第06話 むうう、かんむりょう

 定夫の部屋で、作品を観ている。


 完成した、作品を。


 四人で作り上げた、映像も、声も、効果音も、オープニングも、敦子が作って歌ったエンディングも(打ち込みは八王子)、すべてが仕上がった、技術的には拙いかも知れないがこれ以上に込める魂はないという作品を。


 もう一回観ると、続いて作品をDVDに焼いて、ポーブルプレイヤーを持って外へ出て、河川敷の土手で四人、顔を寄せ合った。


 場所を変え、駅前の喧騒の中で、

 場所を変え、住宅街の公園ベンチで、

 彼らは作品鑑賞を続けた。


 作品はいつ誰がどんな環境で観るか分からないので、様々な環境で視聴チェックするのだ。という名目であるが、実際のところ、気分を味わいだけであった。

 色々な場所で観ることで、初めて気分を、何度でも。


 飽きるほど観ても、飽きはこなかった。


 飽きはこないが、しかし空がすっかり暗くなってしまったので、再び定夫の自宅へ戻……と、その前にコンビニに寄って、サンドイッチや、唐揚げ殿、ポテトチップス、烏龍茶、ジュースなどを買い込んだ。

 映像を観ながら、製作完了の打ち上げをするためだ。

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