第20話 激戦終えて
公園の中で三人は、茂みに身を潜めている。
噴水の前に立っている二人を、固唾を呑んで見守っている。
島田悟と、早川香織、数歩の距離でお互いを見合っている二人を。
「なんかさあ、こそこそしてて、後ろめたいなあ」
雄也がぼそり。
「でも島田の奴が、見ててくれ応援しててくれ俺にパワー送ってくれ、ってこうしてあたしらを呼びつけたんだぜえ」
ないきは、むしろありがたく思えといわんばかりの口ぶりである。
「愛の告白、成功するといいですねえ」
ほのかは、他人のことながらドキドキしてしまって、笑顔が真っ赤っかだ。
「大丈夫っしょ。って確証はないけど、でも大丈夫」
純情百パーセントのほのかと違って、娯楽百パーセントなのか平然とした表情口調のないきである。
「お、いうぞっ!」
雄也のこそっと小さな叫び声に、ないきたちは口を閉ざし、耳を澄ませた。
「お、お、お、お」
前回同様、相変わらずつっかえつっかえの悟であった。前回はこのあと、ほのかの顔を真っ赤にさせるとんでもないことをいったのだが。
「お、お、おれ、おれっ、おれっ」
今回は大丈夫のようである。
「頑張れっ!」
ほのか、両の拳を強く握り締めながら、茂みの陰からぼそりこそり。
「負けんなあ。うおーっ」
ないきも、バレない程度の大声で、右手を天へと突き上げた。
彼女らの応援が届いたのか、ついに悟が、
「おれっ、おれっ、おれとっ、とっ、つきっ、つきっ、付き合っ!」
告白の言葉が喉元に出掛かった。
だが、
しかし……
付き合「って」、の口の形になったタイミングであった。
「おい、香織、なにやってんだよ?」
えんじ色のブレザー、他校の制服を着た、すらり背の高い男子があらわれたのは。
「ああ、
香織は、ニコリ笑顔を作った。
知り合いのようである。
「だ、だだっ、だだっ、だだっ、だれ誰っ?」
悟はすっかり狼狽した様子で、両手の人差し指をぶんぶん振り回した。
つっかえつっかえようやく発した質問であるが、答えが返るまではほんの一瞬であった。
「彼氏だけど」
それがなにか? といったような香織の表情。
悟は、あまりの驚きに、張り裂けそうなほどの大口を開けていた。
「か、かかっ……」
「それよりも、島田くんの用ってなんなの? 私たち、これからデートだから、早く済ませたいんだけど」
「あ、ああっ、えとっ、えとっ、妹がさっ、お、お前のこと気にいっちゃって。たまたま近くにきたから、とか、なんとなあく、とかでいいから気が向いたらまた遊んでやってくれよな。って、それだけ。ただそんだけっ」
「うん、分かった」
香織は笑顔で頷いた。
「学校でっ、たたっ頼んでもよかったんだけど俺はっ、なんか勘違いされてもお前が困ると思って。んじゃあなっ、デート楽しんでこいよ!」
呆けた表情ながらも格好つけた台詞を吐いて、ぶんぶんぶんぶん手を振って香織たちカップルを公園から送り出したはいいが、いつまでも、その表情のまま、立ち尽くしている悟であった。
茂みの陰から見ていたほのかは、同情禁じ得ないといった、ちょっと悲しそうな顔で、
「まあ、そういう関係も、ありですかねえ。でもなんだか、かわいそお……」
「いやあ、ありもなにも、あいつにはそういう関係程度しかありじゃないでしょ。アホでスケベで悟のくせに、彼女を欲するだなんて、百億年早いんだっつーの」
ないきはそういうと腹を抱えて、わははははと大笑いを始めた。
「ちょ、ちょっと、ないきちゃんっ、そんなに笑わなくてもお! 目の前で、人が失恋したんですよお! フシンキンだと思いますう」
「だあって、おかしいんだもん。それとそれいうならフキンシンな。ああ、しかしおかしい最高っ!」
と、ないきが、なおも振られっぷりに大爆笑していると、
「そんなにおかしいか?」
いつからいたのか、悟がすぐ前に立っていた。
恨めしそうな顔で。
ないきは、びっくん肩を震わせると、一瞬浮かべたやべっという表情を、ごまかすような笑顔で隠しながら、
「あ、あっ、いや、ごめんね悟くーん。落ち込むなよお。元気出せーっ」
と、しゃかしゃか悟の頭をなでるが、
「もうおせーーーっ!」
叫ぶが早いか、悟はないきの制服スカートを両手でがっし掴んで、はぎ取らんばかり全力全開容赦なく躊躇いなくめくり上げていた。
ないきの顔が隠れてしまうくらいに、目いっぱい限界まで。
ないきの顔に「!」が浮かんだ瞬間には、悟は既に横へステップを踏んでほのかも同様の毒牙にかけていた。
「てめ、なにしやがる!」
「なんで私までえ!」
二人は裏声で絶叫しながら、スカートを両手で押さえ付けた。
「うるせーっ、ブァーカ!」
悟はあかんべえをすると、掴みかかろうとするないきの手をかいくぐって、お尻ペンペン挑発した。
「待てえ!」
追いかける女子二人であるが、悟はすばしっこく、なかなか捕まらない。
なんとなく雄也の方を見たほのかは、彼の顔が赤くなっていることに気づき、自らもぽあっと燃えるように真っ赤になった。まるで自分の髪の色のように。
「雄也くん、さては見ましたねえ!」
標的変更、ほのかは雄也へと詰め寄った。
「べべ別にっ、な、なんにも見てないっ!」
雄也は、踵を返して逃げ出した。
「怪しいっ!」
「怪しくないっ!」
「白状しなさあいっ!」
逃げる雄也に、追うほのか。
「わはははは!」
いつの間にか、ないきと悟が、取っ組み合って脇腹をくすぐり合っている。
ほのかは、雄也を追いかけながらちらり横目で悟たちを見て、思わず微笑んでいた。
『やっぱり悟くんは、こうでなくっちゃダメですよねえ』
ぽわわわわん、という音とともに映像範囲が急速に狭まって、画面左上の、ほのかの顔だけが丸い枠で残り、他の部分はすべて青い色になった。
いわゆる丸ワイプである。
その中で、振り向いたほのかが、カメラ目線になって口を開く、
「まっ、とりあえずは、めでたしめでたしってことで、いいのかな?」
ふふ、
と微笑んだその瞬間、
「ひゃあっ!」
びっくり顔になって悲鳴を上げていた。
ワイプの枠がぐーっと広がって、ほのかの全身が映る。
背後から寄った悟によって、またスカートを豪快にめくられて下着全開になっていた。
「お前はあっ」
と、都賀ないきが背後から悟の首根っこをがっしと掴んだ。
「いい加減にっ、しろおおお!」
怒鳴りながら、画面へ向かって容赦なく顔面を叩きつけていた。
むちょーーーっとガラスに押し付けられたような悟の顔。
画面にピシパシと無数の亀裂が入り、そして、ガシャアンと砕けた。
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