馳走 - Happy new year! Ⅱ -
◇本話は「初詣 - Happy new year! -」の続きとなっております。
その為そちらを先にご覧になってからお読みいただくことをお勧めいたします!
―――――――――――――
―――船に帰ってきてから2時間ほど経過したその時、部屋から出てきたリアはとてもしおらしい様子だった。
先ほどまで甘酒でベロベロに酔っていたとは思えないほどに大人しいその姿から察するに、どうやら酔っていた時の記憶はあるらしい。
―――しかし、部屋に担ぎ込むまで、フィアーが経験した苦労は本当に大変なものだった。
まずおぶさった状態で暴れる。なんとか落とさないようにバランスを取り彼女を支え続けたフィアーのその苦労は言うまでもない。
挙げ句の果てには「あつい!」などと言い出し、着物を脱ごうとする有り様。
なんとか阻止しようと、おんぶをしながらリアの両腕を拘束するのは非常に骨の折れる戦いであった。
そして船に戻り、ベッドに寝かせるとき。
なんとリアは一切フィアーから離れようとしなかった。
背中にまるでセミか何かのようにがっちりと組み付き、降ろされることを拒む。
それを無理やり引き剥がそうとすると、今度は腕に抱きつきしばらく離してくれることはなかった。
結局、フィアーは自分の身代わりに抱き枕に抱きつかせることでなんとか部屋を離脱することに成功したものの、リアはそこから爆睡。
そしてそれから2時間経過。
ようやく今、自室から出てきたのであった。
「リア、何があったか覚えてる?」
「お見苦しい姿をお見せ致しました……」
―――やはり、覚えていたようだ。
だからこそ、フィアーも素直な感想を口にする。
「いや、面白かったよ?」
「~~~!!!!!」
頭を抱えながら顔を真っ赤にして、今にも暴れだしそうな勢いのリア。
「まぁ、とにかく和服から着替えようか、それから食事にいこうね」
「……はぁい」
◇◇◇
あれから数十分。
リアの着替えも終わり、フィアー達は街中へと繰り出していた。
街は珍しく人で賑わっており、初詣に向かう人々が列を成して歩いている。
―――何を食べようか、リアが寝ている間にフィアーは熟考していた。
お節、とも考えた。
だがスーパー等で買うというのも味気ないし、折角二人で食事にいくのだから良い店に連れていきたい。
そんな時、フィアーの脳裏に懐かしい店の名が浮かんだのだ。
―――フィアーは即決した。
そこに、リアを連れていこうと。
「―――よしリア、海鮮を食べに行こう」
「海の幸か……ワルキアって海がなかったから、あんまり食べたことないなー」
ワルキアは内陸も内陸、海など影も形もない土地だった。稀に冷凍術式で保存された魚が売り出されることもあったが、得てしてそれは加熱用のもの。
万が一新鮮なものが手に入ったとしても、そんな貴重品が庶民の手に届くわけがない。
もしかしたら、テミスであれば食べたことがあるのかもしれないが。
「きっと気に入る……と、思う。ボクが昔一番好きだった店だから」
それに対し、今からフィアーが連れて行こうとしている店は新鮮な魚を売りにした料理店だ。
「確か元旦も営業してたはず……」
フィアーは僅かな記憶を頼りにその店を探す。
仄かに覚えのある道。
大分途切れ途切れの記憶だが、その店での思い出は深く脳裏に刻まれていた。
「ここ、だ」
そこにあったのは少しひびの入った外壁をした料亭だ。
―――だが、この辺りではそう珍しいものではない。駅前こそ復興が進んでいるが、少し離れれば辺り一面に瓦礫の山が広がっている。
それが、今のこの世界の現状であった。
「いらっしゃいませ!」
フィアーが店の前でそんなことを思い耽っていると、店から一人の少女が駆けてくる。
どうやらここの店員のようだ。
「―――!」
その姿を見た瞬間、フィアーは一瞬驚いたような表情を見せる。
「何名様ですか?」
「……2名です」
だが、すぐにそれを隠そうとする。
幸いリアにも、目の前の店員であろう少女にもその異変は感じ取られなかったようだ。
「二名、男女……ほほぅ……」
フィアーの「二名」という言葉に反応し、店員の少女はニヤニヤとした表情をする。
「え、えっと……なにか?」
それに対し、リアは困惑したような様子で話しかけた。
「お客様実はですねぇ、ただいま当店カップル向けの割引をしているのですが、お二方は……」
「あ、カップルです」
ノンタイム。
「なッ!?」
フィアーは食い気味で、カップル割を受けるために即答した。
―――値段が安くなるのだ。相手がそう思っているのなら、それに同意しておいたほうがお得というものだ。
払う金が少なくなるなら、それに越したことはない。
フィアーの考えは完全に守銭奴的なものだった。その考えは、長い間リアと行動を共にしたことで、フィアーに伝播したものでもある。
「なるほど、では割り引きしておきますね!お席こちらになります!」
だが、その根源であるはずのリアに、そんな考えを汲み取る思考能力は既に残っていなかった。
……カップルです……カップルです……カップル……
フィアーの言葉が、リアの脳内を延々と頭にリフレインする。
「いくよリア……リア?おーい」
―――結局、リアの意識は席に通されてしばらく時間が経つまで戻ってくることはなかったのであった。
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