第14話
今日はあの幼女とともに宝物庫へ行く日である。
前金とかがめついことをしっかりやるならちゃんと行く場所を聞いておけって過去の自分に言いたい。これじゃあドタキャンができないじゃないか。
ため息をつきながら食堂へ行き、ラムのスープをちびちび飲む。
確かに初守護者とのバトルではあるけれども、楽しみではあるけれどもせっかくなら自分の見つけた鍵の宝物庫で脱トレジャーハンター童貞を捨てたかった。ああ行きたくないなぁ。
そんなことも言ってられないので、部屋に戻って樽リュックを背負い、出発。トレジャーハンター協会を目指す。
道中食べる用の串焼きとかを買って樽の中に詰めてく。ちょっとスリルのある楽しい遠足だと思えばいいのだ。そう、幼女と行く遠足なのだ。
「なんだ?何が幼女と行く遠足だ?」
「あれ、俺口に出してた?」
「私、あんたと同い年だよ?」
「全く何言ってんだか。」
「その辺も含めて道中で話すからよろしくね。前金貰ったんだから仕事、ちゃんとするんだよね?」
「粉骨砕身の精神で頑張ってまいります。」
何か事情持ちなのかもしれない。面倒くさそうなのであまり関わらないように心がけよう。
門まで歩き、門にいる兵にトレハンカードを見せると手続きせずすぐに出られた。これは便利だ。
買い漁った串を頬張りながら歩く。
「まって!ねえまって!歩くの早すぎ!」
そうか、いつものあのペースで歩いていたから身長の小さい彼女には大変だったのだろう。少しゆっくり歩いてやろう。
「鳥串いる?」
「え、くれるの?ありがとう!」
ちびちび食べ始めた。なんというか庇護欲をそそる可愛らしさだ。
「それで、どこ向かっているんだ?」
「それもわからないで私より先行してたの?バカなのあなた。」
「たぶんしばらくは道なりだろうなと思ったから進んだだけだ。街の近くで森に入るようなところだったら誰かしらすでに行っているだろうし。」
「あら、意外と考えているのね。今日目指すのはウォードの丘よ。」
聞いたことあるな、確か昨日司書が言っていた高王の墓の候補の一つだと。じゃあ…
「高王フィルヴォルゴの墓に行くのか?」
「ああ、確かそんな名前だったわね。そう、そこよ。ていうかなんで知ってるの?ダブリン市民ですら、エァルの今の人間のほとんどは知らないわよ。」
「昨日図書館でエァル創生の書を見たんだよ。そこでその本にまつわることを研究している司書と息があってな。それでそいつの説がそのウォードの丘とかなんたらの丘に高王が眠っているはずって言ってたんだよ。聞いてて面白かったぜ。」
「へえ、人間にも優秀な学者がいるのね。感心だわ。」
「なんかお前すんげえ歳上目線から話すな。実は幼女じゃなくてババアとか?妖精とか言ってたしシュッキ神族?」
「い、いやだなぁ。そんなわけないじゃん。ちょっと背の小さいお茶目な女の子よ。」
怪しすぎる。さっきまで饒舌だったのに急にたどたどしくなって滑舌が悪くなった。舌が乾いたのだろう。
「なるほど、シュッキ神族のチビババアだったのか。」
「ババアじゃない!歳は16なの!」
「シュッキ神族は否定しないんだな。」
「ぐぬぬ!そうだよ!シュッキ神族の末裔の小人なんだよ。」
「なんでシュッキ神族がダブリンにいるんだ?人が集まるところは嫌いって聞いた気がするんだけど。」
「ただ友達の妖精についてきただけなんだ。」
「ふーん。」
二人で鳥串を食べながら歩く。ランリィの歩幅に合わせているのでユニールはだんだんじれったくなってきた。
「なあ、もうちょっと早く歩かないか?」
「なんでよ。あんたのペースに合わせるのは無理よ。あんた道わからないのに先行するつもり?」
「じゃあ肩に乗せてやるから。お前は方向の指示、そしておれは全力で走る。早く着けるしお前は楽。これでどうだ?」
「うーん、子供みたいに肩車されるのは癪だけどしかたないわよね。それが一番良いんだもの。乗せてちょうだい。」
ランリィを肩車する。ちょうど樽リュックの蓋が座面となってめちゃくちゃ収まりが良い。
「快適ね。あ、しばらく川沿いよ。渡れそうなところがあったら渡っておいて。」
風を切り走り抜けるユニール。微弱な強化をかけているので馬よりも早いだろう。川を渡るのに大ジャンプする。
「ギエヤァァァ!何すんのよぉ〜!」
ランリィはユニールの頭をがっしりつかんでいる。視界が遮られて危ない状態だ。
「あっ、ちょっ、おまっ目を隠すな。前周り受け身すんぞ。」
「ギヤァァァァ!」
ランリィはがっちりつかんではなさい。ユニールはハンドスプリングでなんとか着地。
「おいクソガキ。危ねえだろうが!」
「こんなのに対応できなかったら守護者に勝てないわよ!」
「それもそうだが…じゃない!守護者にたどり着くまでのリスクは限りなく減らすべきなんだよ!そして渡れそうなところあったら飛んじゃって良いからとか言ったのはお前だろう!」
「確かにそうね。これからは顔じゃなくて髪の毛つかむようにするわ。」
髪の毛もやめてほしいのだがまあしょうがないか。
そうしてもう一度川沿いに走り出す。しばらく走ると川が裂けているところが見えてきた。
「あ、三歩先直角に右ね。」
指示通りに直角に右に曲がって走り出す。これで道程の半分ぐらいだろう。日も頂点まで上がっていないし良いベースだ。目標は日帰り、守護者もパパッと倒せれば良い。
ユニールは無心に走り続け、昼には丘についた。
「ねえ、早くない?ここまで予定だと1日かかるはずなんだけど午前中につくってなに?」
「早ければ早いほど時間単価が上がるからな。お前も早いほうが良いだろう?」
「ま、そうなんだけどねー。昼ごはん食べてから挑む?」
「ああ、それで良いんじゃないか?」
ランリィとユニールは昼食をとることになった。ユニールは樽の中から焼肉と水筒につめたスープをとる。ランリィは小さな可愛らしいカバンから干しぶどうパンをちびちび食べる。肉をじーっと見ているので食べたいのか。
「ほれ、ちょっとなら良いよ。」
「え、いいの?ありがとー!」
ランリィは泊りを予定していたので干し肉のようなものしか持っていなかったので嬉しかったのか、満面の笑みで受け取ったあとすぐに頬張る。
この少女の笑顔がとても可愛らしいなと思った。
「もう休憩は大丈夫か?」
「うん、もう十分ね。第一あんたの後ろで座ってしかいなかったから特に疲れもそこまでなかったし。」
「俺の肩にまだ乗っているか?」
「どうしようかしら。」
ランリィの戦闘スタイルは魔法攻撃を遠距離からという戦法らしい。僕は近接一辺倒なのでこのような子がいて助かる。
「俺が前に出て、ランリィが後ろから狙撃という前衛後衛システムを普通に導入するか、俺の肩に乗って移動砲台となるかの二択だな。もちろん俺は肩に人を乗せながら戦ったことがない。」
「そりゃそうよね。当たり前よ。私は後ろから支援するからあんた前衛して。」
丘の中腹で昼食を食べ終え、片付けをした後頂上まで登る。
「鍵はどうすればいいの?」
「トレジャーハンターなのに知らないのか?どうやら数字が書かれたところと鍵穴が一緒にあるから鍵穴に刺せばいいんだ。すると守護者が出てくる。まあ、俺も爺から聞いただけなんだけどな。」
「なーんだ。トレジャーハンターの師匠みたいな人がいたのね。」
丘の頂上に着く。630と書かれた石があり、そこに小さくぽっかりと穴が空いていた。
いよいよ守護者との戦いだ。
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