第11話

「ようこそ、トレジャーハンター協会へ。」


部愛想な女が受付に座っている。


「なあ、トレジャーハンターになりたいんだが。」

「そうですね。なりたい人なんて山のようにいますからね、夢に生きたいだけのカスが実力もなくここでワーワー吠えるんですよ。うざったくてたまらないですね。」


ちょっとカチンときたが、爺が言っていた「どんなときでも絶対冷静」を思い出す。4秒静かに呼吸をして心を落ち着ける。夢のために突っ走る俺の姿勢は悪くはないが良くもないと評していた。そう、今は冷静になる時。


「じゃあどうやって実力を示せばいい?」

「第一段階、この文字は読めますか?」


受付嬢はだるそうに一枚の板を取り出す。

ただの板だ。真っさらな板である。

何も書いていないじゃないかという言葉を喉の奥に押し込み、考える。この女が言いたいことを考える。文字を読めと、真っさらな板を取り出したのだ何かしら意図があるはずだと。

椅子に座ったマントを身にまとった人物はこちらを見てにやけている。君には資格があるのかなとでも言っているようだ。もう一人ちびっこ幼女の方もワクワクしながらこっちを見ている。後ろの男は挑戦者なのか首をひねって考えているようだ。

爺は俺をトレジャーハンターにするために修行をつけた。ないように何かあるはずだ。

体内マターを目に集中させ、板をじっと覗く。もやもやとマターの塊が見える。


「向かいの酒屋の亭主は八百屋の娘と逢いびきしている。か?」

「………正解。」


どうやら当たったようだ。

「第二段階。戦闘。奥に入って。」


受付の横と通路を指さされる。奥に行こうとするとさっきニヤニヤしていた男がこっちにくる。


「第一段階おめでとうさん。良く読めたな。お前できるやつか。」

「一生懸命修行したからな。こんなとこで折れてるわけにはいかないんだよ。マターぐらい簡単に扱えるしな。」

「そうかそうか。登録可否判断試験の第二段階戦闘試験は俺が相手するからな。」


受付の奥に行くとドアがあり、そこを開けると外に出た。裏口だったのだろう。


「ここは戦闘訓練場だ。トレジャーハンター以外の人は使えないし、外から見えないようになっている。マターによる妨害がかかっているからな。俺はランク156位のミームラだ。よろしく!」

「俺はユニール、ランクってなんだ?よろしくな。」

「トレジャーハンターと探索者の中での強さの順位だな。一対一の決闘での勝ち負けでランクが決まる。」

「宝具の収集具合は関わらないのか?」

「詳しいことは受かってから聞け。はじめる合図は嬢に任せるぞ。」

「よし、じゃあさっさと始めよう。」


ユニールはミームラと戦うことになった。ミームラは長剣の使い手、リーチは中近距離、通常の格闘戦であれば不利だろう。それを思ってかミームラは相手が新人ということもあって少しなめている。


「………始め。」


ユニールは一瞬で間合いを詰める。下手すれば互いの唇が重なるという間違いが起こるのではないかと心配するほどに。ミームラも伊達にランク上位をやってるわけではない。詰められた瞬間にバックステップで距離を離す。強化を少し込めたバックステップだったお陰で、ユニールの正拳突きは少し服にかすれる程度だった。


「さすがに一撃では沈まないか。」

「なんだよお前、本当に新人か?」

「言ったろ?一生懸命修行したって。」


適切な間合いを取れたミームラはユニールを中心として一定距離をとって弧を描くように動きながら様子を見る。ユニールは来るタイミングに攻撃を合わせる心算なのかキックを打つ構えを取る。

両者ともに隙がない。ミームラはその状況を崩そうと円が中心へと吸い込まれる渦のように近づいていく。この移動法に多くの相手は距離をつかめず背後を取られるという事態に落ち込むのだがユニールは違った。ミームラが走っていた円の軌道から外れた瞬間に踏み込み、近づき、鳩尾に一撃。攻めの構えを取っていたミームラは急な攻撃に防御、回避はとれなかった。ノーモーションからの移動を判断できなかった。強化してここまでの早さを出せるわけがないとタカをくくっていた彼の天狗っぱなをへし折る一撃は体に染み、ミームラの意識を奪う。


「……そこまで。」


ユニールは肩を叩いて「もしもーし」と言いながらミームラを起こそうとする。深く入ったため、意識はすぐに取り戻せないようだ。


「…試験で勝つとは思わなかった。そいつはロビーのソファーに捨てておいて。」


言われた通りミームラ背負い、ロビーまで戻ってソファーになげておく。受付テーブルに戻って受付嬢に話しかける。


「これで合格か?」

「まだ。次は第三段階。鍵は持ってる?」

「三つ持っている。32と125、そして0だ。」


0という言葉を聞くと受付嬢は眠そうな目をカッと開いた相当驚いたのだろう。


「それ、嘘でしょ?」

「いや、嘘じゃない。これみろ。」


首からかけていた0の鍵を受付嬢に見せる。受付嬢は驚きが止まらないようだ。何度も裏返したりしながらずっとじっくり見ている。このものがこの世にあるとは思わなかったような、あって欲しくないような顔をしている。


「ねえ、これどこで…」

「それって協会に教えなきゃいけないのか?今は俺協会員ではないんだけど。合格か?」

「うん。第二段階までだったら探索者。鍵持ってるからトレジャーハンター。合格。で、これどこで…」


教えるのは別にいいが、あの島が荒らされて爺からもらえる予定の宝具が奪われるのが一番やだ。それを防ぐために情報はなるたけ絞っておきたい。


「協会員だったら教えなきゃいけないのか?それは義務なのか?」

「………いや、義務は持っている鍵の番号だけ。」

「なら教える必要ないな。登録できるんだろう?早く登録してくれ。」

「……わかった。」


受付嬢に渡された紙に名前と年齢を書き込む。そして協会員であるトレハンカードが発行された。


「これ、トレハンカード。トレジャーハンターは全員持ってる。あそこで伸びてるミームラも。名前と年齢以外にランクと持っている鍵が登録される。あと協会からの連絡もカードの裏に届く。見つけた鍵は登録しなきゃいけないからカードに重ねてくれればそれでいい。宝物庫を開けると消える。トレジャーハンターは国家に関与されない機関。国がちょっかいかけてきたらぶっ倒していい。倒されたら自己責任。国にちょっかいかけるのも自己責任。関与しないのがオススメ。でも法律は基本的に守らなきゃいけない。よほどのこと以外は自己責任。わかった?」

「だいたいわかった。徴兵とかはされないけど街で無駄な殺人を犯したりしたらさすがに捕まるよってコトだな。」


説明を聞き終え、カードを見てみる。ランクが156位になっていた。


「なあ、なんでランクが上がってるんだ?」

「それはミームラを倒したから。試験と言っても戦い。負けた奴は下がる。勝ったやつは上がる。」

「上がると何かいいコトあるのか?」

「雑魚に絡まれなくなる。」

「そいつはいいな。」

「それだけじゃない。鍵と宝具のオークションに優先参加できるようになる。」


結構いい特典だ。0の宝物庫なんて危ない秘境にあるはずだ。宝具はあって困らないだろう。


「探索者や傭兵、狩猟討伐の依頼も受けられるようになっているから生活費に困ったらそっちを見てもいいと思う。説明は以上。」

「ありがとさん。それじゃあな。」


説明を一通り受け終え、伸びているミームラの方へ行く。


「おい、ミームラ。もうそろそろ起きろ。」

「ううわ!ユニールか。俺惨敗だったな。」

「あの渦上接近はなかなか使えると思ったぞ。俺だったらあれは投げ技に使うけどな。ま、157位頑張れよ。」

「くぅー、絶対次は勝ってやる!って言いたいところだが今は差が大きすぎるコトぐらい俺もわかる。まだ余裕だったもんな。俺は戦闘に使えるスタイルのあった宝具を手に入れてないし。強化もまだまだってわかったからな。今は弱いがもっと強くなるぞ!」

「その時はもっと強くなった俺が倒してやるよ。」


ユニールは登録を終え、ミームラとの会話も終えたのでやるコトがなくなった。お金もたんまりあるから依頼を受ける必要もない。協会の重いドアを押して引いて開けようとしたらちびっこ幼女が声をかけてきた。


「君やっぱり合格したのね。ミームラを倒すなんてなかなかやるじゃない。あいつ結構技巧派だから苦戦したでしょ。」

「一撃、いや二撃だったな。あっさり終わったぞ。」

「うそでしょ?じゃあ今156位なの?傷一つないからもしかしてもっと強いの?」


まあ、10人のミームラ相手でも負ける気はしない。


「で、なんなんだお前は。」

「あ、私ランリィ。トレジャーハンターよ。」

「ちびっこなのにか?ごっこ遊びじゃないのか?」

「このカードを見なさい!」


そこには

ランリィ16歳

ランク未測定

所持鍵630

とあった。結構高い鍵を持っている。


「で、俺に何の用だ?」

「私と一緒にこれを攻略して欲しいの!」


82の鍵をチラつかせながら彼女は言った。

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