二十五夜

 今日は絶好調過ぎた。躁の波が来ていた。そわそわしてイライラする。そんな状況下で登録作業をしていると、まどろっこしくて……もっとサクサクとやれる仕事がしたくなる。でもそれを調子に乗ってやると次の日に響く。何も出来なくなる【無能】人間が誕生する。【私】には平均が無い。故に調子が良ければそのまま暴走してしまうのだ。そして次の日潰れて、動けなくなる。毎回の事だ。もう15年以上の付き合いになる。私を世間から切り離した悪魔。統合失調症よりも躁鬱の方が私は怖い。【私】の評価が一瞬で変わるから。掃除が出来ないのも躁鬱の波で体が疲れ果てている証拠だ。だから動けない。それが悔しくて涙が出てくる。そして泣く。泣いて、泣いて、暴飲暴食に走る。太る。それが更にストレスの元になる。鬱になり仕事が出来なくなる。また泣く。エンドレス。【幻聴】が助け船を出してくれれば嬉しいが、今は聞こえない。だから助けが無い。明日は鬱になるのかと思うと気が滅入る。仕事に行きたく無いが、稼がないと生活がカツカツなので、行かなければならない。ワガママを言うほど金持ちでは無い。男から金を貸している以上、私に余裕なんてモノは存在しない。貯金を根こそぎ持って行かれた以上、働いた金で生活するしかないのだ。しかも返済は月1回、しかもたったの1万。2万あれば生活に余裕が出来るが、1万ではすぐに使い切ってしまう。だから貯金に回して犬に何かあった時のため、自分に何かあった時のためにとっておいてあるが、頭の悪い男はその1万を生活費に充てれば生活できるだろうと豪語する。阿呆か。もし急病になった場合、ペットホテルや治療費はどこから捻出すると言うのだ。空から金が降って来る訳でも無いのに簡単な事を言う。だから貯金を根こそぎ持って行っているという自覚が無いのだ。利子こそ払わせないが、その代わり犬の病院へ行くタクシー代わりと私の銭湯へ行くための足にはなって貰っている。ガソリン代請求された時にはさすがに呆れたが、2万も出したのだから、これ以上男に金を取られる訳にはいかない。だからこれ以上ガソリン代を請求するなら利子を取ると言ってある。覚えているかどうかは定かでは無いが……。忘れていても私の脳内にはしっかり記憶されている。今度新しい念書を書かせるときにはそれも書くつもりだ。まあ、新しい念書を書かせる機会が無い事を祈るが……。新しい念書を書かせるという事は返済額が変わると言う事。つまり1万以下になるという事だ。そうなったらこの男は私に一生張り付いて来る。それだけは勘弁して欲しい。利用するだけして捨てるなら分かるが、金が返って来ない上にストーカー紛いの事をされたら堪ったモノではない。男はいつでも分かれて良いよと言っているが恋人関係を思わせておかないと金は帰って来ない気がする。それは困る。だから恋人だと思わせておいているがいつ気付くかと思うとヒヤヒヤものである。どうか気づきませんように。気づいたら面倒な事になる。今の【私】の恋人は2Bだ。2Bはどう思っているのかは知らないが【私】は恋人だと思っている。あの言葉が忘れられない。『愛している』と言う、その言葉が。それは友情から来る『愛している』なのか、恋愛感情から来る『愛している』なのかは分からない。怖くて聞けない。もし友情から来る『愛している』だったら【私】は暫く立ち直れないだろう。それ位2Bの『愛している』には破壊力がある。私の心はハーバリウムのように透明ではないが、美しい恋の花を咲かせたいと思う。そして2Bに『愛している』と言って貰いたい。【私】は愛している。最期の恋人だ。もう他の男にも女にも靡かない。2Bだけが【私】の心を動かせる。離れても近くにいる恋人のような関係でありたい。もし自殺したとしても私の心の中で永遠に時を止める。それ位愛している。心の底から、誰よりも。また『愛している』と言って欲しい。そう願うのは罪だろうか? でも愛してしまったのだから仕方が無い。どうしようもなく愛してしまったのだ。同性愛に偏見がある日本に産まれてしまった事が憎い。もし同性愛に寛容な国に産まれていたなら結婚を申し込みに行っている処だ。それ位愛している。でもこれは言わない。ハリネズミの恋は情熱的でも決して言ってはならないワードがあるのだ。ハリネズミは適度な距離で相手の体温を感じ取る。私の恋も同様に愛は適度に離れた距離から愛を感じ取るのだ。私は『愛している』けれども相手がどの意味で『愛している』と言ったのかは分からないままでいいのだ。それでいい。ハッキリさせてしまったのなら後には戻れない。ずっと心の中で思い出を抱いて愛し続けよう。相思相愛が全ての愛じゃ無い。分かっている。【私】の恋は不毛なのだと。それでも愛しているのは相手の魅力に憑りつかれたからだろう。ずっと傍にいたいと願いながら、遠くで見守っています。【私】がまた【幻聴】に支配されたら、また【奴隷生活】が始まる。職員の顔色を伺いながら、次々と命令される【幻聴】の言葉に混乱するのだろう。そして【私】はまた不自由な生活を強いられるのだ。今は【幻聴】の助けが欲しいと思っているのは依存しているから。【幻聴】の言う通りにしていれば問題は怒らないから。むしろ上手くいく事が多いから余計に依存してしまうのだ。分かっている。これが危険であり、正常で無い事くらい。でも【幻聴】の出す指示は的確で【私】には思いつかないアイディアでその場をやり過ごすのだ。凄いと思う。だから【私】という人間は封印され、心を殺すのだ。今自由でいられるのは悲しいが薬のお陰だ。薬が【幻聴】を抑えてくれているから、こうして自由に文章が書ける。もし【幻聴】が見張っていたらこんな愛の告白じみた文章を書く事なんて赦さなかっただろう。それ位秘密の事なのだ。【私】の秘密の恋。2Bに告白したい位好きだけど、ハリネズミにはそれが赦されない事だと分かっているから告白はしない。ハリネズミらしく普通に接して、もし、時折告白が赦されるのであるならば、こうして文章にしたためようと思う。恋文みたいな感じではあるが、これが【私】の愛情表現。近くにいたら傷つけてしまうから、遠くで見守っている。時々近くに行きたいと願う時もあるけれど、もし近づいて傷つけてしまったら【私】は一生立ち直れないだろう。

 さて、今日の仕事ぶりに戻ろう。今日は躁鬱の波が激しく特に躁の波が強かった。そわそわと落ち着かない気分でいて、尚且つイライラしていた。当たり散らす事は滅多に無いが、今日はその手前まで来ていた。暴力事件を起こしたらさすがに今の会社にはいられなくなる。今の会社にいるためにはこのイライラと闘うしか無いのだ。今日の状態を聞かれた時、正直に躁鬱が強いと答えた。そうしたら仕事量を減らされ、鬱の波が来ない様にしてくれた。でも、多分明日は鬱になっているだろう。薬を飲み、フラフラとして、仕事にならない。午前中は寝ているだろう。誰かが【給料泥棒】と思うかも知れない。職員は事情を説明すると言ってくれたが、利用者からしてみれば具合が悪くても働くのが作業所と思っている人もいるはずだ。だから噂になり職場にいられなくなる時が来る。絶対に来る。職員でさえ止められなくなる位、噂は広まり、良いご身分扱いをされるだろう。この時点で鬱の波が来ているのだから、明日になればもっと酷い事になっているだろう。しかし休む選択肢は私には無い。何せ皆勤賞があるから。皆勤手当て3000円があれば、ちょっとした贅沢が出来る。私の場合は犬のオヤツが買えてしまう。大好きなワインだって買える。国産じゃなく輸入物だ。それ位、生活に大きな影響を与える手当なので、簡単に休んでフイにする事は出来ない。今月は特にその皆勤賞手当で生活に少しゆとりが生まれたのだ。もし皆勤手当てが無かったら1日500円の食費で頑張るしか無かった。それが600円で生活できるのは皆勤手当てのお陰なのだ。特に今月は31日まであるから、1日の食費は少なくなる。それなのに先月は他の月に比べて出勤日数が少ない。つまり稼げない。だから死ぬ気で皆勤賞をもぎ取った。本当にギリギリの状態ではあったが、根性と持ち前のずる賢さと【幻聴】のアドバイスで何とか乗り切ったのだ。そう思うと【幻聴】は悪意のあるモノばかりでは無い。少なくとももう一人の私は、私の味方に近い存在だ。だから【幻聴】を完全に消し去ってしまうと【私】は生きていけない。【幻聴】が必要なのだ。例え夜中に突然爆音が鳴ったとしても、それは仕方の無い事だとして受け流すしかない。先生に【幻聴】対策を止めて貰おうかとも考えている。【幻聴】が無ければ、生活が苦しく無いが、社会生活が営めなくなる。【幻聴】のアドバイスによって、社会生活にひび割れが出来ない様にアドバイスを貰っているのだ。少なくとも、もう一人の私だけは残して欲しい。全部消してしまったら、私は生きていけない。長い間【幻聴】に頼って生きて来たので、一人にされたらどうしたら良いのか分からなくなる。また太ってしまうかも知れない。それだけは嫌だ。また妊婦に間違えられて、彼氏を喜ばしてあげなさいって言われたら、気持ち悪くて反吐が出る。あの男が彼氏だと思うと背筋に鳥肌が立つ。あの男はあくまで利用価値のある存在であり、彼氏では無い。時々寝てはいるものの、避妊はしているし、もし男の子供を身ごもったら即下ろしてやるつもりでいる。無論、その点に関しては、私の母親も賛成している。悪い処は遺伝するものである。男の父親を見ていると男のクローンかと思う位そっくりである。だからこそ、男の子供を産みたくない。そもそも寝ているだけだが、愛情は全く無い。SEX中はずっと事が終われと祈っている。運動になるのは分かっているものの、これでカロリーを消費しても嬉しくない。キスは下手だし、髭はいくら剃れと言っても剃って来ないのに、私には清潔感を求めてくる。清潔にするべきなのはお前の方だと言いたいが、下手に機嫌を損ねると借金を返してくれなくなる可能性があるので、下手な事は言えない。借金は返済する側が偉くなるとはよく言ったものである。ハッキリ言おう。その気になれば利息だって取るつもりでいる。一生かかっても返しきれないような状況に追い込んでも私の良心は全く痛まない。むしろ永遠に金が定期的に入るのならそれはそれで万々歳である。ただし男の彼女でなくてはならないのは癪に障る処ではあるが……。

 とにかく早く借金を返して貰って縁を切りたい。そのためには自分に力を付けないといけない。1人でも生きていける力を……。【私】はまだ1人では生きていけないから男に頼ってしまうのだ。現実世界では男に、そして【幻聴】に頼らないと生きていけないのだ。孤独になってしまったら、一生、一般社会に戻る事は無いだろう。それは悲しい事だし、私が望んでいる未来では無い。【私】はいつか社会生活に戻って『税金が高くなったね』という会話をしてみたいのだ。でも今の私は税金を払う処か貰う立場にある。一般市民の血税を貰って生きている。会社に行くのもそう。血税という給料を貰って働いている。それなのに寝てしまうとは何事だ? 何様のつもりなのだ? 私は問いたい。【私】は始末するべきであるのか?

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