第10話 好きなんですよ

 とも、妹が、足をくじいたんだ。

 野犬だかなんだか、とにかく犬に襲われて。


 といっても、大きな犬じゃなかったらしいけど。ま、妹には大きく見えたのかな。まだ五歳だからな。

 襲われたといっても、別に噛まれたわけじゃない。

 うーと唸られ、勝手に怖がって泣き叫んで逃げ出しただけ。

 一緒にいた友達の話では、そういうことらしい。


 犬は別に追ってこなかったらしいけど、妹にそんな冷静な判断力はなく、喚きながらひたすら全力で走って、坂で転んで、右足を捻ってしまった。


 今度はその痛みにわんわん泣く朋美。

 そこに通りかかって、家まで運んで、手当てしてくれたのが、早川だったんだ。


 妹と遊んでくれているうちに、おれが帰ってきて。

 あれ、確か隣のクラスの早川だよな、ってびっくりしたよ。


 おれん家、たまたま数日間、両親が不在で。うち貧乏だし食材を買い込んでなんとか自分で作るしかないかなあ、なんて思っていたんだけど、早川が買い物に付き合ってくれて、それどころか作ってもくれてさ。


 朋美のためなんだろうけど。怪我したその日、おれが帰ってきた時には、もう妹はすっかりなついていたから、だから放っておけなかったんだろうな。


 理由はともかく、そんな事情から、両親が帰るまでの数日間、早川がおれたち兄妹の面倒を見てくれてさ。

 気が付いたら、

 すっかり、おれ、あいつのこと、



 好きになってた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る