お仕事再開

 今日からはいつもの仕事が始まる。初日は使った分の板金を作り、翌日からナイフやショートソード、ロングソードを作る。今回から板金のときもサーミャに手伝ってもらうことにした。3人で溶かして固めて延ばしてと言う作業をする。固めている最中のものは手が出せないが、それ以外の溶かすのと延ばすのは分担できるので、効率は上がっているように思う。

 最終的に前造ったときの1.2倍程度の量が作成できた。鉄石はまだまだ残っている。と言うか、これだけ作っても減る量より仕入れてくる量のほうが遥かに多くて、一向に減る様子がない。これはそのうちカミロに仕入れはいらない、って言わないといけない日が来るかも知れないな。


 翌日からは武器類の作成をする。そう言えばカミロに聞いてはないのだが、種類を増やすのは良いのだろうか。短槍なんかは特注モデルではあるが、実戦を経て使い物になる事自体は分かっているし、問題なければラインナップに加えたいんだけどな。

 ともあれ、最初はショートソードとロングソードを作る。手順なんかは当然今までと同じだ。ただし、少しずつ効率が上がってきている。鉄を溶かしてから型に流し込んで、バリを取るところまではサーミャに任せっきりで良いから俺も楽だし、高級モデルの方に注力できるからありがたい。3日位はずっとこの作業を続けて、結構な数を揃えることが出来た。これ次の2週間はまた納品なくても大丈夫なんじゃないかな、って数だ。


 次の2日はナイフにかかる。これはサーミャに手伝ってもらうものもないし、肉の備蓄もそろそろと言ったところなので、サーミャは狩りに出かけた。矢じりもちょいちょい補充してやらんとなぁ……。作るのは以前と同じように俺が高級モデル、リケが一般モデルである。手順もいつもどおりだ。夕方頃まで作って、そこそこの数が出来た。俺も明日は一般モデルにしようかな。そんな事を考えながら、作業場の片付けをしていると、サーミャが帰ってきた。


「ただいま。」

「おかえり。どうだった?」

「おう、今回は大物の猪を仕留めた。」

「おお、やるなぁ。」

「当たり前よ。」

 自慢げに胸を張るサーミャ。狩りの腕はほんとに良いよな。

「矢じりは大丈夫か?」

 俺はサーミャに懸案事項を確認する。

「あー、一発で刺さるし丈夫だから、そんなには減ってないよ。予備があると嬉しいかな、ってくらい。」

「そうか。それは良かった。」

「猪の頭って相当固いんだけどな。一発でブスッといった。多分鉄の兜でも抜けるんじゃないかな……。」

「そ、そうか。」

 うーん、火力がオーバーすぎるかな。まぁ、矢は矢だし、当てる弓の腕がないと意味ないから、銃をこの世界に持ち込むのと同じようなことにはならないか。

 明日3人で引き上げる算段をして、今日のところは終わりだ。


 翌朝、3人で湖へ向かう。そこそこ深いところに沈めてあるので、俺とサーミャの2人で引き上げるが、その間にリケには運搬台を周辺の木を切って用意してもらう。サーミャがつけた目印のあたりまで行くと、水に沈んだ緑っぽい毛皮の猪の姿が見えた。この森の猪は、体の毛に苔(か地衣類かは俺にはよくわからないのだが)のようなものが生えてて、全体に緑っぽい。これでしゃがみこんだら、パッと見には茂みのように見えるのだろうな。

 にしても「大物」とは聞いていたがデカいな。前の世界でも2mくらいのやつはそれなりにいるらしいのだが、こいつもそれくらいありそうだ。よいせ、と声をかけて引きずっていく。岸にたどり着くと、リケが丸太を用意していた。それを3人で協力して縄でくくり、運搬台を作ったら、頑張って猪を運搬台に引きずりあげる。あとは家までそれを引っ張っていくだけだ。俺はチートでの、サーミャは獣人、リケはドワーフとしての筋力があるから、3人で力を合わせればそんなに苦にはならない。


 とは言え、行きにかけた時間よりも、たっぷり1時間ほどは余分にかけて帰ってきた。すぐに家の近くの木に吊るす。この後は皮を剥いで捌いていくが、俺はそっちは手伝わずに、運搬台をして、材木にしていく。1人でやったのでやや時間はかかったが、適当な大きさ、太さに切り分けることが出来た。後は今までの材木を置いてる辺りに、一緒に置いておけば終わりだ。こっちが完了したのでサーミャとリケの様子を見ると、こちらも解体が完了していた。


 鹿と同じように、今日食べる分を取り除けたら、残りは塩漬けにしてしまう。昼飯は猪肉ステーキと相成った。食べてみると、たしかに豚に近い味がする。しかしこちらのほうが野性味と言うか、臭みに近いのだが決して嫌な臭いではない、と言う感じがある。

「猪も美味いなぁ。」

「そうですね。豚とは違った味わいでなかなか。」

「だろ。この森の猪は良いもの喰ってるらしくって、他所より美味いって旅のやつから聞いたことがある。」

「へえ。そうなの。」

「でも、狩るのが難しいんだよな。めちゃくちゃ気は荒いし、頭の骨とか硬くて矢が通らなかったりするし。」

「じゃあ、俺の矢じりってわけだ。」

「そこはほんとにそうだぜ?」

 何のてらいもなく言うんじゃあない。照れるだろ。


 午後からはナイフの製作をする。そこそこの量は確保できそうだし、一般モデルだから、最初の方の工程をサーミャにもやらせることにしてみた。ちょいちょい手伝っていたからか、割と筋がいい。とは言え、ほとんどド素人なので、出来上がる少し前でもお世辞にもいい出来ではない。そこは俺が最後に一般モデルに仕上げる。

「親方もだけど、サーミャも結構何でも出来るよね。」

 リケがサーミャに話しかける。リケはサーミャにはくだけた口調で話すのだ。

「うーん、そうか?さっきのとか、エイゾウのに比べたら全然ダメだったしなぁ。」

「親方と比べるのは間違ってるよ。」

「そりゃそうか。」

 そう言って笑い合っている。良いな、こう言うの。俺はなんとなくほっこりした気持ちになって、うっかり高級モデルを作ってしまわないよう、気をつけるのだった。

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