第16話 ほのか、変身!

 ハープと、太鼓。

 神秘的幻想的、かつ、力強い躍動感、音色。


 学校の制服姿のほのかが、毅然とした表情で、立っている。

 背後には、激しく燃える無数の炎が、うねりうねって渦をなしている。

 まるで、炎の龍のようである。


 その、炎の龍が、もたげた鎌首を振り下ろす蛇のように、次々と、ほのかへとシャンと伸びて、身体に撫でまとわりついていく。


 全身から、足元のアップへと映像が切り替わる。視点が、ぐるぐる回りながら、上へ上へと、ほのかの姿を映し出していく。


 ごう、と炎が腕を撫でると、制服の袖がなくなって、肩から伸びる細い腕が、根から先端まであらわになった。


 ごう、と炎が身体を包み回るように上ると、靴、靴下、スカート、ブラウスが燃え、パチリはぜたその瞬間に空気の中に溶け消えた。


 白い下着だけの姿になったほのかへと、頭上から迫る二匹の炎の龍がぐんと伸びて交差した。


 下着さえも燃え溶けて、生まれたままの姿になったほのかの背後で、うねる炎の渦が大爆発、爆音とともに四方八方に飛び散った。


 四散した炎がすべて、吸い付くようにほのかの肉体へとまとわりついた。

 身体に、

 腕に、

 足に。


 めらめら燃える炎に全身を包まれているというのに、ほのかの顔は涼しげで苦痛の色は微塵もない。

 炎の中で、ほのかはすうっと右腕を、そして左腕を軽く振るった。

 まとわりついていた炎が散って消えると、ほのかの腕は、白を基調に赤や薄桃色で装飾された布地に包まれていた。


 続いて、今度は身体を覆う炎が、弾けるようにすべて吹き飛んだ。

 胴体部分も腕と同じような色合いであるが、質感が違う。鎧の役割を果たしているのか、皮のように硬そうだ。


 古代日本風の現代アレンジというべきか、中世ヨーロッパファンタジー風というべきか、いずれにせよ見る者に幻想感を与える服装であった。

 コルセットでもしているかのように細く硬そうな上半身に比べ、膝上丈のスカートはふんわり柔らかそう。

 いつの間にか手足には、赤いグローブに、ブーツ。


 もともとが赤毛髪質の彼女であるが、それがさらに燃えるような色へと変わっていた。



『これが魔道着によって真の能力が開放された、ほのかのバトルフォームである』



 変身を終えたほのかは、常人には信じられない跳躍力を発揮し、目の前の建物を軽々と飛び越えて、マーカイ獣の前にすたっと着地。

 軽く屈んだ姿勢から、ゆっくりと立ち上がった。


「魔法女子……」


 と、牙をむき出しぐるると唸るマーカイ獣を、ほのかは顔を上げて、毅然とした顔で睨みつけると、口を開いた。


「紅蓮の炎、世界にあり! 我、魔法女子ほのかが、炎を己が刃とし、蒙昧にゃる、間違った、蒙昧なる、ああ悪、悪の、し、しし、使徒どども、じゃなくて、どど、どぼのっ」


 上手くいわねば格好がつかない、と焦りが焦りを呼ぶ悪循環の、最低な口上であった。


「噛みまくるくらいなら、黙ってろよ!」


 口上はお約束か、とおとなしく聞いていたマーカイ獣も、さすがに忍耐の限界に達してしまったようで、イラつき隠さず牙をむき出し怒鳴った。


「きき、昨日は練習でちゃんといえたもん!」


 ほのかは恥ずかしさをごまかすように、声をひっくり返して叫んだ。


「変身してもバカはバカ、って噂は本当だったんだな」


 マーカイ獣ヴェルフは、肩をすくめ苦笑した。見下しているどころか、哀れみすら浮かんでいる表情であった。


「ほのかーっ!」


 怒鳴り声を張り上げたのは、ニャーケトルである。ふわふわと、ほのかの眼前へと迫り、ぽかんと頭を殴り付けた、


「アホな噂を立てられてんじゃねえよ! 舐められっだろがあ!」

「バカっていう方がバカなんですう!」

「てめえを見てりゃあ誰だっていうぜえ!」

「こ、これから戦いだというのに、そんな人の気持ちを盛り下げることいって、なにかいいことあるんですかああ!」

「うるせえな、いちいち涙目になってねえで、とっとと狼野郎を倒せよ!」

「いわれなくても……あれ? いないっ!」


 きょろきょろ周囲を見回すが、マーカイ獣の姿が見えず。

 風を切る音に、ふと見上げると、


「死ねえ!」


 マーカイ獣が、ほのかへと落ちてきた。

 丸太のような太い腕をぶんと振って、ほのかの顔へと、鋭い爪を打ち下ろした。

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