と刀身の境もこの段階で作った。

 これで刀の形をつくる、と言う作業はようやっと終わる。


 型に使っている粘土、砥石の粉、木炭の粉を混ぜてやきつちを作る。前の世界だと配合が工房や職人で違っているようだが、俺の場合はここもチート任せである。

 刀身の全体に薄く焼刃土を塗っていく。全体に焼刃土を塗って、刀は黒く化粧された常態になる。さて、ここからがある意味一番の悩みどころだ。


 刀には焼入れしたときに急冷されるところとそうでないところの境目に、違う組織が混じったものが刃文として現れる。この刃文の形はこの段階で土を塗って決めていくわけだが、この形状が色々ある。

 詳しい分類は省くとして、基本的に俺の好みは刃文が波打っていない直刃すぐはか、ゆったりと波打っているのたれ、もう少し波が詰まっているなので、どれかにはなるのだが、ある意味刀の一番の顔ともなる部分なだけに、どれが良いのかセンスが問われる。


「よし。」

 俺は焼刃土を塗るための細い棒(その辺の木材を割って作った)を手にとって焼刃土を塗っていく。本当は筆なんかを使って刃文の下書きをしたりするのだが、この辺もチートに任せてしまう。

 本来ここで筆を使ったりすることはリケには伝えておいた。いきなり土を置こうとして上手くいかない、って悩んでもいけないからな。


 こうして焼刃土を塗り終わる。棟側が分厚く、刃側が薄い。こうすることで刃の側は硬め、棟の側は柔らかめになることで更なる斬れ味と耐久性を得るのだ。

 今日このまま焼入れまで済ませてしまおうかと思ったが、もう日が暮れかかっている。焼入れ自体は明日のお楽しみだな。

 

 俺たちは作業場を片付けると、夕食の準備の前にかまってやれなかったクルルをかまうべく、一旦外に出た。クルルはすこし拗ねていたが、俺やディアナが撫でたりしてやると、機嫌よくそこらを走り始めるのだった。

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