第13話

所持金68万。多すぎる。市場に行こうと思ったけど先に協会に行って預けてこようか。いや、珍しいものがあった時に買えないのは嫌だな。持って行こう。


そして市場を訪れた。活気があるが無秩序ではなく、整った、綺麗な市場だ。とても雰囲気がいい。


「まずは保存食かな。パンと調味料。肉は現地調達だからいらないにしても野菜だよな。野菜欲しすぎて雑草食ったりアゲアゲきのこ食べたりして失敗してるんだ。なんかないかな。」


パンを何斤かと調味料の塩のツボの不足分と野菜を煮詰めた液体ソースを1瓶購入。サーモントバのようなものを探しているが見当たらない。あれ、まだ残っているがなくなったら寂しすぎるからな。サーモントバは見つかったがかなり高かった。少年にふっかけられた額の二倍ほどで売っていたのでがっくりした。ここも海に面しているからそれっぽいのは得られると思ったが、そう簡単には問屋が卸さないようだ。

ホットドッグを売っている店を見つけ、食べたくなったのでおばちゃんに聞いてみる。


「おばちゃん、なんかここら辺で売ってる長持ちしそうな美味いもんない?」

「うーん、特にないかなぁ。南に行けばサーモントバってのがあるけどねえ。王都の割に湿気てるねえとか思ったんじゃないかい?」

「ま、少しは。」

「そうなんだよねぇ。外でてると突然死するかもっつってみんな家に引っ込んじまったんだよ。怖いけれど店出さなきゃどちらにしろ飢え死ぬからね。やめらんないんだよねえ。」

「そうか、おばちゃん。すまなかったな。頑張れよ。」

「もうそろそろ祭りの季節だからね。シュッキの妖精がいたずらでやっているのかもしれないわねぇ。」


おばちゃんから熱々のホットドッグをもらい、話の続きを聞く。


「シュッキの妖精?」

「この国昔の宗教、シュッキ教だよ。そこの中には妖精がいたずらしに来たりするんだ。それにしてはこれは度が過ぎているから悪鬼かもしれないねえ。」

「ん、ここってコロモ教のプラテン派だって爺が言っていたが。」

「うん、今はコロモ教が国教だけど童話とか民話を小さい頃に聞くのはシュッキのお話が元になっているのが多いんだよ。」

「へえ。」


少し賢くなった俺は特産品を諦めて他の食品、フルーツなどを買っていく。樽リュックには食べもを入れる部分とざっかをいれるところにわけられている仕切りを作ることができるので便利である。

そのあとは図書館に行く。市場で完全に方向感覚が狂ったので町の人に道を聞いた。


「お、ここの図書館デカイし迫力あるな。」

「ここの図書館は国の誇りだよ。美しいし蔵書も多い。」


なんか急に話しかけられた。なんだこいつ。


「失礼、私ここの司書をやっているものだ。私はこの職場を愛している、そして皆に愛してもらいたいと思っている。」

「ま、これだけ豪華だとそう思うよな。」

「それだけじゃないんです。収められている本もなかなかすごいものが多いんですよ。エァル創生の書とかは結構面白いですよ。」

「へえ。入りたいんだがいいか?」

「あ、すみません。どうぞどうぞ、案内しますよ。」


ひょろ長の司書の男は図書館の中に案内してくれた。本来ここは貴族たちが入るところだが、今は王による法の改正によって上位市民なら入れるようになっているようだ。本当は下位市民も入れるようにしようとしたのだが、貴族の猛反対と下位市民に開放すると家代わりにする奴が現れるはずという指摘から諦めざるをえなかったようだ。受付にトレジャーハンターの証を見せ中に入る。


「トレジャーハンターの方でしたか。なかなか珍しいんで驚きましたよ。」

「この町のトレジャーハンターは来ないのか?」

「ほとんど来ませんね。勉強したい探索者ぐらいでしょうか。」


宝物庫は危険な秘境だけでなく、伝説のある史跡にもあるということは知られていないのだろうか。史跡タイプはまつわる守護者が付いているという爺の分析つきである。故に勉強は大事だと叩き込まれてきた。まあ、植物についてあまり教えてくれなかったからアゲアゲきのこ食べてしまったわけだが。

だから歴史について勉強しておけば攻略の鍵をつかめるというわけだ。まだエァル内を指す鍵を持っていないがいずれ役に立つと思い図書館に来た。

言っていなかったが125は東を指している。


「俺はてっきりこの土地に人が来たのはコロモ教とともにだと思っていたが違うのか。」

「土着の宗教シュッキ教を乗っ取る形でって感じですね。」

「それって……」


俺自身、宗教に強い感情はない。宝物庫の場所を解く宝具への鍵の一つだと思っている。宗教と歴史は切っても切れないものだからな。これは島という特殊な場所で孤児という特殊な環境で育ち、偏屈な爺に知識を叩き込まれたから生まれた価値観。しかしエァル本土で育った司書がこのようなことを言ったのに驚いた。


「ああ、もしかしてコロモ教徒でしたか?それでしたらすみません。」

「いや、そういうわけじゃなくて。そんな考え方をする人が珍しいなと。」

「宗教は僕にとって信仰対象じゃなくてどちらかというと研究対象なんですよね。人々がどう思い、どう願ったからどういうものを信じるようになったのか。人の感情と起きた事象の半々が込められているのに美学を感じまして、ずっと研究しているんです。」


へえ、この司書結構似たところがあるのかもしれない。


「あ、でもこの話言いふらさないでくださいね。弾圧されちゃうんで。死んじゃいますから。」

「言いませんよ。僕も似たような価値観なんで。」


俺の場合はトレジャーハンターなので不干渉と貫けるがこの司書はできない。この面白い司書さんは守ってあげたいと思った。

その後、シュッキ教の本とエァルに伝わる童話を集めて読んだ。


エァルは始め、魔族の住む地域だった。魔族が暮らしている間の土地に一つの船がたどり着く。その船には二十四人の男女がいた。上陸し、魔族にばれないように生活していたが、実際はバレていた。しかし特に何もされることなく、未知のウィルスにて皆死んでいった。そして現れたのがフィルヴォルゴを含めた人間の軍。大きな船に乗って現れた人間たちは瞬く間に魔族を倒し制圧していく。そして魔族は滅び、エァルはフィルヴォルゴの5兄弟によって分割統治されるようになる。仲の良かった5兄弟がずっと治めていければ良かったが、人間には寿命がある。彼らの死後、息子らが収めたが彼らは非常に仲が悪くそれぞれの地域同士戦争を行っていた。互いに消耗しあい、人間は数を減らしていく。そんな中、シュッキ神族がエァルに降り立つ。互に憎み合う人間を皆殺しにし、抵抗する意思、戦争する意思のないものとともに生活していく。エァルの地はシュッキ神族たちによって統治された。そしてシュッキ神族と人間の血が混ざり合い、妖精、鬼、魔女、小人などの様々な種族が生まれ、皆仲良く暮らしておりました。


というのがエァル創生の書である。


「ふーん、こういう流れなのか。途中に現れた人間の王の墓や神の土地を探していくと宝物庫は見つかりそうだな。魔族っていうのが気になるが、これは先住民のことだろうか。それとも病原体のことなのだろうか。魔族の本拠地とか分かればそこにありそうだがなぁ。」

「どうです?研究進みましたか?」

「まあな。ちょっと疑問点も多かったけど大幅に知識は更新された。」

「僕もうそろそろ上がるんで夕飯一緒に食べません?その書についての現時点での研究結果を少し教えてあげますよ。」

「それは助かるな。伝承の場所を中心に教えてもらえると助かる。」


司書は私服に着替え、外に出てきた。相変わらずひょろ長。身長高めな俺よりも身長は高いのだろうが、姿勢が悪いので顔の位置が俺よりも低い。

男二人でテンプルバーへと移動した。

司書の行きつけの食堂に入る。正直まだ俺は未成年なのでお酒は飲めないと言ったので飯が出るところにしてくれたのだ。


「んで、その研究結果とは?」

「うん、こっから北西に行ったところに人間時代その1の高王、フィルヴォルゴの墓があるみたいなんですよ。川とかの位置からなんとなくしかわからないんですけどね。」

「こっから北西か。覚えておこう。」

「正確には街を走る川を上って行って大きく分かれるところで北に進んだところにある丘ですね。」


詳しくわかってるじゃないかという顔をする。


「いや、そんな顔されても。大きく分かれるって言ってもたくさんありますし、この街から北には丘がたくさんあるんですよ。どれが高王の墓かわからんのですよ。」

「確かに、そりゃそうだな。ばちんとこいつだって決められるのは珍しいケースだと思う。守護者がいればそれが高王の墓だってすぐわかるな。あったら教えてあげるよ。」

「ぜひよろしく。」


興奮した様子で鼻の穴を膨らませ、身を乗り出して言ってきた。よほど気になるのだろう。


「あとね、魔族のことだろう。その魔族の元の拠点がこの街、ダブリンだと思われるんだよ。」

「え?」


この街が魔族の拠点だとしたら人間はウィルスで死んでいるはずだ。なぜ我々は生きているのだろうか。


「シュッキ神族が人間の戦争で復活しかけた魔族を弱めて封印したのがこの土地、そこを神が見守るようになったからそれにあやかろうと人たちがたくさんここらに住むようになったとか。小人や妖精たちはここがそういう土地だって知っているからこのあたりにいないっていうのが僕の考えだ。半分ぐらい妄想だけどね。」


ダブリンが魔族の封印地とな。悪くない考えだと思う。でもそんな土地に人を住まわせることを神が許可するか?確かに自分達の子供である小人や妖精たちは住まわせてないけれどこじつけのような気もする。

その後、司書は何杯か酒を飲み俺は肉のパイを食べ、お開きになった。

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