掬い取っては、咀嚼音。(自由詩)

 蝶が私の名前を囁いていた。耳元に、そのかわいらしい声を発し、囁いていた。

 さらさら、回転わたしのなまえは……

 ねぇ!「なに?」ねぇってば!「だから、なに」名前は!「え」名前!君の名前はなんだい?「私?」そう、君の!「カンパネルラ」素敵な名前だね!「そういうあなたは」ジョバンニ!「かっこいい名前ね」ありがとう!

 星がぷかりと笑いあっているよ。ねぇ、聞こえる?雨音がびーとぼっくすを練習中。ちゅーにんぐがすんだのか、蛙たちがげろりと空を睨んでる。たのしいね。私は妬みを詠んでいる。

 ちょうがみみもとで、ささやいてくる。のろいのあいのことば。きょこうのことば。ほんとうのことば。うそでかためられた、くっきーさ。ことばは、すべてしょくよう。くっきーとおなじ「さくさく」ぐあいで、ぼくとおなじ、やすっぽいあじがする。

 君はプラスチックでできていて、緑色にコーティングされている。夏は日差しが強くて、からりと枯れて、すぐに乾燥してしまう。あ、煙草にできる。くるりと巻いて、夜の街に向かい、煙を吐く。味は笑顔になるような、甘さがあるんだ。ミルキーよりも、濃厚で、甘美で、癖になるんだ。君は僕の肺の中に入り込む。そして、君は僕の肺を君色キミイロに染めてしまうんだ。キミイロ。またの名は、透明でできた極彩色。愛しい、色彩を身に纏っている。

 僕は眠りに就きたいけれど、瞼が閉じる方法を忘れてしまっているようで、どうもいけない。星屑を数えれば、眠くなっていくはずなのに、なぜか君に付けた歯型を思い出して、笑ってしまう。どうして、こうなった。明日は工場に行くんだ。星屑を粉にして、風邪薬にするお仕事さ。君も一緒にどうだい? きっと気に入る。ラムネの香りで立ち込めているからね。( 星屑はみんな「水色の香り付き」) 君とお揃いの香料さ。君の髪から彩る、香りと一緒。泡はみんな、夏の匂い。

 さらりとピンク色をした塩が肌から湧き上がってきて、火山が噴火したみたいに、あたりを桃色に染めていった。「さらり」あなたが私のそばに寄るたび、そんな音がして湧き上がる音と似てるなぁって思うの。さらり。胸元をさらしでまいて、一人で苦しくなって、私はきっと流れていた液晶で見たあの子みたいに、空を羽ばたくんだ。羽ばく、落ちる、泳ぐ。泳ぎは私、得意よ。腕を使わず、飛魚トビウオよりも綺麗に影の中をさまようの。夏は影どりーみんぐ。翳りばかりに目がいって、苦手な目薬を差しては、哀しみにくれるの。私は夏すりーぴんぐ。夏は私の肌から湧き上がる塩からできている。ねぇ、潮は満ちているよ。砂浜を泳いで、帰りましょ。夜が明けてしまったら、すべて溶けてしまうから。

(私は夏。夏は影。つまり、私は影なのよ。)

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