第217話 新機動戦記ガンダムW その12 早く戦争になぁ~れ編

 W語りも12回目、今回で最後にしたいと思います。最後に語るのは、エキセントリックなキャラ揃いの本作でもレディ・アンと並んで一番強烈な印象を与えたドロシー・カタロニア嬢です。なので、サブタイトルは彼女を象徴する名ゼリフからいただきました。


 作品中盤の登場なのですが、初登場時の回の最後に吐いたのがサブタイのセリフです。サンクキングダムの学校でリリーナの大ファンと称して登場しながら、その実体は戦争大好きお嬢様だったという強烈な登場でした。その後もさまざまな策謀を巡らせたり、モビルドールとゼロシステムを組み合わせて遠隔操作してガンダムチームを追い詰めたりと、常に能動的に「戦争を行う」方向に活動していくという、言わばリリーナのネガ、完全に裏返しの存在として大活躍していました。その過程で、OZを影で操っていたロームフェラ財団の支配者であり祖父でもあるデルマイユ公爵を謀殺したりしているという。


 キャラデザ的な特徴というと、何よりその強烈な眉毛でしょう。トレーズと同じく二叉に割れているのですが、トレーズよりさらに割れ方が激しいという(笑)。また、額も大きいデコっぱち娘だったりします。キャラデザ的な特徴がトレーズに似ているのですが、実はデルマイユ公爵がトレーズの叔父にあたるので親戚ではあるんですね。


 実は何気に五飛とかと並んで初回使用時からゼロシステムに取り込まれずに使いこなしてたりする数少ない人間だったりします。恐ろしい娘ッ!(笑)


 ゼロシステムを使った指揮対決で負けたカトルを強烈に恨んでいたというのは既に書いたとおりです。ところが、最終決戦では生身でフェンシングをしながら、そのカトルに向かって本心を吐露します。


 実のところ、彼女が戦争を希求していたのは、悲惨な戦争を行うことで人々に厭戦気分をもたらして、二度と戦争が起こらないようにするためだったというのです。本当は父親を殺した戦争を憎んでいたんですね。このあたりの思想はトレーズやゼクスに通じるものがあります。


 この時点でリリーナのファンだというのが、実は本心だったというのが明かされるという衝撃の展開(笑)。リリーナの絶対平和主義なんて幻想だと思いつつも、それを信じて行動するリリーナには本当に憧れていたんだという。


 ……これまた百八十度の方向転換なんですが、不思議なことに元々が相当変な娘だったので、何だか納得できてしまったという(笑)。


 そこでカトルに勝つものの「本当は僕よりも優しい」とか言われてしまうという。コレどう考えても、ここでカトルに恋したよねってシーンなんだよなあ(笑)。ただ、その後抜け殻みたいになってたところに脱出するよう説得したのはトロワなんですが。


 さて、この娘、私が見た『Endless Waltz』では影も形も無かったんですよ。カトルのヒロインとして登場することはさすがにできなかったのかなあとか思っていたのですが、何と未見の劇場版特別編では民衆を扇動して反マリーメイアに立ち上がらせるなんて役柄で登場しているという。Wiki読んで初めて知りましたよ(笑)。


 とにかく強烈なキャラで、ある意味でリリーナ以上に『W』の世界観をよく表しているキャラだったりします。『W』のエキセントリックなキャラの面白さと、破綻したストーリーの両方を象徴しているんじゃないかなと思ったり。


 なお、声優は松井菜桜子で、ガンダムシリーズのレギュラーでは『ZZ』のルー・ルカも演じていますね。


 なお、ドロシーの祖父でトレーズの叔父にあたるデルマイユ公爵は、ロームフェラ財団の支配者であり、一時トレーズを失脚させるなど黒幕っぽい感じだったのですが、リリーナを傀儡にしようとして逆にリリーナのカリスマ性によって押さえきれなくなるなど、実の所結構無能だったりします(笑)。最後はドロシーの策謀で宇宙に向かったところをゼクスが率いるホワイトファングに襲われて死亡するという。本当に大したことのないキャラだったり(笑)。


 ほかにもツバロフ技師長とかガンダム開発者の五人の博士とか結構存在感のあったキャラも居るんですが、まあ特に語るほどのことはないかなと(笑)。


 本作の総評に移る前に、主題歌について。本作のオープニングとエンディングはTWO-MIXというバンドが歌っており、全曲が名曲です。特に前期オープニング「JUST COMMUNICATION」は非常に名曲だと思います。作品のテーマに合っているかどうかは置いておいて、非常にカッコ良い曲ではあります。


 ただ、前期オープニングが三クール第40話まで使われていて、のこり九話しか後期オープニングが使われていないという不思議な配分なんですね。これ、Wikiによると作画が追いつかなかったからみたいです(笑)。


 このTWO-MIXのボーカルが声優の高山みなみというのは有名な話です。リアルタイム当時は伏せられていたとネットの記事に書いてあったんですが、私の記憶だと最初からオープンだったんですけどねえ。不思議なことに、高山みなみほどのキャリアの持ち主が、ガンダムシリーズでは一度もレギュラーを演じていないんですよ。このWなんて、それこそガンダムパイロット五人のうちのひとりを演じてても不思議じゃないと思うんですが。


 ……と書いたあとで、のちに『OO』でカティ・マネキンを演じているという指摘を「なろう」の方の感想欄でいただきました。見てたのにコロッと忘れてたよ!(爆)


 あ、プラモは弟がウイングとゼロとエピオン買ってましたね。出来は悪くなかったと思います。


 さて、最初に書いたとおり、本作は商業的には紛れもなく「大成功作」でした。関連グッズや書籍が山ほど売れた以上、それは疑う余地はありません。また、もともとガンダムシリーズにはシャア人気などで多少の女性ファンはいたのですが、それを大幅に拡大したという功績も否めません。


 作劇的にも、主人公グループを複数の美少年にすることは後代のガンダムシリーズに踏襲されていきます。本作の影響は非常に大きかったと言えるでしょう。


 その一方で、個別のキャラクターについては、そのエキセントリックさが面白いことは事実ですが、特に主人公ヒイロの行動の一貫性の無さと、ヒロインであるリリーナの思想である「絶対平和主義」の脳内お花畑ぶりが、ストーリーの一貫性や整合性、そして説得力を著しく損なっていることは否めません。


 最初にも書いたように、序盤のストーリーは気が狂うほど面白かったんですよ。あのエキセントリックさを最後まで押し通してくれていれば、古今の大傑作になったのにと惜しまざるをえません。


 それが変な方向にブレだしたのは、監督交代などの影響も多少はあるでしょうが、私には「絶対平和主義」という本作を通底するテーマそのものが悪影響を与えてたんじゃないかなあと思えてならないのですよ。


 1991年のソ連崩壊に伴う東西冷戦の終結してから四年たっており、2000年の911テロの予兆はまだ見えていなかったという1995年は、そうしたテーマを掲げ得る時期だと思えたのかもしれません。


 しかし、ちょうどバブル崩壊にともなう就職氷河期をリアルタイムで経験している真っ最中な上に、地下鉄サリン事件という史上初の化学兵器テロが起き、また阪神淡路大震災という自然災害にして、被害の拡大という意味では人災の側面もある大災害が起きた1995年に放送された作品としては、まったくもって説得力が無かったのですよ。


 作品としての総評となると、やはり個人的には「駄作」と言わざるをえないのです。


 なお、たびたび言及してきました続編OVA『Endless Waltz』についてですが、私は『ボトムズ』の『赫奕たる異端』と並ぶ蛇足だと思います。要するに本編の人気にあやかってOVAも売ろうとして作った続編以外の何物でもないという。唯一、ノインが幸せになったことだけが良かったことじゃないかと(笑)。


 さて、意外に長くなってしまったW語りは今回で終わりまして、次回からは、その1995年という時代性に正にぴったりと合い社会現象まで巻き起こした、そしてその時代性を超えて今なお現役の作品として愛されつづけている、あの作品に行きたいと思います。

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