新製品

 いくつかの物を仕入れて、カミロの店を出る。街は都ほどは大きくも人が多くもないが、都に負けず劣らず活気には溢れている。その中を男1人女3人で荷車を引いて通る(引いてるのは俺とリケの二人だが)わけだから、目立つには目立っている。ただ、荷車がなければ似たような構成のグループはちらほらいる。ほとんど全員が旅装を纏ったままだが、あれらが冒険者と呼ばれる人たちだろうか。

 俺はこの世界では"鍛冶屋のオッさん"として二回目の人生を全うする気でいるが、別のチートを貰っていたら、あんなふうに旅をしていたのかも知れない。そう思ってぼんやり旅人たちの姿を眺めていたら、

「なんだ、エイゾウ、旅にでも出たいのか?」

 サーミャに見咎められた。その声でリケとディアナもこっちを気にしたのが分かる。

「まさか。"わけあり"で北方からここまで流れてきたんだぞ。もうあんな苦労はゴメンだ。」

 俺は作り話でごまかす。サーミャ相手だとバレないかどうかでヒヤヒヤはするが、「わけあり」も「よそから流れてきた」も嘘ではないからな。流れてきた移動手段がちょっと尋常じゃないだけだ。

「まぁ、物見遊山でちょっと出かけるなら、良いかも知れないな。」

「ふーん。」

 サーミャはそれっきり、その話題には興味を失ったようだ。とりあえずバレなくてホッとした。と、同時にリケとディアナがホッとため息をついたのが聞こえた。

「なんだ、どうした二人とも。」

「親方はこう、危なっかしいんですよね。別に鍛冶の腕前がどうとか、誰かに襲われそうとかではなくて、突然前置きもなくフラッと居なくなってしまいそうな感じがします。多分サーミャも同じこと考えて、それで聞いたんだと思いますよ。」

 リケがそう言うと、隣でディアナがウンウンと頷いた。まぁ、他の世界からフラッとやってきたのは事実だからな。

「少なくとも"家族"に黙っていなくなるようなことはないよ。」

「はい!」

 リケを含めた3人がそれを聞いて安堵の笑みを浮かべていた。


 帰り道も警戒をしつつ進んでいくが、特に何事もなく無事に帰り着くことができた。今日までディアナの一件を除いては特に何事も起きてはいないが、これはなかなかに幸運なのだろう。この世界に神様がいるのかは知らないが、いるなら感謝しておこう。

 家に着いたら、荷物を運び入れる。サーミャとディアナには家へ火酒や塩なんかを運んでもらって、鉄石と炭は俺とリケで作業場に詰め込む。鉄石の消費が補給に追いついてないな。とは言え、何があるか分からないし、まだ鉄石は貯め込めるから、しばらくはカミロに供給してもらっても問題はあるまい。やばくなる前に倉の建設しても良いかもな。

 そうして、荷物を一通り運び終えると、サーミャが俺を呼んでいる。

「どうした?」

「雨の匂いがする。風向きと合わせると、ちょっと長引きそうだぞ。」

「どれくらいだ?」

「はっきりとはわかんないけど、1週間はない。3日くらいかな。」

「そうか。」

 流石に3日分の水を確保しておけるだけの水瓶はない。とりあえず往復30分程度だし、明日の分は今日汲みに行っておくか。


 水を汲みに戻ってきたら、夕食の準備をする。今日は”いつも”のメニューだ。胡椒を追加購入したのでスープには少し多めに入れてある。この日の夕食はここまで旅をしてきたリケと、時々父親に連れられて遠出していたディアナの、2人が行ったことのある場所の話で盛り上がった。鉄石なんかは都を出ている時に見えた山から採掘されているらしい。機会があれば見学に行きたいところだ。


 翌日、恐らくは夜半過ぎから降っていたであろう雨が降り続いている。結構な雨脚なので、昨日のうちに水を汲みに行った俺の判断を、自分で心から感謝した。

 今日は板金いたがねの補充をする。鉄石を炉で溶かし、取り出した鉄を叩く。今回からはディアナも加わっている。この段階ではそこまで気を使う必要がないからな。炉は止まることなく鉄を吐き出し続け、俺達は板金を作りつづける。この日の終りには相当な数の板金を生産できた。ディアナは慣れない作業なのもあってか結構堪えている。

「おつかれさん、ディアナ。」

「あなた達っていつもこんなことしてるの?」

「週に一回はこれやらないと、材料が無くなっちまうからなぁ。」

「あなた達の力が強いのって、こう言うのもありそうね。」

「サーミャとリケは元々強いのもあるけどな。俺はそうかも知れない。」

 俺のはチートで貰った分もあるけどね。話を聞いていたサーミャとリケがふざけて力こぶを作っている。サーミャもリケも中々立派な力こぶだ。それを見てディアナが吹き出し、作業場が笑いに包まれ、この日の作業は終わりになった。


 サーミャの言ったとおり、翌日も雨が続いているが、昨日よりは大分マシだ。ササッと水汲みだけ行ってしまおう。

「ひゃー、濡れた濡れた。」

 思いの外しっかり濡れて水汲みから帰って来ると、ディアナが

「おかえりなさい。体拭くんでしょ?はいこれ。」

 と、布を出してくれた。

「お、ありがとう。」

「どういたしまして。」

 ニコリと笑うディアナ。俺は照れた顔を見られないように、ササッと部屋に戻るのだった。


「今日は俺は新しいものを作ります。」

 3人の控えめな拍手が響く。

「何を作るんですか!?親方!」

 リケが目をキラキラさせながら飛びつかんばかりに聞いてくる。こう言うの本当に好きだな、リケは。

「ハルバードだ。」

「ハルバード?」

 サーミャはピンとこないらしく、首を傾げている。戦場に出るんでもなけりゃ、そんなに見ないよな。街の衛兵も持ってたのは短槍だし。

「あー、槍と斧が合わさったみたいなやつだ。」

「何だよそれ、強そうじゃん。」

「強いさ。」

 場合にもよるが、突くと切る以外にも色々出来るハルバードの方が、対応の幅も広いだろう。俺が言うのを聞いて、ディアナが質問してくる。

「でも、ハルバードなんか作ってどうするの?売れるの?」

「ああ。売る先のはある。」

 ディアナの質問に、俺はニヤリと笑うのだった。

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