第15話

「鍵をその穴にさしてきっかり5秒。それが守護者が出てくるタイムだ。」

「時間の猶予があるのね。」

「5秒で戦闘態勢をとることは可能だ。しかし何が出てくるかわからないんだ。だいたい検討はつくけれど大きさとかはわからない。適切な間合いを取るのに1キロ走らなきゃいけないかもしれないことだってないわけでもはないと言っていた。オレは鍵を開けた瞬間バック走で後方に走る。ランリィ、お前は後ろに向かって全速力で走れ。背中は守ってやるから。後衛は距離取らなきゃいけないしな。」

「わかった。それでいきましょ。」


樽リュックとランリィの愛らしい小さなカバンを遠くに置いておいた。鍵穴の付近に近寄り、ランリィが鍵を取り出す。


「ねえ、私離れておいてあんたが刺してくれない?」

「……確かにそれでいいな。ランリィは離れておいてくれ。でも離れすぎるとそれはそれで危険だから様子見て離れてくれ。」

「難しいわね。いい感じに離れておくわ。」


ランリィは50メートルほど離れた位置に立っていた。逃げる準備をすでにしている。


「よし、刺すぞ。」


鍵穴に630の鍵を差し込む。すると黒い靄のようなものが噴き出し、漂う。

ユニールは全速力でバック走で距離を取る。

5、4、3、2、1


「くるぞ!」


丘の頂上には骨の人間が立っていた。ローブと王冠を身につけている。

高王フィルヴォルゴだろうか。


「フィルヴォルゴね。あれぐらい倒せるでしょさっさと倒しなさい。」

「お前な、相手がどう戦うかもわからないんだぞ。遠距離から攻撃を打ち込めるお前が一撃入れてくれよ。」

「もうしょうがないわね。」


ユニールは少しずつ、少しずつ近づいている。ランリィは掌にマターを集め、凝縮している。


「くらいな!ファイア!」


火の玉が彗星の如く高王の元へ飛んで行く。骨の王は腕を一振りすると火はローブを一片も焦がすことなく消える。


「なんだ、しょぼいなあ。」

「これぐらいならつのイノシシは一撃でステーキになるわよ。こいつがおかしいの!」

「そうか。」


すると、高王は両手を叩きコツンと音を鳴らす。すると黒い靄が高王を中心に広がってゆく。ユニールは黒い靄に奇妙さを感じ、後ろへ飛び退く。

そして靄は骨の人間を形作っていく。


「な、くそ!守護者は一体じゃないのか!」


ユニールは前に進む。骸骨にマターのない石を思いっきり投げつける。骸骨の頭蓋が砕け散り、靄となって消えた。

あいつらに直接攻撃ができるようだ。骸骨に囲まれてしまった。

前にいる骸骨がソードを振りかぶって攻撃して来た。動きはもちろん爺より圧倒的に遅いので剣の腹を殴り、粉砕させる。ボロボロでよかった。

だが、前と同時に横からも切りかかってくる。これも爺がたまにやって来たから可能である。素早く対処する。すると回り込んでいた骸骨が斜め後ろから突きをする、三方向。右斜め後方から振り下ろし、四方向。戦法上から5。左下から6どんどん増えてくる。いくら奴らの頭蓋を割っていっても蛆のようにどんどん湧いてくる。


「くそ!俺は一対多の戦いは慣れてないんだよ!」


非常に悪い展開である。何撃も食らっている。血が流れている。あれだけ修行して600番代で俺は負けるのか?そんなに守護者ともいうのは強いのか?爺が舐めるなといっていたのを思い出す。もしかしたら「お前はこれでようやく999なんだ」と言いたかったのかもしれない。

156位でこれなのか。


悔やんでいると黒い球が多数の頭蓋を撃ち抜く。


「あんた実はそんなに実力ないのね。」

「いやだって、相手が爺さんしかいなくて修行に一対多の内容なんてなかったから……」


ランリィが他の纏わりついていた骸骨たちの頭蓋を全て石の塊で撃ち抜き、言葉を放つ。


「なんだ、修行になかったからできませーんって言うの?それ、あそこにいる高王の骸骨に言ってみな。そして何にも聞き入れられず切られてきな。実はあんた甘ちゃんなのね。同い年であんたの方が図体でかくてもガキ。所詮は世間知らずのガキよ。」

「なっ。」

「トレジャーハンターっていうのはね、探索者っていうのはね、どんな状況でも対処できなきゃいけないのよ。私宝物庫は初めてだけどこのエァル国内はそれなりに旅してきたの。その中でも報酬を求めるから分け前は少ない方がいい。故に一人になる。一人でなんでもできなきゃいけないのよ。多人数戦ができない?あんたのあんだけの身体能力があればキックで何体もを一振りでおしまいでしょうよ。一体一体処理していこうと思っているからダメなの。わかる?」


説教されてしまった。自分より身の丈の小さな女の子にだ。悔しい思いは当然ある。だが正論だ。

言い返さない。行動で示す。全ての骨を粉砕する。


ユニールは頂上へ駆ける。

腕を一薙、ラリアットする。ガイコツは15体倒れた。

次は飛び蹴り、10体貫いた。

永遠に沸き続ける骸骨は根本から処理せねばならない。ユニールは両腕を広げ猪突猛進する。体重の軽い骸骨たちは吹き飛ばされ、粉々になる。そして骨王を間合いに入れる。ここまで一瞬。


「よう、フィルヴォルゴ。お前のおかげであのちびっこ、いやランリィに怒られちまったじゃねえか。だが、これのおかげで一対多の戦い方は理解した。ありがとうな。」


骨王は剣を構える。周りには大量の骨びとを召喚する。

ユニールはそれを諸共せず骨王に蹴りを入れる。骨王はガードをするが折れてしまう。


「他の奴らよりは硬いがそれだけって感じだな。」


ユニールは両腕を大きく振って裏拳を放つ。周りの骸骨たちを巻き添えにしながら骨王にヒット。骨王はもう片方の腕を折ってしまう。そしてその裏拳の勢いを利用して後ろ回し蹴り。これまた巻き添えにしながら骨王にヒット。守る腕のない骨王は頭蓋に攻撃を受けてしまう。骨王は粉砕された。

ランリィは自分のアドバイスでここまで変わるとは思わなかった。

せめて10体ぐらい倒しておしまいかなと、そして高王は二人で協力かなと。だがユニールはすべてのガイコツを粉砕し、守護者の中心であるフィルヴォルゴまであっさり倒してしまった。驚きが隠せない。

ガイコツたちの残骸は靄となって消え、骨の高王も消えてゆく。そして、丘の頂上は鍵が開けられ、中に入れるようになっていた。


「おい、ランリィ。中に入るぞ。お前先頭な。」

「な、なんで先頭なのよ。」

「ランリィの鍵だからな。初めに入るのはお前だろう。俺はただの雇われの身だからな。」

「それもそうね。」

「というのは建前で中に罠があったら嫌だからだ。」

「言わなきゃいいのに。ユニールから入りなさい。」


ユニールが先に入り、罠の有無を確認する。露骨にわかりやすい罠はない。まあ、なさそうだ。


「罠はなさそうだぞ、入ってこいよ。」


ランリィが入ってくる。そして奥の宝箱に二人は目を移した。


「あれね。」

「あれだな。ランリィは初めてか?」

「正直言って。あんな偉そうなこと言ったのにね。」

「おかげさまで戦えたからな。甘かったのは俺の方だ。ありがとうな。」


二人は宝箱の前に立った。


「これは建前とかなしにランリィが開けるべきだろ。」

「罠には気をつけるわ。」


何か飛び出してくるかもしれないと警戒して身を屈めて箱の蓋にそっと触れる。触ることで発動する罠はないようだ。


「せーの!」


パカッと箱を開ける。すると中には石ころと紙が入っていた。


「へ?石ころ?これだけ?」

「いや、いくら630と雖も宝具のはずよ。何かしらの力はあるはず。」


同封されていた紙は説明書のようだ。すべての宝具に説明書がある。とてもスベスベで珍しい綺麗な紙に書かれている。


《王の石》

王の素質を持つものがこの石を持った時、石が叫びだす。逆に持たない場合は沈黙したままだ。


「へえ、こんなのが入ってるのか。」

「確かに、そんなに効能に意味はないものね。」


王は基本血筋でなるもの。国を起こす際は起こしたものたちのリーダーが王になるし、その後は基本血筋だ。


「まあ、何かの宝具と交換すればいいさ。」

「そうね、確かイングランにそんなとこがあった気がする。」

「ま、とりあえずダブリンに帰りますか。」


戦いを終え、宝具を手に入れた二人。宝具はランクの通り、有用な物ではなかったが、 経験と称号を得られた。一対多で戦う経験、これは今後よく使えるだろう。そして称号。こちらは宝物庫を開けたというトレジャーハンターとしての称号だ。今回の攻略は有意義なものであった。

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