十夜

 私の中のもう一人の私。それは今から10年前以上から存在する。私が意識してきたのは最近で、それまで多重人格かと思い込んでいた。だからその手の話に詳しい人に話を聞いてみたりもした(その人は私を多重人格と呼んで面倒を見ると言ったが、分裂していく私に耐えられなくなり、逃げ出した)。私は統合失調症と気分障害が混ざった珍しいタイプの病気だ。だからと言って特に人生に大きな損害を与えた訳では無いが、まともに生きていける体では無くなった。血税と作業所の工賃が無ければ、生きていけない。それが現実。だからと言って、悲観している訳では無い。悲観しているのは一般人の血税を貪り喰っている事だ。本当にそれは死んでお詫びするしか無いと思っている。私が死ぬ事で税金が使われ無くなるのだから……。しかも病院に行く交通費も血税を使っている。自力で行けない距離にあるのは仕方の無い事だとして、交通費くらい自分で稼ぎたい。作業所で稼いでいると思われがちだが、作業所も税金が使われている。つまり私は100%血税で生きているのだ。一般企業に出たくても、電話に出るのが怖くて出来ない。それは社会人として致命的な欠点だ。死ぬべきだと思うのはそこから来ている。電話応対が出来るようになったら、少しは役に立つ世界に飛びたてるとおもうのだが……。それは夢物語を寝ながら語っているようなものである。現実はそんなに甘くない。私みたいな人物を雇用してくれる処なんてどこにもない。だから血税で生きている。親はもう縋るなと言って、私を突き放した。この時点で生活保護に入れるのだが、生活保護も血税である。それなら今の暮らしの方がマシだ。それに親が生活保護を認めないだろう。親戚中に知れ渡るのだ。私を汚点とみなしている親にしてみれば、恥ずかしい事この上無い。だから時々援助をしてくれる。……が、家に入ってきた事は一度も無い。ただ玄関の前にトイレットペーパーやテッシュや非常食をどんと置いて帰るだけ。一言の会話も無い。ありがとうと私は一応礼を言うが『ああ』としか返って来ない。お盆も帰省しなかった。休みが分からないという理由で。あとは私の家には2匹の犬がいる。殺処分寸前の処を私と重ね合わせて、つい引き取ってしまった犬だ。これについては、罵倒されても仕方が無い。税金泥棒という汚点も喜んで身に纏おう。しかし2つの命だけは非難しないで欲しい。血統書があるが故に引き取られ、飽きられ、捨てられた命。この殺される運命だった命を殺されるべきだと言うのならお前が死んでその金寄越せと言う。命を粗末に扱うのなら、命を粗末に扱われても異論は無いはずだ。そういう事だろうと私は思う。

『随分哲学的な事を考えているね。珍しくスイッチが入っている?』

「多分。何故私が休憩出来ないのか考えていた」

『お前には休憩なんて必要無いよ。だって無能だもん。無能な人間は非効率だからそれを補うために休憩時間を削って働くんだよ?』

「そっか……」

『お前は血税を喰うゴミ虫だ。この世に存在してはいけない存在。悪の化身。忌子。呪われた子』

 私の中のもう一人の私……【幻聴】は容赦無く現実を突き付けてくる。そう。私は非効率。それを補うためには誰よりも働くしか無い。目が痛くなっても、頭がぼんやりしてきても、耐えなければいけないのだ。生産性を上げなければ、少しでも血税を使わないために利益を出さなければいけない。私は鈍間だから誰よりも休憩は赦されない。ずっと働き続けるしか無いのだ。これからの将来、病気が治らず死ぬ事になろうとも、ありとあらゆる方法を使って働き続けなければならない。腰が曲がり老婆になり果てたとしても。リタイアは赦されない。一生働き続けて、血税を返していくしか無いのだ。それが私に課せられた使命であり運命だ。そのためには、私は書かなければならない。書いて書いて書いて、発信していくしか無い。いつかこのエッセイと日記の中間が誰かの目に留まるその時まで……。

 毎朝4時に起きるのが日課となっている。理由は簡単。寝る時間が早すぎるのだ。8時には寝て、夢を見ている。テレビもラジオも無い私の家では眠る事が唯一の楽しみ。テレビを買えば良いだろうという意見もあるかも知れないが、これ以上血税を使って生活したくない。テレビは娯楽だ。娯楽に血税を投資したくない。ラジオも携帯ラジオ位は必要かも知れないが、普通のラジオがやはり娯楽である。それも不必要だ。贅沢は敵。私は服は貰い物しか持っていない。買ったらそれは贅沢になるから、実家から送られてくる服だけを着て生活している。だから極端に服が少ない。でも良い。1週間不潔にならずに、作業所に通える程度の服を持っていれば良い。それ以上は贅沢過ぎる。贅沢は敵。私は質素に生きなければならない。唯一PCを持っているが、それは貰い物で、かれこれ7~8年は使っている。もうDVDを見る機能は壊れ、長い事映画を見ていない。映画も贅沢品になるので、見に行きたいと思っても行かない。贅沢する価値は私には無い。だから我慢の連続。それを貧乏と呼ぶなら、私は貧乏なのだろう。しかし血税を喰っている以上、それで十分なのだ。映画もDVDもテレビもラジオも楽しめない、そんな生活が似合っている。スリッパだってしまむらの安い奴を買って、使用4ヶ月目にして破れている。新しく買い換えなければならないが、まだ履けるので使っている。ボロボロになるまで履く予定だ。あと食費は1日700円迄。もっと出せると思われがちだが、ガス代が高くて自炊が出来ない。顔を洗う時は水だし、洗濯物は溜まる前に洗っている。水道代はタダな物件に住んでいるので、水はジャブジャブ使っている。だからなのか水は錆の匂いがしてまともに飲めない。だから水出し麦茶で誤魔化して飲んでいる。本当は我慢して水を飲むべきなのだが、それすら出来ない贅沢者である事を赦して欲しい。風呂は1週間に1回。ガス代がかかるから銭湯に通っている。もっと風呂に入るべきなのだが、今は冬なので臭いがしない。夏はどうしようか考えている。さすがに1週間に1度だと臭うだろう。冬の特権は有難い。服も2~3回着てから洗濯している。そうしないと電気代が嵩んで血税の無駄になる。血税を削るためなら、ありとあらゆる手段を使って誤魔化してやる。最悪ファブリーズなんかがあるから、それを使うのも手かも知れない。玄関は靴の臭いが酷いから、芳香剤を使っているが、それだって贅沢品だ。新聞紙で我慢すれば良いのに、我慢出来ないから頭の痛い問題である。もう芳香剤が無いから玄関は犬の臭いで充満している。置くタイプのファブリーズを使ってみるチャンスかも知れないが、振るタイプの芳香剤の方が安い。少しでも節約するためには1円も無駄には出来ないのだ。こうやって節約をしてようやく生活が出来ている。もっと家賃の安い処に住めば良いのかも知れないが、あと1年契約が残っているし、何より作業所の送迎から外れる事になる。つまり血税を使って公共交通を乗れと言っているようなものだ。それは避けたい。毎日血税を使って乗り回していたら、せっかくの節約が無駄になってしまう。それは嫌だ。ちなみにワンセグがあるからと言ってNHKから受信料の催促が来たが、私の貧乏っぷりと税金免除対象者なので払っていない。これだけでも良いご身分だ。あとは食費をもう少し削りたい。そうすれば服が買える。化粧品も買えるだろう。作業所とは言え職場だから、試供品でメイクして出社するのにも限界がある。全く自分は何をやっているのだろう。これでは能無しの金遣い荒い生活者では無いか。もっと食費を減らさなければ。もっと孤独にならなければ。そうしないと交際費が嵩んでしまう。

 最近、過食が多い。1日700円をオーバーする日が増えてきている。このままでは食費が間に合わない。仕方ない。セフレの家に行くか。食費を賄うとしたらあそこしか無い。セフレにご飯を要求してなんとか飢えを凌ぐ。または食べない。それが一番かも知れない、最近太って来たから良いダイエットになる。方法は簡単。晩御飯を買わずに家に帰り家計簿を付ける。訂正の利かない家計簿で嘘を付くのは無理だ。昨日今日と400円オーバーしているから、明日こそ何とかして700円以下にならないといけない。セフレにご飯をたかったとしても1日位だ。給料日前だから助けてくれとしか言いようが無い。酒も呑めるし良い事だ。酒は太る原因だが、蒸留酒なら太る心配も要らない。あとは適当にSEXしてご奉仕すれば完了だ。なんと楽な人生だろう。こんな楽で良いのだろうか?

 今日は嫌な事を思い出した。前の職場で【給料泥棒】と罵られ、減給された事を。あれは薬の副作用だったのに、勝手に『薬は減らせないのか?』『ちゃんと寝ているのか?』『何時に寝ているのか?』『夜更かししているのでは無いのか?』『医者に報告はしているのか?』『もっと診察する日数を増やして貰えないのか?』等と、詰め寄られた。その会社をS社としよう。利益主義で利用者も平気で殴るその会社は、今ものうのうと血税を貰って会社を運営している。最もハローワークに登録抹消されたようなので、一応、ペナルティは喰らっているようだが……。あと色々会社方針が変わったようなので、きっと今頃退職者が増加しているに違いない。退職者が増える事はつまり国からの援助が減るという事。自分で自分の首を締めたのだから、いい気味だ。スッキリする。金が無くて売れるモノなら何でも売る主義は変わらないみたいだが、少しは反省しただろう。いや、社長が腐っているから何も変わらないかも知れないが。

 そんなこんなで今の会社だが、残業手当は出るし血税をなるべく使わない方法を取っている。無論、国からの援助は受けているがそれらは全て利用者に還元されている。だからだろうか。仕事が無くならない。他の作業所では読書感想文を書いてそれを仕事としている処もあるらしい。それに比べれば、なんとも理想的な職場だろう。タオルをひたすら畳む作業所もあるらしい。それで国からの援助を受けているのだから、血税を貪り喰っている人間が多いという事だろう。一番赦せないのは生活保護者も働けるという事だ。一般企業を目指せば良いのに、何故か作業所に来て作業している。低所得の人が働けば、余剰分は差し引かれるので、丸儲けは出来ない仕組みになっているようだが……。私のように一般に行けない身分の人からしてみれば贅沢者だ。憎むべき敵だ。いつも見ていてイライラする。私だって薬が要らなくて一般に働けるならとっくに作業所を辞めている。それが出来ないから、訓練しているのだ。でも電話が取れない以上、いつまで経ってもどこにも雇って貰えない。介護は親が猛反対をするからダメだ。潰しが利かなくなるのも理由らしい。もっと視野を広げろという事だろう。私にしてみれば、税金を納めて血税を喰う事を辞められれば風俗にだって行こうと思えば行ける。最も年齢が中年なので、雇って貰える場所は無いだろうが……。私は今日も風呂には入らない。いや、入れない。だってお金が無いから。食費の穴埋めをするためには風呂代を充てるしか方法が無い。私は不潔の代わりに喰っているのだ。過食症が頭を過る。自炊は出来なくもないが、材料を買うだけで、年金が無くなる。それだけ年金は減らされているのだ。事実、カップラーメンを毎日食べた方が、食費は浮く。

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