「ようござんす」ですね。

 冬になると、ほっかいろと巡り合う場面が多くなる。駅のホームの床に、人を避けながら、居座るその意思。なんとも断固とした決意を感じ、あっぱれである。お申さげねぇな。尊敬するべきか、呆れるべきか。この馬鹿っ。そこで突っ立てないで、さっさと乗るよ。あたしゃ、これ以上この都会にいたくねぇんだ。ぶよぶよ進んでは、自分のアホさ加減を後悔し、椅子に座ったお姉さんの長髪、赤色メッシを羨ましがる。ごめんなさい、師匠。ごめんなさい。自分が恥ずかしかった。人を頼らないといけないこと。感謝を伝えられなかったこと。何も言わなかったこと。ごめんなさいって。

 昨日読んだ大森靖子さんのエッセイを思い出して、あ。やっぱり彼女の言った通り、人を頼らないと生きていけないんだなって実感した。

 沖縄の浜辺。十三歳以上は、氏名できるんだって。やらなきゃって思いながらも、知らなかった自分をまた哀れむ。悲しい。何も知らないし、調べようとしない自分の「やる気」の無さ。(あいろにー。ばーがんでぃー。あいらぶゆー。あいへいとみー。)

 かわいいはかっこいいよりも、かっこいい。

 彼女はそう言い切って、自分の正義を突き進んでいる。ギターを壊しては、安くない修理費を握りしめて、私はわかったふりをして、馬鹿な自分を責めて。かわいくて、やさしくて、しょうじきで、たにんおもいで、じぶんかってじゃなくて、うそつきじゃないこになりたい。つまり、あのこ。


 オレンジ色のパーカーが羨ましい。

 ニットが似合うのが羨ましい。

「自分」を持ってる人が羨ましい。

 好きなことを好きだって言える人が羨ましい。

 みんな、羨ましい。


 私は憧れる人なんていないし、なりたい将来もない。夢は自立していて、インディペンデントで自由な女性。今のところ、何一つない。一人なんて、寂しくて無理かも。

 昨日、久しぶりにモンゴルに行っていた友人と会った。手伝った本が完成したからと、完成品をくれた。他にはラクダの置き物と、先生が作ったらしい赤くて綺麗なピアス。嬉しくて、今日もピアスを付けて一日を過ごした。階段を急いで登るたび、ピアスが揺れて、ネックレスが鈴を鳴らし、靴が鳴る。動くたび、鈴の音がなればいいのに。しゃりん、しゃりん、しゃりん。鈍くも甲高い、金属音。落ち着く音。私の音。

 大好きよ。

 最近、途中で断念してしまった「壬生義士伝」を読んでいる。岩手のお客さんが「お申さげない」の「さ」部分が「さ」と「しゃ」の間の音だと教えてくれたから、気になりすぎて読み返してしまった。(頭の中の声は全て、あの時のお客さんの声で流してる。ありがとうございますっ!)

 クッソ面白くて、隣の靴屋のおっさんに「お申しゃげねっすっ」と意味もなく言ってあげた。すると「難しそうなの読んでるね」って笑いながら言われ、少し誇らしげに思った。

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