第37話 機動戦士ガンダム その17 これが地球の雷というものだ!編

 ガンダム語りも17回目。そろそろ色々すっとばしたい所ですが、こいつだけは書いておきたいと思った「ガンダムのSFとしての側面」についてです。サブタイはランバ・ラルの名ゼリフから。


 ガンダムはロボットアニメとしてだけでなく、SFアニメとしても『ヤマト』に続くエポックメイキングな作品でした。もちろん1979年という時代性はあります。しかし、その中で丁寧に「SF」として描かれている部分は評価したいと思うのですよ。


 折しも前年1978年は『さらば宇宙戦艦ヤマト』が公開され、『銀河鉄道999』のTV放送が始まるといった松本SFの全盛期でした。しかし、ご覧になった方ならご存じのとおり、松本SFは多分に「スペースファンタジー」の要素を含んでおりまして、ガジェットが非常にSF的ではあるものの、理屈には合わない描写も多い。もっとも、作中で自ら「ロシュの限界を無視してるよ!」みたいなツッコみを入れていて、分かってやってるという風に描いている場合もあるのですが。


 もちろんそれは、ガンダムでも同じで、そもそもが「ミノフスキー粒子」という架空粒子に設定的な重要部分を依存してるというのはあります。ただ、それはSFの「F」=フィクションとしてはアリなんですよね。


 もっとも、この「ミノフスキー粒子」がレーダーを無効にするので格闘戦主体になるから近接白兵戦を行えるモビルスーツを開発した、って設定自体が結構ツッコみどころがあったりはするんですが。結局銃器メインで戦ってるんで、それなら旋回性の高い戦闘機作ればいいんですよ。実際、コア・ブースターが活躍してるんで、旋回性が高くメガ粒子砲を積んでる戦闘機作ればMSは必要ないんじゃないかというツッコみどころがある。まあ、そこを補うためのAMBAC機動なんて後付設定もできたり、それを実在の宇宙飛行士が肯定したりしてますけど。とはいえ牽強付会けんきょうふかいの感はまぬがれず、「ガンダムはリアルだ、設定的にロボの必然性がある」なんて言われてますが、実のところは、そこはやっぱり表面上糊塗ことしてるだけなんですね。


 だから、私がガンダムのSF描写で評価したいのは、そういうガジェット的な「ミノフスキー粒子」とか「モビルスーツ」とか「メガ粒子砲」とかじゃないんです。


 また、「ガンダムのSF的側面」とかいうと、「ニュータイプ論」みたいな話もよく出てきます。これは当時の二次資料でも散々に書かれていて、A・C・クラークの『幼年期の終わり』とか、そういった有名SFが描いた人類の進化みたいな部分を描こうとした、という部分で評価する人は当時から多かった。


 ただ、私はそこのところは、別にそんなに評価してるわけではないです。何でかと言うと、正直「浮いてる」から。一応マチルダさんの「君はエスパーかもしれない」というセリフとかで伏線は張ってますし、素人が極限の戦争で生き残れた理由付けとしては説得力があるものの、終盤になって急に「人類の革新」とか壮大な話がぶち込まれた感はぬぐえないんですよね。それも打ち切りで話が急展開する中で。


 ガンダムシリーズがこののちに展開していく中で、この「ニュータイプ論」は結局「足かせ」になってしまったんじゃないかと思えるフシがあります。『Zガンダム』『ZZ』『逆シャア』と続けていく中で破綻し、『V』では「スペシャル」なんて呼び方に退化して結局無視された状態で宇宙世紀サーガは終わってしまう。まあ富野が放り投げたのを『UC』で福井晴敏が何とか拾おうとしてましたけど。


 なら、私が評価している「ガンダムのSF的側面」とはどこか?


「人がスペースコロニーという環境で生まれ、育ってきたとしたら、初めて地球に降りたときにどういう反応をするのか」


 この部分を、きわめて真面目に描いてることなんです。


 さあ、サブタイ出てきました。ランバ・ラル隊がはじめて地球に降りてきて雷雲の中での戦闘になったとき、ホワイトベース側でも、ランバ・ラル側でも、生まれて初めて雷を見て敵軍の新兵器かと驚き慌てる人が多かったわけです。それを一喝したのが、ランバ・ラルの「慌てるな、これが地球の雷というものだ!」という名ゼリフ。


 同じような描写は大気圏突入直後にもあって、はじめて海を見た少年が「あっちが海、海っていうんだろう?」と祖父に言い、地球を知っている祖父が「これがみんな陸と海でできている自然の星なんだよ」と答えるシーンがあります。


 このシーンの凄さは、もちろん初見のときには分かるはずもありません。再放送のときだって完全に理解していたとは言えないかと思います。だけど、大人になってから見返してみたら、「子供向けのアニメ」にこんなシーンをぶち込んでいる富野監督の凄さとSF者としてのセンスには脱帽します。


 子供として見ていたときだって感心する描写は結構ありました。「大気圏に突入すると摩擦熱で燃えてしまう」ということは「助けてください、シャア少佐!」の悲痛な声と共に、ガンダムで覚えたという人は意外に多いんじゃないでしょうか?(笑)


※これ正確には「摩擦熱」ではなく「断熱圧縮」だと「なろう」の方で164k様からご指摘がありましたが、記憶の中で「摩擦熱」になっているのでそのままとします。このあたり正確ではないものの1979年時点での分かりやすい表現ということでご容赦ください。なお、ロシア系技術だと簡単に突入速度をコントロールできるらしいというエッセイもご紹介いただきました。https://ncode.syosetu.com/n4343eh/2/


 実際、はるか後年の2003年にスペースシャトル「コロンビア」号が耐熱タイルの破損から大気圏突入時に空中分解した事故を見て、あのシーンを思い出したガンダム世代の人間は多いんじゃないかと思います。


 1979年というと、他ならぬ「コロンビア」号が初飛行するわずか二年前なんです。それが、二十年以上あとの2003年の悲劇につながる原因を既に描いていたというのは、やはりSF=サイエンス・フィクションとして大したものだと思います。


 今回も完全にロボ論からは外れちゃってますけど、小学生時代とかはSF好きだった元SF者としては、やっぱりこの部分の評価は外せないんですよね。


 さあ、次回は今度こそプラモ編行くぞ!


 君は生き延びるついてくることができるか?(笑)

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