第16話

「終わったわね。」

「ああ、意外とあっけなかったな。」

「あれだけ苦労しておいてよく言うわよ。」

「ふん、最終的に今は無傷だろう。だから良いんだ。」

「今後苦労しそうね。」


宝物庫の中にあった宝箱から宝具を得た二人。ユニールは自分が600番代ごときで、自分より弱くて小さい女の子よりも苦戦していたと言うのが許せなかった。32の鍵を持っているのに、それを目指しているのに600番代で苦労していたらいけない。油断したらダメだと言うことがわかった。爺の言っていた「宝物庫をなめるな」とはこのことだったのだろう。


「早く出ようよ。もう用ないんだし。」

「そうだな。」


ランリィは扉に手をかけた。俺はまだ取り残しがないかを確認する。少し疑問があるのだ。一部屋の大きさにこの石ころの宝具一つだけなのかと。なぜこんなスペースを使う必要があるのかと。まだ他に宝具があるんじゃないかと探っていた。


突然、悲鳴が宝物庫内に響く。ランリィだ。

開けたドアの先には倒したはずのフィルヴォルゴの骸骨がカラカラと音を立て笑っている。まるで自分の思い通りにことが進んだかのように。

骸骨は直剣でランリィに斬りかかる。


「っ!硬質化ァァ!」


地面を強くひと蹴りし、硬質化した腕をランリィと骸骨の間に伸ばす。剣は金属音を響かせユニールの右前腕に叩きつけられる。


「ランリィ大丈夫か!」

「え、ええ。」


間一髪、ランリィは無傷で済んだ。殺した、粉砕したはずの骸骨がなぜ元の形に戻りランリィを襲ったのか。不思議に思ったが余計なことを考えている暇はない。


「さっきよりもパワーが上がっていやがる。ランリィ、奥に行ってろ。」

「う、うん。気をつけてね。」

「一対一なら負けないさ。」


骸骨はケタケタ笑っている。

ユニールの脇腹に向かって禍々しい黒い直剣の刃が飛び込む。剣の腹を叩いて軌道修正したとしても体のどこかを切りつけられる。あの得体の知れない刃を受け入れてはいけないと直感が訴えてくる。

体を大きく反って剣を避ける。空振りした剣先は弧を描き、今度は袈裟斬りしてきた。剣の腹を拳で叩き上に逸らす。

ジュッ


「なんだ!」


剣の腹に接した拳の部分が火傷していた。さっき戦った時の剣より禍々しく危険なのはなんとなく感じていたのだが、刃だけでなく剣自体が危険だったのだ。いや、さっき硬質化をして受けた時はこんなことにならなかった。油断させるため?まだ掴めない。

骸骨は骨の周りに黒い靄を肉のように纏い、ケタケタ音を立てる口から霧を吐いている。先ほどとは段違いのようだ。


「俺は爺に勝ったんだからこいつに勝てないわけがない。本気で行くぞ。」


600番代ごときと侮った自分が招いた自体。こんなに簡単にたどり着けるのだから守護者が強いのは当たり前なのだ。宝物庫に入った後も攻撃してくると言うのは初耳ではあるがどんな時も油断してはいけないと今さっき心に決めたばかりではないか。索敵能力が低いのが欠点だ。

焦った時は深呼吸。呼吸を大きくじっくりすることによって心拍を整える。心拍を整える整えることによって思考回路がスムーズに働いてくれる。


「拳を自己修復、そして一気に肩をつける!強化!硬質化!」


骨は打撃が効く相手。運が良かった。

拳と前腕、足の甲を硬質化、先ほどとは段違いの速さで攻撃をする。あまりにも早い突きと蹴りは風圧を生み、骸骨を覆う靄を払った。


払ったかと思った。


靄は骸骨の肉となり、口から吐き出された霧は皮膚となった。骸骨の王は黒い人間となった。髪も肌も白目すらも黒いそれは皮膚と肉によって生まれた口角をこちらを嘲るように上げる。


「なんだよこれ。形態変化?変態?何が起きた?!」

「どうも、君はユニールくんだったかな?」


黒の人間は喋り出した。口の中も黒いため、口を開いているかどうかじっくり見ないと判断できない。循環強化を一時停止させ体力を温存しておく。


「君はどうしてここに来たのかな?」

「ほ、宝物庫の解放の手伝いだ。」

「手伝いってことは奥にいる女の子が宝物庫を漁りに来ることを提案したのかい?」

「ランリィには手を出すなよ。まず俺が戦うからな。」

「ほう。じゃあ相手をしてあげよう。」


神速。

剣を首元に突きつけられた。

爺なんか比べ物にならない速さ。これを越えられる気がしない。

最初は見えなかった爺の動きが見えるようになったとき、これ以上の速さを見ることはないと思った。


「ただの守護者だと思って侮ってない?油断はよくないよ、油断は。」


首を硬化させ後ろに飛び退く。


「油断しているのはお前の方じゃないのか?今殺さなくて良かったのか?」

「油断しても勝てる相手っていうのがいるんだよ。そんなに下がっていいのかい?可愛い女の子に刃が届くようになっちゃうよ。」


あいつのいう通りだ。入り口からランリィまでの距離の半分あたりまで下がってしまった。

押し返さねば、そう思って黒い人間に殴りかかる。避けられると思ったら当たる。しかし手応えはない。吸収されてしまったみたいだ。


「は?」

「そう、効かないんだよ。物理攻撃。油断したって君に勝てる。」

「これでどうだ?」


連続でパンチとキックを打ち込む。鳩尾、顎、左右の脇腹、目にあたる部分、金的、関節。あらゆる部分を殴った。


「効かないんだよなあ。暇だからこっちからも行くよ。」


黒の人間は剣を振る。パワーとスピードは段違いに強くなっているが剣技はそれほど高くない。骸骨の頃に戦った時より腕はよくない気もする。なんというか、キレがない。やはり……


「お前はフィルヴォルゴか?」

「うーん、今はそれどころじゃないんじゃない?」

「お前の剣なんぞ大したことない。どうにかダメージさえ与えられれば俺が勝つ。」


ユニールはジリ貧である。ダメージを与える手立てがない。相手からの剣戟はかろうじて避けられる。隙はあるが、攻撃しても無意味。体力はどんどん失われて行く。


「ブラスト!」


ランリィが透明な弾丸を打つ。角度的に死角だったのか、はたまた油断しきっていたからなのか、ランリィが放ったブラストが黒い人間に当たる。

黒の靄が当たったところの一部を晴らした。


「ユニール!マター撃よ!マターを直接叩き込めば勝てる!」

「マターを直接?!どうやってやるんだ?」

「ああー人間には無理だったわ!私が打つからうまい具合に隙を作りなさいよ!」


ランリィが攻撃手段を持っている。マターを直接外に出すなんて技、人間にできることじゃない。


「お前らの作戦丸聞こえなんだが。そうか、自分にダメージを与えられるのはその少女か。先に殺すとするか。」

「いかせるかよ!」


自分の役目は防御と妨害、攻撃をやめて進路妨害に徹する。


「ブラスト!ブラスト!」


着々と靄を晴らして行く。


「いい調子だ!骨を出してくれれば俺が砕く!」


後ろに周り、羽交い締めにする。


「ランリィ、頭に一発、どデカイのを!」

「分かった!メガ、ブラスト!」


頭部にクリーンヒット。骨が見える。肘を曲げ、硬質化。

頭部はただの頭蓋骨となり、声は出ない。カチカチと音を立てている。


「肘徹撃粉砕!」


カチカチカチカチ


「ランリィ!マターをぶつけてくれ!」

「メガブラスト!」


黒い靄が晴れる。骨はカランコロンと音を立てて落ちて行く。

念のため全て粉々に小さく粉砕、ランリィにマターもぶつけてもらう。


「残念だな!油断しても勝てるだと?そんなことはないと俺は一刻前に学習してたんだ。」


これでウォールの丘の宝物庫は完全に攻略した。

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