新たな日常

 荷車は昨日で完成していた。リケとリディでナイフの一般モデルの作成と魔力周りの練習をして、サーミャとディアナは狩りに出ていた。つまり、今日は獲物を回収する日だ。

 5人で回収に行ったことはあるが、今日はそれにクルルが加わる。大物の時は5人でもなかなか大変だったが、クルルが入るとかなり楽になるのではと思っている。

 今回、荷車とミニ荷車は使わない。あそこで作る運搬台を家でバラして乾燥させたものが、そのまま材木になるからだ。

 湖に沈める場所は獲物を捕らえた場所の近くになるので、毎回少しずつ違う。なので多少の伐採は問題にならない……はずだ。週1でどこかしら伐っているから、そのうち考える必要が出てくる可能性はあるが。


 皆で沈めた場所まで向かって引き上げ、運搬台を作ってそこに載せるところまでは変わらない。今日からはこれを引っ張るのがクルルになる、というわけだ。

 引き上げもクルルに手伝ってもらうことを考えたが、それくらいは自分たちでやったほうが良かろうと言う話になった。過保護にも思えるが、冷徹に考えても安くはない走竜を使い潰すのもうまい方法とは言えまい。

 偽悪的なことを言ってはみたものの、実際のところは、クルルは楽しそうに運搬台を牽いている。これなら今後も連れてきて良さそうだ。


 クルルのおかげもあって、いつもより早く家まで戻ってくることが出来た。

「ありがとう、クルル。」

 ディアナがクルルに感謝の言葉をかけながら、首筋を撫でる。他の皆も同じようにしていた。もちろん、俺も。

「クルルルゥ。」

 クルルは目を細めて嬉しそうにするのだった。


 引き上げてきた獲物――今日は猪――の解体をする。今日から一部はクルルのご飯になるので、その分は取り分けておく。

 ほとんど食べないと言っていいほどの量しか食べないので、今日食べる分と、下処理せずに干すことだけを行う分は別にしておいた。これでクルルの向こう2週間ほどのご飯は確保できた。

 草はその辺のを気が向いた時に食べている。毒草がないかはリディに確認したが、見たところ変異でもしてない限りはない、とのことだったので特に止めたり用意などはしていない。

 主食は森の魔力だし、栄養素云々とかは考えないことにした。前の世界での知識で太刀打ちできる生物ではなさそうだしな。可愛ければ良いのだ。


 獲物を引き上げてきた日であるので、今日の昼飯はその肉を使った料理になる。ポークステーキでも良かったのだが、今日は焼き肉風にする。いずれ発酵種を使ったパンでカツレツと言うかシュニッツェルと言うか、完全に揚げるのではない料理にも挑戦したいところだ。


 昼飯が終わったら、俺は高級モデルの製作をする。今日から2週間分の在庫を急いで作っていく必要があるからな。他の皆は休みではあるが、リケは俺の作業の見学と練習、サーミャとディアナはリディを手伝って中庭の畑の整備をするらしいので、半分は仕事のようなものだ。


 俺が今日作るのはショートソードとロングソードだ。型から出しただけのものをいくらか残しておいてくれたので、それらをガンガン仕上げていく。これが無くなったらナイフだな。


 ショートソードとロングソードの作業中、作業場に家の方からディアナが入ってきた。すこし血相が変わっているような感じである。確か畑の作業をしていたと思ったが。

「クルルがずっと小さい荷車の前にいるんだけど……」

 ああ、そう言うことか。

「ついてる縄を肩の辺りにかかるようにしてやれば、喜んでひっぱるぞ。」

「そうなのね。わかったわ。」

 ディアナは「すっ飛んでいく」という言葉が似合う速度で飛び出していった。やっぱりあれクルルとしては遊んでもらっている認識だったのだろうか。

 朝の水汲みは毎日のお仕事、小さい荷車や狩りの時の運搬台は遊んでもらっていると言う認識っぽい。大きい荷車はどうだろうな。装具をつけるし、長い距離を移動するから大事なお仕事、と思ってくれたらいいが。


 黒の森の魔力が豊富なせいで元気が有り余っているのか、程なく外からは「クルル」と鳴く声と、ガラゴロ荷車を牽く音がしはじめた。

 俺はその音を聞きながら、”いつも”にまた1つ項目が増えたことを嬉しく思うのだった。

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