第177話 ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日(1992-98年)

 さて、やってきました『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』(以下、主役ロボともどもGRと略記)です。OVAの最高傑作のひとつだと私は思っています。これも大学の合宿で、出たばかりの第1話を見て以降、ほぼリアルタイムで出ると同時にレンタルビデオで借りて見ていました。


 原作は横山光輝ですが、有名なのは特撮番組の方でしょう。漫画は原作というよりはメディアミックスの走りで、しかも序盤は横山光輝本人ではなく『サブマリン707』などの作者である小澤さとるが書いているという。


 ところが、本作では横山光輝の本来は全然関係ない漫画からキャラを持ってきているんですよ。それも、敵味方を縦横無尽に入れ替えているという。SF漫画どころか、『横山光輝 三国志』や『水滸伝』からも持ってきているという。中には性転換して女性キャラにされてしまった「青面獣せいめんじゅう楊志ようし」なんてのもいます。また、オープニングとかで出てくる敵BF団の怪ロボットも『鉄人28号』や『マーズ』などから引っ張ってきたものが多いという。


 本作の監督である今川泰宏は、この前に監督をしていた『ミスター味っ子』でも過剰な演出で知られていたのですが、本作と、このあとに作る『Gガンダム』によってファンから「原作ブレイカー」とか「原作クラッシャー」というたてまつられることになります。


 これ、明らかに「尊称」だと思うのですよ。というのも、確かに原作をメチャクチャにいじるんですが、必ず元ネタへのリスペクトがあるからなんですね。だから「原作レイパー」ではなく「原作ブレイカー」なんだと思います。


 そして、作品もだいたい面白くてハズレが無い。本作も、最初に書いたとおりOVAの最高傑作と言っていい名作です。


 ただし! これ巨大ロボットアニメとして見た場合、ロボの占める比率が非常に低いという大問題があります(笑)。いや、もちろん「いらない子」ではないのですよ。ストーリー上、非常に重要な位置を占めてはいます。派手に格闘もやります。特にライバルロボになるジャイアントロボ2号(GR2)との戦いはムチャクチャ燃えたのですよ。


 しかし、しかしなのです。本作で魅力的なのは、敵味方の超人キャラだという(笑)。何しろ、生身と素手で巨大ロボットと渡り合える超人揃いですから(爆)。


 これはもう、第1話で敵「BF団」の幹部「十傑衆」のひとりである「衝撃のアルベルト」が怪ロボットを操っている部下イワンに対して言い放ったセリフがすべてなんですよ。


「メカしか扱えんB級エキスパートが!」


 何しろ、ご本人が衝撃波を放ってロボットと互角に戦えてしまう超人ですので、こういう評価になってしまうという(笑)。


 ほかにも指パッチンで何でも切断してしまう「素晴らしきヒィッツカラルド」みたいに登場シーンが少ない割に濃いキャラもいますし。


 そして、主人公の草間くさま大作だいさく少年が、正にこの「メカしか扱えん」キャラだという(笑)。やれることは、原作と同じで「行け、ジャイアントロボ!」とか叫んで命令するだけだという(笑)。ただ、今回ググってみたら「どんな状況でもロボに片手でつかまっている超人的な握力の持ち主」とか書いてたWebサイトも有りましたね(笑)。


 ただ、その大作少年が戦いの中で成長していく姿をしっかり描いているという。


 また、本作のヒロイン銀鈴ぎんれいは、大作少年にとっては姉的存在になり、恋愛関係では村雨むらさめ健二けんじという恋人がいるのですが、凄腕のエキスパート――とは言ってもほかが超人すぎるので普通に見えてしまうのですが(笑)――です。これが非常に魅力的なヒロインなんですねえ。ある意味、もうひとりの主人公と言っていい。何しろ、ラスボス「幻夜」の妹です。


 ストーリーの中核は、その幻夜が「大怪球フォーグラー」によって、世界中の動力源である「シズマ・ドライブ」を動かなくしてしまうというのが、敵BF団のメインの作戦になります。


 このシズマ・ドライブというのが「安全・無公害・再生可能な夢のエネルギー」なのですが、開発時に「バシュタールの惨劇」という事件を引き起こしています。これは開発者のひとりだったフランケン・フォン・フォーグラー博士が無理矢理にシズマ・ドライブを起動しようとしたせいで大爆発が起こり、そのせいでバシュタール公国という小国が吹き飛んでしまったという大惨事とされていました。その失敗からシズマ博士たちが「安全・無公害・再生可能」なシズマ・ドライブを完成させたという。


 ところが、実際にはフォーグラー博士はシズマ博士たちを止めようとしていたのを、シズマ博士たちが無理に実験を強行した結果、バシュタールの惨劇が起こっていたんですね。それを知ったフォーグラー博士の息子エマニュエル・フォン・フォーグラーは、父の遺言である「シズマ・ドライブを止めろ」という言葉を実行するために、BF団の幹部「幻夜」となって大怪球フォーグラーを作ったという。銀鈴の正体は、その妹のファルメール・フォン・フォーグラーなんですね。


 それで世界中のエネルギーが止まってしまったので「地球が静止する日」というタイトルになっているわけです。


 ところが、GRだけは「前世紀の遺物」である原子力が動力源だったので、シズマ・ドライブが止まっても動けるという。


 それで、GRで大怪球フォーグラーを止めようする国際警察機構のエージェントと、それを止めようとするBF団のエージェントが戦うわけです。


 ところが最終回でとんでもないどんでん返しがありまして。実はシズマ博士たちが完成させたはずのシズマ・ドライブには、まだ欠陥が残っていたんですよ。使うと特殊な粒子を発生させ、その濃度が一定になると酸素と結合して世界中の酸素を奪ってしまうという。実は大怪球フォーグラーは、その特殊粒子を中和するための装置であり、フォーグラー博士は最後まで復讐ではなく世界を守るためにシズマ・ドライブを止めようとしていたのだという。


 結局大怪球フォーグラーはその機能を果たし、世界は救われますが幻夜と銀鈴の兄妹は悲劇的な最期をとげます。


 このフォーグラー博士と幻夜・銀鈴兄妹の関係や、大作少年の父親の草間博士と大作少年の関係など、のちの今川作品でも共通モチーフとして見られる「父と子」が強く出ている作品でした。


 その一方で、BF団の方は「世界中のエネルギーが停止した状態」でも、なお稼働している異星文明由来のエネルギー源を探していたという。それがBF団の最高幹部である「策士・諸葛亮孔明」の作戦でした。これ、BF団の総帥「ビッグ・ファイア」が誰かというネタから来てるんですね。何しろビッグ・ファイア様って、バビル二世ですから(笑)。ちゃんと三つのしもべも居るという。ただ、ビッグ・ファイア様は昏睡状態でバビルの塔の場所がわからなかったので、部下が探していたんだという。それで、次はバビルの塔をめぐる戦いが始まる……という所で終わっていました。


 その戦いを描いたスピンオフの漫画もあるようですが私は見ていません。


 本作は声優もかなり豪華だったんですよ。ほんの少ししか出てこない端役に、相当豪華なベテラン声優を使っているという。大作少年を演じた山口勝平や銀鈴役の島本須美も、この頃は既にベテランだったのに、本作声優陣の中では若手扱いだったという(笑)。


 ただ、作画も音楽も気合いが入ってたんですが、そのせいで制作にも時間がかかって、発売間隔は結構長く、最終巻にいたっては三年も間があいたのでエタったんじゃないかと心配したこともありました(笑)。この発売間隔の長さはマイナスポイントでしたね。


 そして何より、本作は確かに「OVAとしては最高傑作のひとつ」ですが、じゃあ「巨大ロボットアニメ」として見るとどうよ? ……というのもあるのですよ。前に書いたように、確かに「GRはいらない子じゃない」のは確かなんですが、ならば「主人公」かというと、またちょっと違っていまして。本作の主人公ってストーリー上だと幻夜銀鈴兄妹なんですよね。構図としてはマーズが脇に回った『ゴッドマーズ』の第二部に似ているという。その上にロボと無関係の魅力が山ほどあるんですよ。


 このため、非常に魅力的な作品ではあるのですが、当エッセイでの紹介は今回一回にまとめました。


 さて、これで92年の作品も終わりです。前にも書いたようにエルドランシリーズは見てないので『ガンバルガー』も見てないんですよ。『テッカマンブレード』にはペガスが、『バビル二世』にはポセイドンが出てきますけど、どっちも「主役ロボ」ではないので、当エッセイでは扱いません。


 93年最初の作品は……『勇者特急マイトガイン』行ってみましょう!。

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