国籍は、いらん。国境も、いらん。
叔父の結婚式が、夏にあった。日本ではなく、母の母国が舞台。
私たちは花束を用意するために、ドライブをした。花嫁にではなく、代母である我が母のために。使ったものは花ではなく、麦。特に深い理由はなく、ただ「素敵だから」と母は言った。
けれどもいくら農産業が盛んな国だとしても、麦の花束なんてものは、どこにも売ってなかった。そこで、自ら作ることにした。
街から少し車を走らせると、畑が広がっている。青々とした草原に、風に揺れるアカツメグサ。ミツバチたちが転々と、野に咲く花々を嗅いでいた。
そして、太陽の光を浴びる黄金の麦畑——
いやぁね、誰のかも知らん、麦畑に侵入して、勝手にいくつか頂戴したんですよ。瑞々しい香りがふわぁっと手元の麦から、溢れて心地よかったですね、はい。けれども聞いてくださいよ。虫が、やっばいんですよっ! 小さい、緑色の子達がうじゃああって。バッサバッサ車に入れる前に、振り回して落としたのだけど、まぁ全部取れるわけもなく……。うーんと、楽しかったよ!
(あれ、なんの話をしてましたっけ……?)
あ、そうそう。麦を勝手に獲ったんですよ。悪く言えば、盗人さんですね……。(むこどのといっしょに、どろぼーになったぜ)まぁまぁ、しょうがない。他に手段がなかったし、あれはどこかの企業のものだから、少し採っても、だいじょーぶ。(なはず)
問題はですよ、たくさんいた虫っこたち。(たぶん、アブラムシ)
家に持って帰ってから、ベランダに置いたんですよ。すると、ぽつ。ぽつ、ぽつぽつ——次々とベランダで発見。その時は、完璧に振り落とした時に虫っこを退治したと思っていたから、なぜだ? どこから来たんだ? とパニクりました……。
あいつら、うざいんですよ! 掃除機で吸い取っても、別の子が現れて、吸い取っても、出て来て……。うちの窓辺にいる、ツバメの雛たちにでも、あげようかと思ったもの。うざい。
えーと、うん。虫、うざいねって話。(絶対違うでしょ……)そう、他にもトウモロコシ畑とヒマワリ畑に侵入して、用を足したり。(きゃっ!)グリンピース畑に侵入して、持って帰ったり。誰も面倒を見ていない、畑だったから……つい。(蜘蛛がうじゃうじゃいた……こわい)
まったく、イケナイ子……きゃっ!
いや、違う違う。なんか次々と私の罪ばかりが明かされてるけど、違うっ! 元から、大したこと言いたかったわけじゃないけど、違うっ! 本当に言いたかったことは、麦畑のこと。とっても綺麗なの。正式には、穀物全体のことだけど、国旗の中心部分の色にもなっている。真っ青な空に、輝く黄色のカーペット。
夏が恋しい……。もう、寒いのは嫌。
あ、急に知らない女の子に「パパ見て、中国人がいる!」って言われたのを思い出した。ちげーわっ!
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