第06話 妖精さんはどこですか
「あれ確かさ、
「えー、イメージと合わない!」
「いやいや、これ以上はない配役でしょ」
「そお? で、あとは?」
「ヒロインは、
「病弱のヒロイン役だよね。なら、そっちはいいんじゃない?」
「なんでよ、逆でしょ! 合うのが合わなくて合わないのが合うってさあ」
「ムキになってえ。ただ香奈が、小暮俊悟のこと好きなだけなんじゃないの?」
「う、ばれたか……」
珍しく、漫画アニメ絡みの話題で盛り上がっていた。
といっても、漫画アニメそのものではないが。
「ぼくのなは」という人気漫画の実写映画化が決定したのだが、そのキャストの話で騒いでいたのである。
原作漫画は敦子も好きで、全巻持っている。
深夜アニメは、変にオリジナル色が強いのが好きではなかったが、一応全話チェックした。
漫画アニメ絡みということで、珍しくも敦子主導で話が進んでおかしくない話題であるが、しかし当の敦子は普段以上に会話に参加せず、ふんふん頷き役に徹していた。
俳優の名をよく知らないこともあるが、それよりなにより漫画アニメの実写化が大大大嫌いで、口を開けば棘あり毒ありなことばかり発言してしまいそうだからである。
でもこれまでの人生、棘あり毒ありな言葉をぶちまけたことなど家族くらいにしかなく、他人に対してだと自分がどうなってしまうか、どんなことをいってしまうかまったく分からない。
だから黙っていた。
心の中だから語れることだが、本当に最近の実写化ブームには辟易する。
たかだか十五年の人生で、最近の、などと語るのもおこがましいかも知れないが、でも本当にそう思う。
人気漫画を別のメディアで展開したいのならば、まずは漫画と親和性の高いアニメでやればいいではないか。「ぼくのなは」はやったけど、一般的な話として。
単純な話、漫画が動くのがアニメであり、実写化特有のキャラのミスマッチなど起こりようがないのだから。
まあ、声優が合っているかという、別の問題は発生するが。
だいたい実写映画って、いつもいつもただ有名なだけの役者ばかり揃える。それは結局のところ、話題性つまり集客優先というだけではないのか。
作り手側の上層部にとっては、作品そのものなどどうでもよく、観てくれる人がいるという当たり前のことすらもどうでもよく、ただお金さえ落としてくれればいいのだろうか。
制作現場としては、どう実写化するかということで、楽しんで、苦労して、生み出しているのかも知れないけど、それだって、作り手の独りよがり感は否めない。
でも……それをいい出したら、実写に限らず劇場アニメも似たようなものか。
最近だんだんとCGに違和感がなくなって、映像は文句なしに凄いものが作れているというのに、なんだって声に素人を使うの?
プロが勢揃いして臨まなければならない商業娯楽の制作に、どうしてそこだけアマチュアを置くの?
勝手に宣伝をしてくれるから?
なるほど分かった。でも、それがどうした。
作品は後世に残るものであり、芸術なんだ。そうしたことを、まったく考えていないじゃないか。
その時その瞬間だけ客が入れば、金が入れば、それでいいのか。
さすがにテレビアニメの劇場版は、メインキャストはそのままだけど、ゲストキャラは必ずといっていいほど素人を起用する。
素人が一人紛れ込んでいるだけで、どれだけ作品全体の雰囲気に違和感が生じることになるか、ひょっとして分かっていないのかな? アニメ作りのプロのくせに。
ドラマでたっぷり実績を積んだ俳優だからって、アニメの声の当て方とは技術的にまったく違うものなんだ。
素人起用に関しての擁護派がよく発する頓珍漢な言い分も、この問題をより助長している気がする。
「役者出身の霧元五郎さん演ずるガロンの声は、ちゃんと合っていましたがなにか?」、などという意見だ。敦子にいわせれば、そんなのはたまたまであり、アニメ声の素人をオーディションもせずに起用したことに違いない。「実際、俳優やタレントの方々の声は、ほとんどの場合が合っていませんが、なにか?」だ。
「アメリカじゃ、役者が声優をやるの当たり前だよ。違和感ないでしょ?」なんていう意見も聞くが、これも敦子にいわせれば、「日本では絵柄も、必要とされる声も違うから、違和感ありありなんですが」。
でもまあ、役者ならまだいい。
百歩譲って、まだ許す。嫌いだけど。
許せないのは、小学生役の声優に本当の小学生を使う映画。
「リアルでしょ?」って、ちっともリアルじゃないよ! アニメのリアルはアニメに合うことがリアルでしょ! だったらこれからは絵も、小学生のキャラは小学生に描かせろー!
というか、そういうのってもうアニメである必要ないじゃん。最初から実写で企画を作ればいいじゃん。
ただでさえ劇場アニメは、既に素人声優だらけになっており、プロ声優の活躍の場が相当に失われているんだ。
このままじゃあ、いずれテレビアニメまでそうなってしまうかも知れない。
それはつまり、プロ声優の減少、獲得枠の減少を意味することに他ならない。
プロ声優になるんだというわたしの熱く真剣な夢が、趣味で声当てを担当するだけの芸能人に破壊されてしまう。
そんなことに、なってたまるか。
そんな世の中に、してたまるか。
必ず、
必ず、プロ声優になって、
頑張って、
声優界を変えて……
「敦子ってば!」
「うわ、ごめん。聞いてた聞いてた。うん、別に小暮俊悟とかいう人の主演でもいいんじゃないかな」
「全然聞いてない! どこで食べてこうかって話していたのに」
「あ……ごめん」
すっかり話題が変わっていたのか。
自分の胸の中で、すっかり熱く熱く語ってしまっていて、聞いていなかったよ。
熱く語るといっても、恥ずかしくて心の中でしか語れないけど。
そういえば、イシューズさんと呼ばれていたあの二年生の三人組、己をまるで隠すことなく高らかな大声でアニメを語り合っていたよなあ。
羨ましいな、ああいうの。
あれから、まったく姿を見かけないなあ。
学校で有名な三人組、とか
気になって廊下歩くとキョロキョロ探しちゃうけど、でもまーったく見かけない。
実は誰にも視ることの出来ない、妖精さんだったのかな。
で、たまあにふらり人間界にハイホーハイホーとあらわれて、アニメの話をして、去っていくのだ。
ん? でもアニメの話をしたいだけの妖精さんなら、なんで人間界にくる?
いち 妖精界にテレビがないので、そのため。
に 人間界にアニメの素晴らしさを伝えるため。
でもどうせならアニメの素晴らしさ以上に、プロ声優の素晴らしさ、必要性を伝えて欲しい。
頼むよ、イシューズさん。
「敦子、聞いてんのっ!?」
うわっ!
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