第12話
「一緒に攻略して欲しいって言ったか?」
「うん。」
「なんで一人で攻略しない。」
「一緒に旅してた妖精の子がいなくなっちゃったの。あの子気まぐれだからいつ帰ってくるかわからないし。でも早く攻略して一人前のトレジャーハンターになりたいしね!」
トレジャーハンターは攻略して初めて一人前なのか。わからなくもない。
「報酬は?」
「私と一緒に居られる権利、すぐ一人前のトレジャーハンターになれる、あと経験が積めるってとこかな!」
「ダメだな。」
「なんでよ!」
プンスカ!という音が聞こえてきそうなほど頬を膨らませて顔を赤くしている。
「報酬無しに等しいじゃないか。ほれ、探索者の掲示板でもバカウマ狩りでさえ報酬は出るぞ。それを宝物庫攻略で命かけろって言われて報酬無しとかバカか?もしかしてバカウマよりもバカなのか?」
「ぐぬぬ!わかった!じゃあ、夕飯奢ってあげる!これでどう?」
「600代で夕飯か、ちょっと安いな。30万で手を打つ。」
「夕食と10万!」
「ダメだ。」
「夕食と15万!」
「ダメだな。」
「夕食と20万!」
「うーん、まあいいだろう。前金5万後払いで夕食と15万な。」
「それでいいわよ!じゃあ明日の朝ここに集合ね!」
明日、明日は確か予定があったな。詰所に行って盗賊討伐の報酬がもらえるとか。あ、ここに金預けられるか聞いてみるの忘れてた。
「明日は厳しいな、兵士の詰所に行かなきゃいかんからな。」
「なに?悪いことしたの?自首?」
「そんなわけないだろ。盗賊討伐の報酬もらわなきゃいけないからだよ。」
「へえ、そうなの。」
嬉々として俺を犯罪者扱いしたと思ったら説明した一瞬で興味なさそうにしやがって。もういいや、こいつに関わるとフラストレーションが徐々に溜まっていく。精神衛生のためにも離れておこう。トレハン受付の方に戻っていく。
「あの、ここってお金預けられる?」
「協会は銀行もやってます。世界展開してます。ちなみにどこでも引き出せます。」
へえ、かなり便利だな。中央都市にはだいたいあるみたいだから大金は預けておいていいかもな。
「じゃあ180万預けたいんだけど。」
「はいわかりました。」
樽リュックからお金の入った袋を取り出して受付嬢に渡す。小柄な受付嬢はさっきから無愛想なのにうんしょうんしょ言いながら運んでいる姿は可愛かった。
「ちょうどですね。カードを預かります。提示ありがとうございます。預かり金はトレハンカードに書いてあります。引き出すときはカードを出していただければ引き出しますので。」
これで所持金は18万ぐらいだな。ま、船乗ったりするわけじゃないし、結構重い樽を盗む奴なんてそうそういないし盗まれても速攻で捕まえられるからこれぐらいなら大丈夫だな。樽リュックに蓋をして背負うとさっきの少女、ランリィが来た。
「じゃ、明後日の朝にここね!これ、前金の5万。」
「確かに受け取った。それまでに友人が帰ってくるといいな。そしたら前金の5万は協会通して返してやるよ。」
「いいの?」
「金は今結構あるからな。別にそれぐらいはいい。」
「じゃあ気合い入れて探さないとね!じゃあね!」
協会を出た。入るときは気がつかなかったがこれ、わざと扉重くしているな。依頼に来る人がちょっとかわいそうだ。
ククリールさんの商店の隣の宿屋まで来た。1泊6000マルダン。高級宿のようだがかなり安くしてくれている。俺が飛び出してからククリールさんからユニールという人が来るから安くしてあげてくれと言われていたのだろう。ククリールさんのところに感謝を伝えに行かなきゃな。
外に出て隣の商店に入る。
「ユニールです、ククリールさんに会いに来ました。」
「お帰りなさいユニールさん、上に来てください。」
ヌースさんが迎えてくれた。歳を重ねているはずなのにシュッとしている、スタイルのいいスマートなクールシルバーだ。代々ククリールさんの商会に勤めているらしい。ちょっとした雑談をしながら上の事務所に上がる。
「お帰りなさいユニールくん、どうでした?」
「受かりましたよ。ランクは今156位です。」
「ミームラに勝ったんですね。」
「え、なんで?」
「この街にいるトレジャーハンター156位はミームラって有名なんですよ。国一番強いってね。」
え゛。
「ユニール様は国1番のトレジャーハンターを下してしまうんですもんね、さぞお強いのでしょうね。」
「先に種まきしておいてよかったね。僕の目は間違いがなかったようだ。」
あいつエァルで一番強いのか。ランリィってこの方が正体わからない感じで強そうだったけどな。
「あいつ一番だったのかぁ………」
「宿は行きました?」
「あ、ああ、部屋とってきたよ。口利きしてくれたみたいでほんとありがとうね。」
「その分従業員にチップあげてくださいね。」
したたかな笑顔を浮かべたククリールさん。従業員を大切にしているんだろうな。
「ま、それはサービス次第ですよ。」
「ははっ確かにそうですな。従業員指導は徹底しているので大丈夫だと思いますが。ところで今後の予定をお伺いしても?」
「うーん、とりあえず明日は兵士の詰所に報酬取りに行って、街を巡ってみようかなと。明後日からは他のトレジャーハンターに誘われたから630に一緒に行ってくる。」
「630は遠いところなんですかね?」
あ、それ聞いていなかった。珍しく凡ミスだな。世界の裏まで630のために行く気はないぞ?でも前金貰っちゃったからやらなきゃいけないだろう。まずいな。
「その顔、聞いてなかったんですね。」
ククリールさんは笑っていてヌースさんは同情している顔をしている。
「とりあえず2日って感じですね。まあパーティするわけじゃないんですけどね、キナ臭い噂とかあるんで街を出られるのであれば別に問題ないですね。」
「キナ臭い噂とは?」
「街中で暮らしていると突然死するらしいですよ。『アリスが毒を試しているんだ!』とか言われていますね。真実はわからないですけど。」
「なるほどねえ……。そういや最初のアリスの夫が死んだのっていつですかね?」
「だいたい3年前ですかね。」
「随分早い再婚サイクルだったんですね。」
「これは怪しまれてもしょうがないレベルですよね。」
怖いからさっさと街を出たいなぁ。明日街を散策する気だったけど宿に籠ろうかな。でも準備しなきゃいけないからな、どちらにしろ街を歩かなきゃいけないのか…
商店を出て宿に戻る。夕食の準備がすでにできているということだったので真っ直ぐ食堂へ。案内してくれた従業員にはチップをあげた。夕食は鳥のソテーとサーモンのカルパッチョだった。ソテーはソースが塩味で鶏皮に対してあっさりしていたのが食べやすかった。ビネガーが上品な香りで美味しかった。
久々の布団は柔らかく、幸せだった。お風呂に入らずとも服が体をきれいにしてくれるし、服自体も汚れないので便利である。おやすみ。
翌日、朝食のトーストを齧りながら段取りを組む。まず詰所、そこから市場に行って食べ物を買う。昼は適当にとって図書館に行く。夕方はテンプルバーで過ごそう。
そう段取りを汲み終えたら口にベーコンと卵を詰め込んでミルクで流し込む。
「よし、日は良好。いざ観光!」
観光と言ってもまずは詰所。街の中央部、城の方を目指す。
「こちらは兵士の詰所です。なんのご用でしょうか。」
「すみません、残虐のレプラコーンのボスを持ってきたユニールって言います。報酬をもらいに来ました。」
「担当を呼んできますんでお金になってお待ちください。」
トレジャーハンター協会の受付嬢とは真逆で印象がいい。いくら美人でも無愛想無気力の人に担当されるより多少ブスでも愛想のいい人の方がいいっていう人は少なくないと思う。
門であった兵士が現れた。
「お、昨日の坊主きたか。トレジャーハンターになれたか?」
少し笑いながら聞いてくる。トレジャーハンター目指してくる若い人が少なくないのだろう。そしてだいたいが落ちているからからかうテイストで話しかけてきているのだろう。
「今日は身分証ありますよ。」
こちらもニヤッとしてトレハンカードを見せる。見せられたことに驚いていたが、内容を見てさらに驚いている。
「な、156位ってミームラに勝ったのか?!」
「ええ、まあ。あんま強くなかったですね。」
詰所内がざわつく。「あのミームラが!」とか「なんだこのガキは!」とかいろいろだ。ミームラ結構みんなに慕われていたんだな。
「ミームラを倒すとはお前国1番じゃないか?」
「もっと強い人なんてこの国にもいくらでもいますよ。」
爺とかな。
「そ、そうか。で、報酬の件なんだけどあいつらには多くの人が困らされたからな。50万マルダンだ。受け取れ。」
「ありがたく。で、結構報酬高い仕事ってあります?」
「うーん、アリス様の身の潔白の証明とかかな?それは王家にコネ持ってるぐらいしか受けられないだろうけど。さすがに持ってないだろ?コネ。」
「持ってないなぁ。というか要らないなぁ、面倒だし。せっかくトレジャーハンターは国家不干渉なんだから変に関わりたくない。」
「あとは連続突然死とかを解くとか?」
「難しそうだし怖いから無理。」
「ミームラ倒しておいて怖いってなんだよ。」
いきなりの死には立ち向かいようがないじゃないか。うん、しょうがない、受けられるわけがない。
「まあ、高額なのはそれぐらいかな。というか依頼だったら協会で見ればいいのに。あそこにも色々貼ってあるはずだぞ。」
「そうだな、そうだった。ありがとな。それじゃあ行くわ。残党狩り頑張れよ。」
「じゃあな。こちらこそありがとな。」
兵士に別れを告げ、兵士の詰所を出た。次は市場だ。
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