第155話 機動警察パトレイバー(1988年/89~90年)

 さて、今回は1988年のOVAの中から、まず『機動警察パトレイバー』について語ろうかと思ったのですが……それだけだと足りないので、翌年のTV版や劇場版についても合わせて語りたいと思います。なので、初出年表示がこうなっております。


 このOVA版は、今日では「アーリーデイズ」などと呼ばれているようです。TV版の放送前にレンタルビデオで全話借りて見たおぼえがあります。


 その上で、あえて暴言を吐きます。これ、OVA版は


 なぜか? 「ロボットが活躍してない」からです。主役ロボの98式アドバンスドビークル「アルフォンス」とか、出動して暴走レイバーと戦ったりとか、まったくしません。唯一ロボが活躍したのは、最終話(第6話)で自衛隊の強襲空挺レイバーがほんの少しだけ。それも乗っていたのは主人公のいずみ野明のあでなく、脇役の山崎ひろみ。


 近未来を舞台にした「巨大ロボットアニメ」を期待して見たら、とんでもない肩すかし、期待外れもいいところでした。


 コメディとしては面白かったし、売り上げ的にも大きかったので、失敗作とは言いません。でも、期待してたものとは全然違いました。


 それに比べると、TVアニメ版の方はしっかり巨大ロボットアニメでした。ただ、そんなに見てないんですよね。


 なので、パトレイバーというと、実はゆうきまさみのコミックス版が一番印象に残っているという。


 TVアニメ版はコミックスとは登場人物が一部違い、ストーリーも全然違うものになるという話で、前半部は実際そうでした。ところが、後半からコミックス版の熊耳くまがみ武緒たけおが登場したりシャフト・エンタープライズのグリフォンと戦う展開になるなど、コミックス版のストーリーが盛り込まれます。これはリアルタイム当時は「前に聞いてた話と違うなあ」とは思っていたものの理由まではわかりませんでしたが、Wikiを見ると半年の放送予定が一年に放送延長になったためのようです。


 ロボについて語ると、『逆シャア』と同じで「ブチメカカッコ良い」で終わってしまうという(笑)。前にも書いたんですがパトレイバーの主役機イングラム(コミックス版とTV版での愛称)って、ジェガンに似てるんですよね。とはいえ、近未来の警察ロボということで武器が20ミリ口径の六連発リボルバーというのがリアルだったり。


 警察だから、暴走レイバー相手というのが多く、要するに大半の敵ロボってザブングルのウォーカーマシンみたいな重機コンセプトのばっかりなんですよね。


 その中では、やはりグリフォンがカッコ良さでは頭抜けてるなあと。黒一色のカラーリングと相まって強敵感が凄かった。のちの『Gガンダム』のマスターガンダムって絶対グリフォン意識してるだろうとか思ってます。


 キャラ的にも、シャフトの内海と黒崎というのは「ビジネスマン風の悪役」として非常に面白く、後世の悪役造形に非常に大きな影響を与えるんじゃないかなと思います。


 あと、劇場版の敵ロボであるゼロもカッコ良かったなあと思ったり。抜き手が必殺技というのはゴールドライタンと同じですが、腕が伸びるギミック(これはリボルバー取り出しのためにイングラムにも搭載)と相まって説得力がありました。なお、劇場版第一作については、かなりあとになってアニメを見ましたが、むしろ『月刊ドラゴンマガジン』に連載されたノベライズ版の方をリアルタイムで読んでいて、そちらの印象が強いという。


 プラモは、イングラムとゼロとグリフォンを弟が持っていました。この頃のバンダイのプラモデルのできは相当に良くなっていましたね。


 さて、このパトレイバーについて、ひとつ面白い説をどこかで読んだのですよ。それは、元企画が「熱風グランディム」だったというものです。


 「熱風グランディム」というのは何かというと、私が最初に読んだアニメ誌『ジ・アニメ』の連載のひとつで、巨大ロボットアニメの企画を立てようというものでした。その第一回が偶然にも私が最初に買った『ジ・アニメ』で掲載されていたのです。


 参加者としては、とまとあき(当時『ジ・アニメ』で執筆中)を中心に、ゆうきまさみ、知吹愛弓(のちにOVA『究極超人あ~る』監督)などが参加して企画を立てていたのです。


 ロボ自体はパトレイバーとは似ても似つかない遠未来の合体ロボで、バイクを中心にトレーラーに搭載されていたパーツで組み上がるものでした……というと『メガゾーン23』のハーガンを思い出すのですが、この企画は84年のものですから、メガゾーンより前のものです。


 そして、主人公である羽沢バンはロボ製造会社の社長の息子で、ヒロインのアルディー・ライムはマフィアの一人娘という設定でした。それでバンが家出の際に実家の工場から盗んだバイクが試作品で開発中止が決まっていたロボの中枢パーツだったという。その試作ロボの開発者であり開発中止に不満をもっていた中年技術者とその娘(幼女)がバンに同行することになり、さらにマフィアが嫌で家出したアルディーも加わって、それぞれの実家からの追っ手から逃げつつ銀河中を旅して回るというストーリーでした。


 何でロボ会社の御曹司かというと、「親族相盗しんぞくそうとう」、つまり親から盗んでも罪にはならないということで、ロボをかっぱらうことを正当化するためだという(笑)。


 このように企画自体はパトレイバーとは似ても似つかないのですが、ヒロインのアルディー・ライムのデザインラフ案のうち、ゆうきまさみ案がパトレイバーの泉野明の原型になった可能性があります。もっとも、同じ人のデザインなんで似てくるのは当然かと思いますが。


 そして、もうひとつ。パトレイバーの設定のうち、あまり活かされてない設定である「篠原しのはら遊馬あすまが篠原重工の御曹司」というのが、羽沢バンの設定を流用したものじゃないかなと思えるのです。


 これ、前にどこかのアニメ誌かネットか何かで読んだおぼえがあるんですが、今ググっても見つからないんですよ。


 ただ、Wikiのパトレイバーのところの「成立の経緯」欄を見てみると江古田の喫茶店でアニメの企画について語り合っていたのが元と書いてあり、そのメンバーに、ゆうきまさみのほかに、とまとあきも居るんですね。その企画ネタの一部が『ジ・アニメ』の連載になったと考えると、「熱風グランディム」がパトレイバーの原型というよりは、同じ種から分派した別の結果と考えた方がいいのかもしれません。


 なお、この「熱風グランディム」の企画からは、とまとあきの方がのちに『絶対迫力デルパワーエックス』というロボ物のOVAを作っていますが、残念ながら、こちらは未見です。


 劇場版の第三作が2002年に作られたり、2014年になって実写版も作られるなど、息の長いコンテンツに育ったなあという印象はあります。そのスタートとして成功したのだから、OVA版についても、「巨大ロボットアニメとして良かったかどうかはともかく」、名作だったと言えるのではないかなと思います。

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