第05話 人生うぉーみんぐあっぷ

 輝く太陽。

 青空の、遥か遥か下には、

 山と海とに囲まれた町。

 学校。

 校舎、校庭。

 体育館。


 その、体育館の中で、男女生徒たちが大声を出している。

 男女とも白いシャツに紺の短パン、体操服姿だ。


 女子たちは体育館の真ん中に集まって、マット運動と跳び箱を。

 男子たちは壁際で、跳躍力や反復横飛びなどの体力測定だ。


こつぶえ、行きまーす」


 ほのかは右手を高く上げると、マットへとゆっくり走り出す。

 飛び込み前転、

 をしようと、マットへ手をつきごろんと回転しようとするが、腕力がなくて頭をごっちん。うぎゅっ、と詰まったような悲鳴をあげて、背中を硬いマットに思いきり打ち付けてしまった。


「ちょっと大丈夫、ほのかっ」

「ごっちんだけでなく、首がグキってなってたけど」


 心配そうな表情の女子たちに取り囲まれているほのかであるが、突然がばっと跳ね起きて、


「なんともありません。痛かったけど。とにかく、次は跳び箱で挽回です」


 と、跳び箱へと走り出すが、てっぺんどころか真ん中あたりにドカンと頭からぶつかって、ガラガラ崩してしまった。


「い、い、いまのはウォーミングアップ!」


 崩れた跳び箱の中から起き上がり、素早く組み立て直し、特別にお願いっと再度チャレンジするほのかであるが、今度は踏み切り板に蹴つまづいて、アゴをガッチン、結局またガラガラと崩してしまった。

 これはさすがに猛烈に痛かったようで、ごろごろ転がり悶絶している。


「いやあ、ひさびさの合同授業だけど、相っ変わらず酷えなあ、ほのかは」


 はっはっ、と笑っている青髪少女のないき。

 の眼前に、ほのかドアップ。


「そんなに、おかしいですかあ?」


 さらに顔面ズーーーム。


「あ、いやあ、その」

「私だって、落ち込んでいるんですからあ」

「悪い悪い」


 ないきはごまかすように、ほのかの背中をばんばん叩いた。

 面白くなさそうに叩かれているほのかであったが、



『あれ?』



 不意に、心の中で疑問の声を発した。


 しまさとるの、視線に気付いたのだ。


 自分に対しての視線ではない。まったく別の方向だ。

 ぴぴぴぴぴ、と見ている先を目で追うと、そこに立っているのは、ないきと同じクラスのはやかわおり

 長い黒髪が印象的な女子生徒である。


 彼女の周囲には、他に誰もいない。

 つまり島田悟は、早川香織を見ていると考えて間違いないだろう。


「うーむ。惚れてんな、あの表情は、間違いなく」


 ないきも気が付いたようで、腕を組んでニヤニヤと笑っている。


「そうですねえ」

「おー、鈍感なほのか君もさすがに感じますか」

「いまなんか聞き捨てならないことを、さらりといわれたんですがあ」


 などとふざけたような真面目なようなやりとりをしながらも、そのまま島田悟の様子を遠目から観察し続ける二人。


「おっ、なんか早川さんに話しかけてっぞ」

「ほんとだ」

「告白したりなんかして」

「なんかドキドキしちゃう。って、こんな場所で告白するわけないゃないですかあ」

「分かってるよ。いってみただけだよ。……つうかさあ、告白、どころか……」

「なんだか、喧嘩しているような…‥」

「ほのかもそう思う?」

「はい」


 声ははっきりとは聞こえないが、

 おそらく、


 悟の言葉にカチンときたのか、香織がいい返して、

 香織の言葉に、悟がムキになってからかいはじめて、

 悟のからかいに、香織が怒って、

 怒った香織に、悟が、


「ばーかばーか!」


 はじめてはっきり聞こえた声は、そんな子供じみた捨て台詞。肩を怒らせながら、男子たちの群れの中に戻ってしまった。


「うーむ。惚れてると思ったのは、あたしらの気のせいだったのだろうか」


 ないきは、鼻の頭をかいた。

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