私は、

白馬に乗っている娘と、

子どもの方を見た。


そして、手を振った。


思いっきり、手を振った。

右腕がちぎれるくらいの勢いで、手を振った。


確かに、ここから見えるところで。

子どもたちからも、はっきり見えるところで。


白馬に乗っていた娘は、一週目はそのことに気が付かなかったけれど、

二週目で、明らかに気付いた。


それは、きっと娘にとっては不可解な行動で。

それでいて、きっと娘がずっと私に求めていた行動で。


三週目、四週目と、

ちょうど目が合うその瞬間に、手を振った。


あの時、泣いていた子どもを助けるために、娘がしたように。


境遇にあった子どもを、助けたように。


そして、娘が―

今は私のたった一人の娘が、

最初は困った表情をしながらも、手を振り返してくれた。


五週目、六週目でも、同じことを繰り返す

…はずだった。


でも、娘はまだ動いているメリーゴーランドから飛び降りて、

受付の女性と子どもの親が止めるのも振り切って、


こちらに、走ってきた。


私に決して見せてくれなかった、

その笑顔を。


私のせいで、見せられなかった、

その愛しいはずの笑顔を。


私が、ただただ自分のエゴで、

縛り付けていたはずの笑顔を。


私が閉ざしてしまった、心からの笑顔を。


ごめん。

ごめんね。

本当に、ごめんね。


視界が滲む。焦点の先に娘の姿が見えなくなって、

涙が止まらなくなる。

立っていられなくなる。


ごめんなさい。

ごめんなさい。

ごめんなさい。

ごめんなさい。


もし、時が戻るなら。


あの、反時計回りに回転し続ける、メリーゴーランドと同じように、

時間が、戻せるなら。


もう一人の娘と、私の

大事な存在を二人も同時に失ったあの時から、やり直したい。

もう二度と、大切な「もの」を失わないように


いや、いつ失っても悲しくないように、

新しい命を勝手に「もの」として扱い続けて。


あんなに、健康に生まれてきてくれたのに。

あんなに、大きく、優しい子に育ってくれたのに。


一度も、娘の気持ちを考えずに。

私のエゴで、痛みを与え続けたのに。

それでも娘は、何も言わなくて。

ただそれは、私の右手を温めてくれる手袋のような「温もり」でしかなかったのに。


私は膝を折って、大声で泣き叫んだ。

どれだけ泣いても、私が娘に対して犯した罪は消えないのに。

あの時、

二度と親が戻ってこないと泣き叫んだ、あの子どものように――



ふと、体を包む感触があった。


こんなにもひどいことをした私を、

わたしの娘は、笑顔で、抱きしめてくれていた。





お○○さん

お○あさん

おかあさん


もう、だいじょうぶだよ。

わたしが、ついてるからね。

わたしが、まもってあげるからね。


でも、もうわらってもいいよね。

おかあさんが、やっとわらってくれたから。

しんじゃった、おとうさんと、おねえちゃんのぶんまで、

わらっても、いいよね。















 ――

 年が変わって また月日が過ぎて 

決して 時間が戻らなくても

 どれだけのことを やり直せるだろうか

 どれだけの愛を 償いを 娘に与えられるだろうか

 

 決して変えられない(反時計回りの)過去と

 これから変えられるかもしれない(時計回りの)未来と


 それを教えてくれた娘と 子どもと そのお母さんと


 ああ 儚くも素晴らしきかな


 メリー・メリーゴーランド。

 ――











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