第2話 届かない声

「五樹、早く準備しなさい。」

「はい、お母さん。」

今日は中学二年生の新学期。中学受験を成功させ、都内の有名中学に通っている五樹はまだ二年生だと言うのに、この生活に嫌気がさしていた。

「今日も完璧に過ごしなさい。逢坂家から落第者が出るなんてのは許されないからね。」

母親のこの台詞も聞き飽きた。全ての科目において学年一位の私に落第の話をするなどばかばかしいにもほどがある。内心で馬鹿にしつつもそれを外には出さない。完璧な言葉、完璧な立ち振る舞いで応答する。

「わかっているわ、お母さん。逢坂家の名誉を私が壊すなんてしないわよ。」

品のある笑みと礼で有無を言わさずに即刻家を出る。

「はあ~~。毎朝毎朝疲れるったらありゃしないわ。」

文句を言いつつ学校までの道を歩く。

途中、一つの公立中学の前を通る。

いつもなら見向きもしないその中学に今日はなぜだか視線を引きつけられた。

門の前に立っていると、

「危ない!!」

「えっ」

ドッシーン!

門の上から女の子が飛んできて、ぶつかってしまったのだ。



「ねえ、大丈夫?」

目を開けるとさっきの女の子が心配そうにこっちを見ている。

「大丈夫です。お気遣い無く。」

「そっか、ならよかった。ごめんね、人が居るとは思わなかった。」

「いえ・・・」

しばらくの沈黙の後、女の子が口を開いた。

「私、四葉紗綺って言うの。あなたは?」

「逢坂五樹です。」

「逢坂?!逢坂ってあの有名な?」

「え、ええ。まあ。」

「へえ~~。すごい人に会っちゃったな~~。私、授業抜け出してきたんだよね。抜け出して正解かも。」

「そんなことしていいんですか?成績に関わるんじゃ・・・」

「大丈夫!私、お金無いからどうせ高校行けないし。成績良くても褒めてくれる人居ないしね。」

「それは、いやなこと聞いてすみません。」

「いいのいいの、気にしないで!」

そのとき、遠くから女の子を探す声が聞こえた。

「四葉さん。どこですか?まったく、授業を抜け出すなど。これだから貧乏人は。」

どこかで聞いたことのある声だった。四葉と名乗った女の子は、顔をしかめると私の手を掴んだ。

「ねえ、ちょっと付き合ってくれる?逢坂さん。」

「えっ?ちょっ、どこに?」

私達は昼の都会に吸い込まれた。

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~声~ 二人の少女の物語 @ItsukiOsaka040508

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