「クレナイ、スプレー使ったことある?」「ない」「……楽しいよ」「そっか。よかった」

相変わらず、私はろくな感想が書けず、淡々と色のない心臓に、色彩を添えることしかできない。

いわば、無言の感想。

無言。

無の言。

無。

む。

むの中の空洞部分に、その心臓を差し込まれることを信じる。今の私が考えられる唯一の手段だから。届けと心の中で唱え、繰り返す。


 ————————


 少年と道を歩いた。街の目立たぬ箇所に色彩を添える、Graffitiグラフィティ。ほとんどが違法で行われるが、ストリートアートとも言われている。一緒に歩いた少年は、グラフィティが好きな子であった。


「いつから、好きなの?」

「うーん……いつからやろ」

 悩み、スケボの板を抱え込む。

「小さい頃から……かな」

「そっか。どうして……好きになったの?」

「……バンクシーの映画を見て、インベーダーが出てきて、これ見たことあるなってなって、興味を持った」

 はにかみながら、答えてくれた。

「映画を見た前から……ヒップホップとか聞いてたから、興味はあった」

「なるほど……。ありがとう」

 そうしてまた、はにかんだ。


 うーーーーん、かわいい。


 この少年は、グラフィティーアーティストでもあるのよね。素敵な文字を書く。私も、「クレナイもやったら?」と言われて、書いてみた。色々と悩んで書いて、出来上がった。シンプルに「うるせー」と繋げて書いたもの。写真を撮り、送ってあげると「カッコいい」と返事が届いた。妙に照れくさくなった。

 別の日に、会った時「スケボに書いてくれ」とお願いされた。曖昧に微笑んだけど、別の日に私のところまで走ってきて、ペンを差し出した。人通りの多い、道の真ん中で、立ち止まる二人。手元には真っ青な、インク。

 真新しいスケボの板裏に、「大きく書いていいよ」と嬉しそうに言うものだから、リクエストにお応えして、どーんと大きく書いてあげた。「早いな」まだ乾いていないスケボを大事そうに持ち、また歩き出し、帰宅した。

 昨日は「どうしてうるせーにしたん?」と聞かれ「書いた時に、辺りがうるさかったから、思ったことを書いた」と回答をした。また少し時間が経ち「URUSEってかっこええな」なんて、褒められた。かわいいかよっと思いながら、「ありがとう」と伝えた。

 二人して、あまり喋る方じゃないから、一緒に歩く道は無言が多い。私も、少年も話し上手じゃないから、ぽつりぽつり、途切れる言葉を時間で繋げるスタイル。

 どうしてこうなってしまったのかわからないけど、興味深い話が聞けた。そして、相変わらず、私はその子に「クレナイ」と呼ばれている。


 グラフィティは「落書き」なんていう言い方もされているけど、時間をかけて書かれているものもあるよねー。(許可を取ったもののみ。捕まったら罰金取られたりするから、急いで書かれるものが多いよね。あれは、ちょっとダサい。自己主張が激し過ぎー)

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