赤く、モノクロく、刹那。

 綺麗なだけの文章書きたくない。嘘ばかりで固められたのではなく、肉を持った、命あるものを書きたい。生々しいとよく言われるけど、そう言ったもの。それよりも、腰の細い女の子に一度はなってみたいものね。


 案外、ずっと欲しがっていたものは、想像通りでつまらないものだった。欲しがっている間は、悶き苦しんでいたのに。現実は、なんだか呆気ない粘り気を持ったものだと、知った。呆気ない、粘り気。

 ミントの香りばかりが辺りに広がり、全身を包んだ。うねり。感覚が身体中に残像のように、残って記憶を蝕んでいた。

 私は、こんなものが欲しかったのね。妙な気だるさだけが、そこにはある。高揚感と、無感動。退屈ね。


 朝、電車に乗っていると、女の子とお母さんが乗り込んだ。「座ります?」って聞こうと思ったけど、私よりも早く隣のお姉さんが「座ります?」先越した。お母さん、「いえいえいえいえ、大丈夫です」って答えたけど、娘は「座りたい……」って呟いてた。まだ小さな女の子。指を加えて、またうとうとしだしたお姉さんを見つめていた。私は、本を読み返し、数回女の子を見返す。

 すると数秒後、娘がお姉さんを指差し、「誰ぇ?」と可愛らしく聞いた。お姉さん、うとうと。私、くすくす。お母さん、にこにこ。けれども困っていた。答えが来ないから、娘はもう一度「誰ぇ? ねぇ、誰ぇ?」うとうとするお姉さんを唾液まみれの指で指した。

 面白かった。


 バイト先の先輩に会った直後に、「紅蛇って壁画とかに出てきそうな顔だよね。壁の女と書いて壁女へきじょ」と言われた。「どこの壁画ですか(笑)」「わかんない(笑)」ちょっと嬉しかった。私、歴史的な顔をしてる。

 あとは、私が母に言われたことを教えてあげた。「あなた、メガネがある方が似合ってる。無い方が違和感あるね」って初めてかけた時に、母が言ったの。すると先輩さんの口から、またも名言迷言が。「甲羅のない亀。眼鏡のない紅蛇。だね」

 もう、好き。すかさずメモしたもん。


 もちだらけ お正月はね もちもちさ そんなこと言った 頃は何処いずこへ?


 雑色 (駅)


 今日、お客さんのおじ様と世界堂について話したら、そこにある絵に似ていると言われた。世界堂の絵?

「モナリザ……ですか?」大きく口を開ける仕草をしたので、私は確信した。

「そうそうそう。お姉さんもあの絵の美人みたいだね」と言われて、ちょっと照れた。

 同じおじ様にTUMIのカバンを見せたら「TUMIな美人だ」的なことを言われて、また照れた。恥ずかしい。

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