第02話 めかまじょ変身だあっ!
「マギマギ大変身、カレーーライス!!」
変身ヒロインの、声の練習をしているところである。
これは、教育テレビで放映しているアニメ「料理魔女クックドゥドゥー」の、
ククルちゃんはその回に出てくる料理パワーを使って変身する。
レシピ魔法で食材オーラを飛ばして敵を倒し(大根などの食材で殴り掛かったこともあったが)、
戦闘後は、アニメから実写にいきなり切り替わって、子役の
この作品の、変身シーンの特徴を一つあげるなら、バンクシーンを一切使わないことであろう。
つまり、毎回異なる変身シーンが作画される。
その回の料理パワーにより戦闘コスチュームのデザインが異なるため、当然といえば当然であるが、調理道具をかざして叫ぶところから毎度描いているのだから徹底している。
四回、五回、とククルちゃんの声を叫んだところで、変身掛け声練習は次のお題だ。
敦子は、そっと目を閉じる。
頭の中にいるキャラクターを、入れ替えた。
指をパチンと鳴らすと、目を開き、笑顔で勢いよく右腕を振り上げた。
「よおしみんな、変身だっ! レッツトライ、今日も張り切ってえ、いっくぞおおお! 精霊マジック発動レベルワン、磁界制御、力場制御、魔動ジェネレーターブーストアップ! チェック完了、内圧良好! ワン、ツー、スリー、フォー、へえんっっしいいいいん!」
これは、「めかまじょ」の主人公、
「変身完了三振残塁、メカ魔女ナンバーワン、ミヤ参上! 悪い子はあたしがおしおきだあい!」
「三振残塁」の口上は、第七話。「目指せ官僚」、「阪神完敗」、「極道撲滅」など、韻を踏んだものか、もしくは語呂のよい台詞が使われる。野球、阪神に関する台詞が多いのは、監督が兵庫出身のためであろう。
「めかまじょ」は、飛行機墜落事故で瀕死の重傷を負った女子高生である小取美夜子が、肉体の大半をメカにされることにより奇跡的に一命を取り留め復活し、いじわるな人を科学魔法で改心させたり、悪いやつらをこらしめたりするアニメ作品である。
友人のお好み焼き屋復活のため尽力するなど、初期は人情ものストーリーが主体。
飛行機事故が仕組まれたものであったことが判明してから物語はちょっとハード路線へと進んでいくのだが、変身シーンは変わらず爽快で楽しいものだ。ユーロビートのリズムで、クラブDJがノリノリで喋っているかのようなビート感に溢れた独創的な口上で。
変身時のギミックもユニークだ。
無骨な右腕に鍵穴があり、鍵を差し込みぶるるんエンジンをかけて魔道ジェネレーターを始動させるのだから。
一話目からずっと変わらず、変身はバンクである。
敦子は、アニメのバンクシーンを見るたびに、つい色々と考えてしまうことがある。
キャラの心情を、どう演じるべきなのかを。
バンクシーンとは、要するに同じ映像の使い回しだ。特撮ヒーローのメカ合体や、戦うヒロインアニメの変身などが有名だろう。
もともとは、予算削減効果を狙っての、いわば苦肉の策。
制作現場としても、使わなくて済むのであれば使いたくなかったのではないか。
しかし、長い歴史の中で価値観も変わり、一種歌舞伎の口上と同じような扱いになっている部分も、現代では間違いなくあるだろう。
つまり、バンクにすることにより、観る者の魂が熱くなるのだ。
お約束化されることにより、熱くなれるし安心して盛り上がれるねという効果もあるだろう。
合体や変身バンクの直後にメインキャラが死ぬことはまずなく、「さあ、これから反撃だ」という痛快な気分への切り替えスイッチを入れてくれるものだからである。
敦子が悩んでしまうのは、「だったら声の演技もまったく同じ方がいいのかな」ということ。
それとも、その時その時のキャラの心情を想像した上で、微妙な演じ分けを心がけるべきなのか。
結論の出る類の問題でないこと、分かってはいる。
分かっているけど、バンクシーンを見るたびについつい考えてしまうのだから仕方ない。
まあ、そんなシーンのあるアニメで自分がかかさず観ているのは、日曜朝の一本くらいなものだが。ああ、あと「めかまじょ」もそうか。
自分はまだプロ声優ではないし、声優だとしてもどうするべきかは監督の判断。
でも、このように色々と想定していくことは大切なことのはず。
想定、つまりイメージすることは、役者の肥やしになりこそすれ、無駄になることなんかないんだから。
自分はただ色々なことを考えて日々チャレンジして、トレーニングを積んでいくだけだ。
明日のために。
未来のために!
未来のわたしが声優として活躍することが、色んな人たちに笑顔や夢を与えることになる。
そう信じて。
「よおし、たくさんイメージ練習するぞお! めかまじょ変身バンクシーン、吹き替え百本ノックだあ。まずは不良少女風! ……てめえらあっ今日もはりきってえ、レッツトライでぶっちぎるぜえええっ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます