大量修復

 リストにはロングソードがたくさん、盾が少々、鎧の胸当てが1つあった。なかなかの激戦を想像させる。今日で片がついたのなら良いのだが。

 兵士達が持ってきた樽の数も4つほどある。これは今日中には終わらんかも知れんな。俺は樽の中から全てを一旦取り出した。


 樽4つぶんの武具は流石に量があった。出張所に所狭しと居並んでいる。俺はそいつらを直す時間が少なくて済む順番に並べていく。

 なるべく直す時間が短いものを修復することで、1つでも多くの武具を使用可能な状態に戻していきたい。そうすることで同じ時間でも使える武具が増えることに繋がるだろうし。いざと言うときには、その1つがみんなの生死を分けることがあるかも知れないからな。


 まずは軽く歪んだロングソードの修復から行う。火の用意もいらないし、作業工程事態も叩くだけとシンプルだ。

 むろん、1回や2回叩けばすぐ直るようなものは、そもそも不具合が起きていると認識されておらず、持ってきてはないだろう。つまり、修復には最低限それ以上の時間がかかることが確定している。

 だが、こいつらから片付けないことには始まらないので、1本を手に取ると、金床に置いてチートで歪みをチェックしながら鎚で叩いていく。


 やや強引ではあるが、チートのおかげで大して時間をかけずに1本を修復できた。これが後2桁近くある。ホッとしたりげんなりしている暇はないし、俺は修復し終えたものを樽に入れて、次の1本を手にとって叩き始めた。

 ガンガン修復を続け、軽い歪みの修正が必要なものは全て修復し終えたので、それらが入った樽に研ぎが必要なものを一緒に入れて、砥石台のそばに持ってくる。空の樽も持ってきて、砥石台のそばに並べた。


 ロングソードの入った樽から1本を抜き出して、チートで確認しながら研ぐ。出来栄えは余り気にせずに、使える状態になればいい。同じ作業は纏めてやったほうが効率がいいので、研ぎの作業だけは纏めてできるように調整したのだ。

 そんなに経たないうちに1本が仕上がる。チートを使わない状態ならもっと時間のかかる作業ではあるが、チートで出来栄えを気にせずにやるなら、さほどでもない。

 この後も桶から取り出して研いで仕上がったら別の樽へ、と言う作業を繰り返していき、やがて研いでない方の樽には何もなくなった。

「これでロングソードは一旦は終わりか。」

 2桁と少しの剣が前線に戻せる状態になった。大きく歪んだ数本はまだ未修復のまま残っているが、補充としては十分な数を確保できたと言っていいだろう。


 次に盾2つを修復する。片方は叩いて直せるが、もう片方は穴が空くほど凹んでいて、補修するには熱さないとならないし、熱する場合、盾では持ち手を外したりなんだりとするのが非常に時間がかかるので、こっちの方は一旦修復不能と判断する。

 叩いて直せる方の盾も、剣以上に叩いて直す必要があるのはチートで確認しても確かだな。さっさと取り掛かろう。


 盾は緩やかにカーブしている。なので、凹んだ部分はそれに沿って修復する必要がある。当て木をするのが良いのだろうが、ここはチートでなんとかしてしまおう。

 まず最初に凹みを逆側に叩き出していく。こうしてまずは平らに近い状態まで戻す。このあと、魔力が少し入るようにしながら、カーブが戻るように角度をつけながら叩き出す。普通ならこんな修正では元の性能にはならない。

 前の世界で言えば、一度中央を凹ませた空き缶を元に戻そうとするようなものである。一見すれば元に戻ったように見えるかも知れないが、よくよく見ればあちこちにひずみが出来ている。

 それと同じで裏から叩いてもそう上手くは事が運ばないものだが、そこはチートと魔力の合わせ技でなんとかしてやるのである。

 やがて、盾はほぼ元の丸みを取り戻した。確認すれば細かい歪みはまだあると思うのだが、前線で修復する範囲としては十分だろう。


 ここでもう日が傾きつつあった。まだ胸当ての修復が残っているのだが、これは今日中に仕上げる必要があるやつなのだろうか。大きく歪んだロングソードは亀裂が入っていたり、全体の加熱が必要だったりで更に時間がかかりそうなため、修復を見送ることにするとして、そこの確認がいるな。

 俺はリストを手に一旦出張所を出て、指揮所に向かうことにする。


 指揮所の天幕に入ると、中は落ち着きを取り戻しつつあった。俺が修理している間に、帰還してからかなりの時間が経っているだろうからな。マリウス達も作戦を練るためのテーブルの辺りに居て言葉をかわしているが、喧々諤々ではなく、確認を繰り返すような感じである。

 フレデリカ嬢が修理の依頼に来たし、撤収の命令も降りてきていないから、失敗か成功かはともかく明日も作戦が続くのだろう。明後日までは延長しても予定のうちだから、今日は比較的損害が軽微なうちに撤退してきたのかも知れない。


「フレデリカさん。」

「あ、エイゾウさん。終わりましたです?」

 そんな指揮所でも、比較的忙しそうにしているフレデリカ嬢に声をかける。

「いえ、後は胸当てが残ってます。時間的にそろそろ日が落ちるので、今日修復するなら篝火がいりそうなので、今日中に修復が必要そうならその手配をと。」

「なるほどです。胸当ては予備があるので、明日以降でもかまいませんです。」

「あとですね、この辺の盾と剣がここでは修復不能です。どうしてもと言う場合は直せますが、かなり応急になりますね。」

「分かりましたです。修復できない分はそのままで大丈夫です。今日修理が終わった分は後で引き取りに向かわせますです。」

 修復不能と判断したものをリストで指差すと、フレデリカ嬢は新しい紙を取って、そこに何かを書き付けていく。支払いに影響するし、帰った時に別途どこかで修復(するか鋳潰してしまうかはともかく)する依頼書みたいなのもいるだろうから、多分そう言ったたぐいのものだろう。

「それじゃあ、これはまた明日持ってきますね。」

 俺は持ってきたリストを手に取る。

「明日には片付くと良いですね。」

「ええ、そう願ってますです。」

 俺は指揮所を後にする。明日からの修復の予定を考えつつ、出張所に戻った。

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