第07話 頑張るぞ!

 セカンドキッチンという名のファーストフード店に寄って、

 七時に帰宅。


 お風呂に入り、

 髪をかわかし、

 外で食べてきてしまったので、晩のおかずだけをちょっとつまんで、

 昨夜録画した、「はにゅかみっ!」を見て、

 学校の宿題と、授業の予習復習をやって、


 さあ、声優修行の開始である。


 まずは、メルヘン部屋の真ん中に立ち、お腹に手を当て発声練習。

 あーーーーー、と声出し。

 続いて、音階上げ下げしながらの腹式発声トレーニング。

 続いて、あめんぼあかいなあいうえおや、早口言葉などの滑舌トレーニング。


「……黄巻紙っ! よし、今日はいえたっ!」


 続いては、去年放送していたのを録り貯めておいた、トーテムキライザー第一期を利用して吹き替えの練習。


 今日は、第九話を再生だ。


 テレビの音量をゼロにして、ネットで拾ってきた台本を片手に、キャラに合わせて台詞を読むのだ。



「ははああん、だあって研究所に誰もいなかったじゃああん。気にしない気にしなあい。

「いや、その考えは間違っているぞ、リコ。あいつら、脳だけがすっかり気化して倒れていた。なら、それまで誰が基地にいたのか。それとも、事が起きてから、脳が消失するようなことがあったのか。例えば……

「ええええ、でもさあああ

「でもじゃない。難しい話じゃあないだろう。疑問点を抱くに値するかどうか、という点においては。

「まあルーにゃんがそういうなら、そうなんだろうねえ

「理論的に、よく考えてみよう。まず一つ目には……」



 主人公である姫野リコと、脳内に潜む別人格であるクールな天使ルウ、の掛け合いシーンを使って、演技力訓練と、吹き替えのイメージトレーニングだ。


 第二話と、この第九話は、二人だけの長尺の掛け合いが多いので、最近このようによく練習に使っている。


 以前の敦子は、その話の全体を再生して、出てくる人物すべての声当てにチャレンジしていた。より演技の勉強になるだろう、と。


 でも、実際やってみると、混乱してしまって一人一人への感情移入がおろそかになるし、いつか自分がプロ声優になっても髭面の巨漢戦士の仕事が入るはずもないし、股間蹴られて悶絶してる男性の痛みなんか分かるはずないから真に迫った演技など出来るはずないし。だから最近はもっぱら練習で演じる役を多くても二人に絞っている。


 混乱なく演じ分けることが出来れば凄いことだけど、実際、いまの実力では及ばないどころか逆効果なので、まずは簡単なことを完璧にしてから、それから幅を広げていこうと思っている。


 まだ十五歳。高校一年生。時間はたっぷりとあるのだから。

 少しずつ、コツコツと、だ。ローマの……あれ、なんだっけ。まあいいや。


 さて、吹き替え練習が終わると、テレビを完全に消した。

 気分が乗るようにBGMを流し、


 筋トレを開始である。

 まずはストレッチで軽く身体をほぐし、

 腕立て伏せ、

 腹筋、

 背筋、

 腕立て体制を維持しつつ、同時に発声練習、


「あーーーーーーーーーーー、

 かーーーーーーーーーーー、

 さーーーーーーーーーーー、

 あーーーーーーーーー」


 あいたたっ、昨日も張り切りすぎちゃったもんだから、もう腹筋が痛くなってきたよ。つりそうだ。


 でも、まだまだ。

 こんな程度の痛みに、負けてなんかいられない。


 わたしは、

 絶対に……

 絶対に、

 絶対にプロ声優になるんだから!

 頑張るぞお!

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