第99話 機動戦士Zガンダム その10 大きくしてみよう編

 さて、今回はギャプランとサイコガンダムを語りましょう。サブタイは、バンダイから出てきたサイコガンダムのラフデザインを見た富野監督が言ったとされる言葉です。これについては、あとで詳しく語ります。


 まずはギャプラン。こいつは、鋭角的なデザインも、濃いグリーンを中心としたカラーリングもティタン獣の中ではマトモな方です。普通にMS形態もカッコ良く、MA形態も悪くないデザインですね。チャームポイントは、両腕に付いてるバインダー。これがシールド兼ブースター兼メイン武器のビームライフルを兼ねています。


 基本は、MA形態で高速一撃離脱をかけるという運用法を想定しているというデザインです。


 Zガンダムの可変MS・MA系の変形は、真っ当な変形だと、基本的にブースターを一定方向に集めることで推力を増して加速力を強化するというメタスやメッサーラの方向性か、リフティング・ボディに変形して飛行能力を高めるというZガンダムやアッシマーの方向性のどちらかになっています。ギャプランは、メタスやメッサーラと同じく、前者のタイプですね。


 ただ、こいつはMA形態でもリフティング・ボディ機じゃないので、大気圏内運用に際してはブースターを増設しています。


 作中では二機登場し、一機目には強化人間ロザミア・バダム(バタム)が、二機目にはヤザン・ゲーブルが搭乗しています。最初は加速度が高すぎて強化人間でないとGに耐えられなかったのですが、のちに改良されて一般の兵士でも乗れるようになったという設定です……が、むしろヤザンが規格外だという説の方が説得力があったりするんですが(笑)。


 一機目の方は、カツ・コバヤシが無断でマーク2に乗って出撃したときに遭遇しており、リック・ディアスに乗ったカミーユやクワトロを高速戦闘で翻弄するも、最終的にはカミーユに撃墜されます。ただ、その瞬間にパイロットのロザミアは射出座席で脱出しており、その際に髪がパアッと開いて流れる演出があって、カミーユが「女性?」とか疑ったシーンがあったような記憶があります。


 二機目は、ヤザンが宇宙で使用しており、こっちは何度も出てくる強敵です。一度はモニターの調整不足で下方に視界不良があったところを突かれましたが、それが修正されてからは特に問題なく活躍しています。撃墜はされておらず、ヤザンがハンブラビに乗り換えたあとにどうなったのかは不明です。


 基本的に、カッコ良くて強敵感のある可変MAでした。Zの可変MAの中では好きな方ですね。


 さて、いよいよ来ました大問題の可変MA、サイコガンダムです。Zガンダムでも屈指のイロモノ機体なのですが、後世のガンダムシリーズに与えた影響は非常に大きいと言えます。


 何しろ、顔は完全にガンダム系です。それも初代ガンダムを意識してか、こいつは目が鋭くなくて、垂れ目系なんですよ。全体のデザインも初代ガンダムをトレースしています。


 それなのに、色は黒。マーク2どころじゃない、全身真っ黒に赤のアクセントという悪役カラーです。その上、デカい。異常にデカい。身長四十メートルと普通のMSの二倍以上のサイズなのですが、実際の作中描写ではもっとデカそうに見えます。


 その巨体を生かして、全身にメガ粒子砲を多数搭載している上に、Iフィールドやミノフスキークラフトまで搭載しています。つまり、ビーム兵器は跳ね返すし、ジェットやロケットといった推進力無しでも重力下で宙に浮きます。


 ただ、ミノフスキークラフトを使用して宙に浮けるのはMA形態のみのようで、MS形態では宙に浮いた描写は無かったように思えます。この変形は先に挙げた「推力を一方向に集める」でも「リフティング・ボディになる」でもない、不思議な変形なんですよね(笑)。ただ、ミノフスキークラフトを使用するためにこの形態にならないといけない理由か何かがあるのかもしれません……設定上は何も語られていませんが(笑)。


 その上、サイコミュまで搭載しており、強化人間かニュータイプでないと操縦できません。ただ、実際には強化人間フォウ・ムラサメしか搭乗しておらず、実質的に彼女の専用機となっています。


 敵ロボとして出てくるのですが、パイロットのフォウがカミーユと恋愛関係になってしまったので、一号機はカミーユの宇宙脱出を助けるために自爆気味に母艦であるスードリに特攻して大破。後半に登場した二号機はキリマンジャロでカミーユをかばった際にフォウが戦死したので動きを止め、そのまま放棄されます。


 こいつはスパロボにも何度も登場して、カミーユによるフォウの説得イベントがお約束のように発生します(笑)。ただ、フォウを洗脳してるマシンみたいな扱いなので、味方機として使えるのはまれです。


 作中の暴れっぷりといい、パイロットの重要性といい、絶対に無視できない強烈な印象を与えるロボだったりします。


 外見こそガンダムですが、指先がビーム砲になっていたり、胴体や頭部にもメガ粒子砲が仕込んであるなど、どちらかというと設計コンセプトはジオングに近い印象があります。リアルタイム当時から「ガンダムの皮をかぶったジオング」的な評がありました。


 これ、リアルタイム当時の二次資料で、既に「バンダイ案Zガンダム」としてラフデザインが公開されています。これがまた、ダサいんですよ。劇中だとMA形態は立方体の頂点に四角錐が乗っかってるようなフォルムでフヨフヨ浮いてるんですが、これがラフデザインだと機種を上に向けた形の寸胴なスペースシャトルになっているという。


 一方、MS形態は完全に初代ガンダムです。要するに、初代ガンダムをスペースシャトルに変形させるというコンセプトなんですね。


 リアルタイム当時は知らなかったのですが、これをデザインしたのは、あの「超合金の生みの親」村上克司だったりします。後年それを知って納得したんですよ。以前にゴールドライタンの所でも書きましたが、変形コンセプトがゴールドライタンや大鉄人17と一緒なんです。前部装甲を跳ね上げて、脚を体育座り型に折りたたんで、腕を胸や腹に収納する。


 ただ、いかんせん、あのデザインでは「Zガンダム」としては使えなかった。そら当然でしょう。あのラフデザイン見たときは、私も「ダサっ!」って思いましたから(笑)。


 ところが、そのデザインを見た富野監督は「大きくしてみよう」と言ったんだそうですよ。それでサイコガンダムになったと。


 これ、伝聞情報です。Wikiとか調べてみましたが、どこにも出ていません。なので、ソースは私の耳です。


 ただし、この情報を私に語った人は――大学時代のサークルの先輩なのですが――当時すでにプロのラノベ作家であり、のちにガンダム関係の大著を執筆している人です。なので、私はこのエピソードは実在したと信じています。


 その人が、このエピソードを語ったあとで「やっぱり富野は天才だ!」と力説していたのが印象に残っています。


 このサイコガンダムという機体がのちのガンダムシリーズに大きな影響を与えているのは間違いありません。それは、ガンダムの顔をした敵ロボを出してもよい、という前例になったことです。


 マーク2も黒色で最初は敵側で登場しましたが、すぐに奪って味方機にしてしまっています。ところが、このサイコガンダムは、最後こそ味方に寝返ったりするものの、完全に悪役ロボとしての立ち位置で登場しており、デザイン的にも悪役側です。


 後年、Gガンダム以降に導入される「敵も味方もガンダムだらけ」の一番最初の例となったんですね。


 これも、色々な意味で記憶に残るロボでした。


 さて、次回はこれ以外の、まさにティタン獣と呼びたくなるような怪獣系可変MAについて語っていきましょう。


 君は、33年の涙を見る。


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