第09話 好きなんですか?

 ほのかが、学校の制服姿で歩いている。

 巫女さんバイトの帰り道である。


「タコ焼きタコ焼きタッコタコタコタッコ焼き♪」


 即興タコ焼きソングを口ずさみながら、木々に囲まれた緩い坂道を下り終えて、街へと出た。

 タコ焼き屋に行くわけではない。

 別の坂道を、今度は登って、自宅へと帰るだけである。


「あれ?」


 ほのかは、足をとめた。

 前方に、制服姿のしまさとるを発見したのだ。


 ゆっくりと歩いている悟。

 ほのかは、背後からそーっとそーっと近づいていく。


 脅かすような手つきをしながら前へと回り込もうとしたほのかは、悟の表情がおかしいことに気づき、顔に疑問符を浮かべた。


 なんだか、ぽわんとしているのだ。

 悟の、表情が。


 その理由は、すぐ分かった。

 さらに前方に、同じく制服姿のはやかわおりがいる。

 どうやら、彼女が気になって仕方ないのだろう。


「悟くん」


 ほのかは声をかけるが、反応なし。


「悟くんってばあ。どうしたんですかあ?」


 顔の前で手のひらをふるふる振るが、反応なし。


「わっ!」


 耳元に口を近づけ、大声で脅かした。


「うわああああ!」


 ガチン!


「あいたっ!」


 ほのかの悲鳴。

 驚いた悟が、何故かほのかの方へ飛び退こうとして、頭と頭が衝突したのだ。


「あいてて。こつぶえっ、お前、ふざけんなあ!」

「こっちの台詞ですう! 驚いたなら普通は反対方向に飛ぶんじゃないですかあ?」

「うるせえっ! どこに飛ぼうがおれの勝手だ」

「それで頭がゴッチンしたんじゃないですかあ」

「お前が驚かすからだろ!」

「だって声かけても無視するんだもの! ……早川さんのこと、見ていたんですよね?」

「ば、ばかいうな! あんなの!」

「好き、なんですか?」


 ほのかは、尋ねた。


 あまりの直球質問に調子が狂ったか、悟は視線を落としながら、素直に頷いていた。

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