EX

2018年お正月:時系列不明

初詣 - Happy new year! -



 ―――これは、いつかの未来に起こりうるかもしれない話。

 砕け散った水晶の残骸。


 その小さな断片の一つだ。



 ◇◇◇




「はぁー……」


 広い道を、二人が歩いている。


 片方は白髪の青年、フィアー。

 もう片方は、白金色のツインテールを靡かせながら歩く小麦色の肌の少女、リアだ。


「すんごく寒いね、フィアー……」


 その服は和服だ。

 リアの着ている着物は檜扇柄のもので、袖をひらひらとさせながらフィアーに語りかける。


「冬だし、元旦だからね。そりゃ寒いさ」


 それに対し、フィアーは極めて冷静に返答する。

 日付は1/1。世間は元旦で、どこも人混みでごったがえしている。

 とはいえこの土地は初売りが2日からとなっていることから、明日は更に混雑するであろうことは容易に想像ができた。


「むー……こんな寒いなか、どこにいくの?」


「初詣……って言っても分からないか。こっちじゃあ新しい年になると、寺社仏閣にこれまでの一年の感謝やこれからの一年の平穏を願うために、お詣りをする文化があるんだよ」


 そう、彼らは今から初詣に向かおうとしているのである。

 向かうは「八幡堂」。卦体神信仰等で知られる社で、社殿等は国宝に指定される程のものだった場所だ。


「あぁ、もしかしてワルキアの年始の儀と同じようなもの?」


 リアが口にしたのはワルキア王国での祭事の名だろう。

 しかし平穏無事なワルキアで年を越したことのないフィアーには、その祭事がこちらの初詣に近しいものなのか、分からなかった。


「……そっちを知らないからなんとも言えないけど多分そう」


 捻り出した末に出たのは曖昧な返事だ。

 恐らくはお祈りをするようなものだろうし、初詣とそう違いはあるまい。


 ―――それにしても、寒い。

 フィアーが知っている冬よりも、更に気温が低いように感じる。

 確か今日の気温は-6℃だったか。


 北海道ならいざ知らず、ここでこの気温は正直予想外だった。


 まぁ、温暖化はこれ以上進みようがないし、こうなるのも必然と言えば必然なのだが。


 そんなことを思案していると、隣にいたリアが袖を掴んでフィアーを呼ぶ。


「なんだか人だかりが見えるよ、フィアー」


 見ると、社より遥か前から行列が出来ている。

 恐らくは皆、参拝客だろう。

 フィアーの知っていた頃も人出は多かったが、これはその倍くらいの量がいると見受けられる。


「まぁ数多い八幡宮の一つだからね、人も集まるさ」


「……まぁ、無事なのもここくらいだしね」


 そう呟きながら、フィアー達は列の最後尾へと歩いていく。


「それじゃ、早くお祈りして温かいものでも食べに行こ!もー手が冷たくって冷たくって!」


「わかったわかった、それじゃあ行こうか」


 こうして二人は、揃って初詣の行列に並んだのであった。



「あ、でもお祈りの前に冷水で手を清めなきゃだから、もっと冷たくなるよ?」



「うそぉ!!?」




 ◇◇◇




 列に並んで一時間ほど、フィアー達は八幡堂の門から外に出てきた。

 外の列を見ると、来たときよりも更に大勢の人間が列を成し、参拝を今か今かと心待ちにしているようだ。


 ―――気持ち、船を早めに出てきてよかった。

 フィアーはしみじみ思う。

 もしもあの列に並んでいたら、いつ参拝を終えられたか分かったものではない。


 しかし、久々の初詣は中々に良い体験だった。

 しかもまさか、リアと共に来ることが出来るなんて夢にも思っていなかった。


「久々に来たけど、やっぱ初詣は心身共に引き締まる想いがしていいなぁ、ねぇリア?」


「んー?そうらね!ふぃあーのいうとおり!」


 ―――リアがこんなことになるのも、予想外だったが。


「……まさか、甘酒でここまで……?」


 確かに甘酒には僅かにアルコールが入っている。

 だがそれは1%に満たない極々微量のはずだ。


 だがリアの様子はどうだ。

 顔は真っ赤で、足元も覚束ない。


「もはやこれは場酔いというやつなのでは……?」


 そうフィアーが口にした瞬間、リアは満面の笑みでフィアーの背をはたきながら否定する。


「よっれない!よっれないよっ!」


「いやろれつ回ってないから」


「そんらことないよ!だってわらしはふぃあーのおねーちゃんなんらからね!」


 もはやヒアリングすら困難なまでに言語が不自由な酩酊状態に陥ったリア。

 このまま食事にいくのは極めて危険だろう。もうなんだか、色々と危ない。


 そう考えたフィアーは、おもむろにリアを抱き抱える。


「ご飯は一旦船で休んでからにするか……」


 着物のままで食事にいくのもどうかと思っていたし、ちょうどいい。


 そうしてフィアーは、リアを抱き抱えながらゆっくりと、一先ず帰路についたのであった。

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