第06話 おれたちのアニメOPだ!

 歌のテンポやムードに合わせて、

 セーラー服の少女が、

 走ったり、

 友達とおしゃべりして笑いころげたり、

 つまづいて転んだり、

 犬に追いかけらて、転んだり、

 巫女の格好で……転んだり。

 神社で掃除していたり。


 既に何度も何度も繰り返し観たアニメであるが、三人で集まって観賞するのは今日が初めてであった。


 やまさだが楽曲提供を受けたことから立案に繋がり、トゲリンがキャラクターをデザインし、絵を描き、八王子がパソコンで編集した、アニメオープニングである。


「おれたちの、オープニングだ」


 定夫は、画面をくいいるように見つめながら、感無量といった表情で呟いた。


 本編が存在しないのにオープニングというのも妙な話ではあるが、誰が見たとしても、アニメのオープニングと思うであろう、そんな作品であった。


 技術的には、取り立ててレベルの高いものではない。

 当然だ。

 作り手はみな素人なのだ。


 トゲリンは、時折漫画家を無性に目指して絵を描きたくなるというだけで、アニメーターではないから構図の知識はあっても中割りなどの知識経験などはないし、アニメ作成ソフトのスパークにしても所詮は無料のものである。


 生半可な知識技術でテレビアニメ的な動画にチャレンジしても労力が半端でないどころか、アラが目立つだけという結果になりかねないので、中割り動画は必要最小限度にとどめて、ほとんどのシーンは止め絵をスライドさせたり、画面内に別のカットを割り込ませたりして、動きを作り出している。


 その、割り切りが功を奏したということであろうか。

 トゲリンの美少女を描く才能と、八王子のスパーク編集が絶妙に噛み合って、素晴らしい作品になっていた。


 ほんわか脱力系の絵の裏に、作り手の情念を感じるような、そんな作品になっていた。


 技術的なアラに目をつぶるどころか、そもそもまったく気にならない、むしろそれが味、といったような。


 これは本当に、凄い作品を作り上げてしまったのかも知れない。


 と、興奮する定夫であるが、同時に一抹の寂しさも感じていた。

 発端は自分であるとはいえ、

 制作会議に参加した身であるとはいえ、

 現場仕事そのものに関しては完全に蚊帳の外で、関与していないからだ。


 コンテ担当で、そういったところのノウハウを本で学んでから臨んだとはいえ、ほとんどトゲリンのセンスにアレンジされてしまったし。さらに、スパークの性能に合わせて八王子にアレンジされてしまったし。

 徹夜徹夜で必死に作業していたのも、前半はトゲリン、後半は八王子だし。


 感覚的には、自分はなんにもやっていない。


 でも、いいんだ。

 こんな凄いことをやってのけてしまう友がいるというだけで、おれは幸せさ。


「でも、本当に凄いな、これ」


 ちょっと寂しい気持ちをごまかすように、また作品を褒めてみる。


「大変ではござったが、それなりの物にはなったであろうか。拙者にもっと絵心があれば、と悔しい思いもあれど」


 トゲリンはネチョネチョ声で謙遜するが、しかしその顔に浮かぶ満足感は隠しきれるものではなかった。


「ぼくも、もうちょっとセンスがあればよかったなあ。まあスパークじゃ、やりたいこと広げても手間ばかりかかって、これ以上は難しいんだろうけど」


 八王子も、百パーセント以上の仕事をやったのだ、とばかり満足げに鼻の頭をかいた。


「環境が環境だし、プロじゃないんだし、完璧な出来といっていいと思うぞ、おれは。でもあれだよな、こうも完璧な作品になっちゃうとさ、オープニングだけといわず、本編も作りたくなるな」

「お、いいでござるござるなっ」


 トゲリンは、甲高いネチョネチョ声を張り上げて、ずずずいと奉行のように定夫へと身を乗り出した。

 自分の描いた絵が、音付きで動いたということに、相当に気分高揚しているのであろう。


「作るとなると、ジャンルはどうする?」


 八王子が尋ねる。

 確かに、オープニングアニメを作成するにあたって雰囲気やキャラ設定などは相当に話し合って決めたものの、舞台背景はなにも考えていなかった。

 そもそも、主人公の名前すら付けていなかった。アニメ製作にあたっては「主人公」で問題なかったからだ。

 話を作るというのならば、背景設定をしっかりさせないと。


 ああ、おれたちのアニメが、どんどん広がっていく……


「キャキャ、キャラからするとっ、ゆるゆる学園ものかなあっ」


 自分たちの作ったキャラクターの学園生活を妄想して、ちょっと興奮気味に語るオカッパ頭の定夫であった。


「定番ではあるね。それか、なんか意表をついたものにする?」


 すっかり乗り気になったか、八王子も楽しげな笑みを浮かべて乗ってきた。


「本編全部落語形式」


 トゲリンが粘液声で。


「意表ついただけ。というか、まど〇しらべにやられちゃったろ、それはもう。王道的なものでいいと思うよ、おれは」

「じゃ、よくある普通のアニメを目指すってことで。となると舞台は現代日本しかないよね。で、キャラ設定をそのまま生かすとなると、ゆるゆる学園か、スポーツへなちょこ系、SF、退魔もの、など必然的に絞れてくるよね」

「まあ、そうだな。オープニングをほとんど修正せずに済むのは、ゆるゆる学園ものか」

「ゆるゆるであっても、ライバルキャラの存在も必要でござるな」

「そうだね。あと、主人公の名前も早めに決めときたいね」

「名前からくるインスピレーションから、話が生まれるからな」

「拙僧の個人的な好みであるが、苗字は単純な漢字で、名前はひらがなが希望」

「ひらがなかあ……最近のラノベみたく毎回ルビ振ってくれないと読めないよりは遥かにいいけど」

「まあ、アニメである以上はキャラの名前は文字ではなく音であり、読みにくさに関してはあまり気にしなくていいとは思うが、しかし設定を考える以上、拙僧の好みとしてはやはりひらがな」

「しっくりくるのが一番だから、漢字かひらがなかはまだ決めず、明日までにそれぞれ候補をいくつか考えて発表しよう」

「心得た」

「なら、いま話しときたいのは、細かな背景をある程度煮詰めることだね」

「まず拙者がアニメに何を求めるかから話すと……」


 自分たちの作品が自分たちへもたらしたこの高揚感に、そして、これから大きな作品を作るのだという夢に、みな口が止まらなくなっていた。


 そう、

 みな萌え、いや燃えていたのである。

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