最終章 フフフフフ
第01話 デモドコデモ
定夫の部屋では、秘密会議が続けられていた。
「魔法女子ほのか」の原作者であり、作品を愛する一ファンでもある身として、我々になにが出来るか。
最初は勢いのまま恨みつらみ混じりの言葉を並べ立てているだけの彼らであったが、思いが非現実に暴走するでもなく、むしろ段々と、現実的に可能なことへ会話は絞り込まれていた。原動力が恨みつらみという点においては、なにも変わらなかったが、それはそれとして。
「その中からだと、まずは、デモかなあ」
八王子が腕を組んでうーむと首をひねる。
「左様でござるなあ」
「おれもそう思うが、でもどこで? というか、どっちで?」
どっち、とはデモの場として制作会社である星プロダクションか、裏に付いている大企業の佐渡川書店、必然的にどちらかに絞られる、ということだ。
なお、いま定夫はデモどこでとダジャレをかましたのであるが、誰も反応する者がいなかったので、恥ずかしそうにゴホンと咳払いをしてごまかした。
「星プロでしょ」
「星プロであろうな。可能かどうかという話なのであれば」
「まあ、やっぱりそうなるよな。絶対に成功するという確証があるのなら、
「佐渡川は、昼夜問わずガードマンが表にも裏にもたくさんいるからね」
「物騒なことへの対応にも慣れているであろうから、あっという間に取り押さえられ、なにもなかったことにされるのがオチでござるよ、ニン」
「というわけで、現実的に星プロ、と」
「あそこ小さなビルで、特にガードマンもいなかったしね。抗議活動を、長く続けられそう」
「仮に上手く事が運ばないとしても、騒ぎを大きくすれば、マスコミが取り上げてくれる可能性もあるでござるよ。大ブームのアニメなので、関連ニュースは喜んで流すのでは」
「ああそっか、粘って演説をしていれば、こちらの意見に耳を貸すほのかファンの通行人も出てくるかもと思ってたけど、報道の人が来るんならそっちの方がいいね。そうなったら、あることないことぶちまけてやるぞお」
うふふ、と笑う八王子。
輪に入れず焦れったそうにもじもじしていた沢花敦子であったが、ここでようやく口を開いた。
「もうやめましょうよお。というか、あることないこと、って、ないことはダメでしょ」
「いいんだよ。マスコミが面白おかしく書いて、問題が有名になればそれで。だいたいさあ、敦子殿だって大損害、というか大儲けし損なったんだぞ」
彼らの作ったオリジナル版アニメのエンディングテーマとして使われた「素敵だね」という曲がある。
敦子が作った曲だ。
作詞、作曲、編曲、歌、すべて彼女が担当している。
テレビ版でも後期からそのエンディングを採用したのだが、新たな編曲や別歌手による収録はせず、音源そのまま。
敦子が作ったその曲は、歌の良さとアニメ人気とが合わさって、月間アニメソング売り上げランキング一位を達成、総合売り上げランキングでも最高五位。いわゆるスマッシュヒットを飛ばしたというのに、敦子に一円も支払われることもなければ、名前すらもどこにも出ていない。
と、八王子はそうした現状をいっているのである。
「最初の契約の問題で、どうしようもないことです。でも、あたしは別に不満はありません。現在のままで、充分に幸せなんです」
敦子はそういうと、にこり微笑んだ。
「でもさあ、名が世に出れば、そこからとんとん拍子にプロ声優への道が開けたかも知れないじゃないか」
「確かにおっしゃる通りかも知れないですけど。でも、いいんです。あたしは実力でプロ声優になりますから」
敦子は、さらに力強く微笑むが、その顔には、少しイラつきが浮かんでいるようにも見えた。
「こういうチャンスを逃さない、ということも実力なんだよ。そういう意味では、実力ないってことじゃん。もっと貪欲じゃなきゃあ、よほどラッキーがない限り声優になんかなれないよ。だって声優になりたい人って、五万といるんだよ」
「こっ、ここで今あたしのそういう話をして、なにがどうなるんですかああ?」
夢を見る資格を否定された、と思ったのか、敦子は怒気満面、八王子の顔へ自身の顔をぐいと近付けて睨んだ。
ぼろり涙がこぼれると、敦子の顔は一転してぐしゃぐしゃに崩れ、声を立て泣き出してしまった。
「あ、あ、ごめん。いい過ぎたっ」
我に返って、謝る八王子。
えっくひっくと泣き続ける敦子。
なんともいえない空気の重さが、どんよりと部屋を包み込むのだった。
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