増えた家族と増える"いつも"
翌日、テキパキとベッドと扉の材料の切り出しを終えて、組み立てを始める。蝶番や釘なんかは前回作り置きしておいたので、その分の時間も節約できている。備えあれば憂いなしだな。ベッドはサーミャとリケに任せて、俺とディアナで扉を作っていく。自分の部屋の扉なんだから、多少気合いを入れてもらわにゃな。
さすがのディアナも大工仕事はやったことが無いので、教えながら作業を進める。枠が歪んで扉が収まらない、なんてことになっても困るし、そこだけは俺がやったが、後はほとんどディアナがやった。剣を振るっていたからか、鎚で叩くのも初めてにしてはなかなか堂に入っている。
「こう言うのも、楽しいものね。」
「1人で黙々とやると途中でうんざりするかも知れないが、こうやってみんなで1つのものを作るってのはいいだろ?」
「そうね。結構気に入ったわ。」
「時々はこう言う作業もあるが、やっていけそうか?」
「もちろん。この程度で音を上げてしまいそうなら、そもそも来てないもの。」
ディアナが笑って言う。
「それは違いない。」
俺もそれにつられて笑うのだった。
ベッドの方は前に作ったことがある2人の作業だから、扉よりも先に出来たようだ。
「お、じゃあ運びこんじまってくれ。」
「分かった。手前の部屋で良いのか?」
サーミャがディアナに聞く。
「ええ、そっちで良いわ。」
「ほいよ。行こうぜリケ。」
「うん。じゃあサーミャはそっち持って。」
サーミャは獣人、リケはドワーフだからか、かなりの力がある。ベッドを軽々と持ち上げて運んでいった。
「よーし、じゃあ俺達も扉をやっつけちまおう。」
「分かったわ。」
それから幾らかの時間で扉が出来上がった。なかなかの出来だ。
「いい出来だな。」
「そうなの?」
「ああ。隙間なく板を打ち付けるのは、これで結構難しいからな。」
「良かった。使い物にならないとか言われたらどうしようかと。」
「俺が見ててそんなヘマさせるわけないだろ?」
「それもそうね。」
「安心しろ、お世辞抜きにいい出来だよ。それじゃあ取り付けに行こう。」
ディアナもサーミャ達ほどではないとは言え、そこそこ力がある。俺とディアナの2人で扉を運び、取り付けは俺がやる。扉の取り付けはすぐに終わって、先に運び込まれていたベッドとで、ディアナの部屋の完成だ。
「今日からここがディアナの部屋だ。屋敷と違って随分狭いとは思うが。」
「いいのよ、これで。ここに来て、必要な広さってそんなに無いんだな、って分かったし。」
「そうか。」
ディアナは何かにつけてこの生活に馴染んでくれようとする。前に来た時点である程度馴染んではいたが、あくまであの時は半分は客だったからな。こうしてくれるのはありがたい。
「これでいよいよ家族ですね!」
リケがディアナにニッコリと笑いかける。
「ええ。改めてよろしくね、リケ。サーミャも、改めてよろしく。」
「おう。まぁ、メシの美味さは保証されてるからな。」
サーミャが胸を張って言うが、それ作るの俺だろ。俺の料理を気に入ってるなら、まぁいいか。
この後、客間からディアナの荷物を運びこみ、ディアナの部屋が完成した。
翌日、カミロのところへ品物を卸しに行く。以前はディアナが街へ行けなかったので4人で行くのは初めてになる。俺とリケが荷車を引き、サーミャとディアナが辺りを警戒する。歩みの早さは今までと変わらない。時々、草兎や他の小動物の姿を見かけて、ディアナがはしゃいでいた。見た目が可愛いからな。後々食う時の障害にならないと良いが。途中1回の休憩を挟んで街道に到達する。
「どうだ?俺はいないと思うが。」
「アタシも特には感じないからいないと思う。ディアナはどうだ?」
「私もよ。」
念の為、森から街道に出る時はチェックする。今回も何もないようでなによりだ。
「よし行くか。」
俺達は荷車を引いて街道を行く。もう幾度も行き来した道だが、今日はディアナがいる。それだけで何となく新鮮な気がしてくるな。あの街の衛兵は仕事熱心なので、全く警戒しなくていいと言うことはないが、野盗の心配はかなり低い。マリウスがいなくなって、その分の人手があればいいんだが、こればっかりは変わってやれないしな。何かしてやれることがあったら、なるべくしてやりたいものだ。
予想通り、特に何事もなく街に着いた。立ち番はマリウスの同僚氏ではないので、会釈だけして通り過ぎようとする。そこへ立ち番の衛兵が声をかけてきた。
「おっと、1人増えたか?」
日に何人も通るだろうに、よく覚えてるな。
「ええ、まぁ。」
「モテモテじゃないか。羨ましいな、色男さん。」
「いやぁ、そんなんじゃないですよ。」
「ちょっと"新入り"のお嬢さんの目と手首を見せてもらってもいいかい?」
「ええ。」
衛兵はディアナの目と手首の辺りを見る。
「すまなかったね。奴隷とか誘拐で無理やり連れてこられた子は、目と手首を見たら分かるのさ。目と手首のどこをどう見たら分かるのかは秘密だけどね。協力ありがとう。行っていいよ。」
「どうも。」
俺達は4人で会釈して街に入る。色々な人を見てると、ああ言う術も身につくんだろうな。あまり習得して嬉しいたぐいの技能ではないが、あの人もそれなりに辛酸を嘗めてきたに違いない。
そして俺達は、いつもの通りにカミロの店に向かった。倉庫に荷車を入れたら2階へ上がる。店員さんや番頭さんも慣れたもので、すぐに商談室に通された。ただ、心なしか倉庫の人も店員さんも増えている気がする。
そんなに待たずにカミロが商談室に入ってきた。
「よう。」
俺からの挨拶も気軽なものである。カミロはディアナがいるのを見つけて言った。
「おう。ああそうか、ディアナお嬢さん今そっちにいるんだったな。」
「そうだぞ。お前たちは本当にああ言うやり方好きだよな。」
「知ってただろ?」
「知ってたけどな。そう言えば、随分人が増えたじゃないか。」
「ああ。おかげさまで儲けが増えてね。伯爵家出入りともなると、都に人だけ置いて
前の世界で言えば、大阪本社で東京事務所、みたいなもんか。今から都に倉庫付きの大店となると大変そうだが、最悪店として機能さえすればいいなら、なんとでもなるんだろう。
「なるほど、そりゃ良いことだ。」
「そうだろ?それで、今日もいつものでいいのか?」
「あ、今回は火酒と寝具が2セットあったら、そっちも貰えるか?」
「おう、あるぞ。支払いはいつもの方法でいいよな?」
「ああ。よろしく頼む。」
俺が頷くと、カミロは番頭さんに目をやる。番頭さんは頷くと部屋を出ていった。後は荷物の積み下ろしの間、カミロと都にいた時の話をする。俺やディアナが話してなかった内容(ディアナは知らなかった部分もあるが)を、サーミャやリケも楽しそうに聞いているのだった。
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