第6話 友達の力を借りてみる

 ご飯の途中だからと話を切り上げることもできる。そう思って亜紀にうなずいて席を立った。

 そうして教室の外へ出たところで、亜紀が私の腕にすがるようにしてささやいた。


「ごめんね、ちょっとの間だけでいいんだけど、ここで話しているふりをしてほしくて」


 一体どうしてかと思えば、早々にお弁当を食べた槙野くんが、廊下で立ち話をしている。

 亜紀は堂々と話せないまでも、彼と近い場所にいたくて、立ち話をしていても不自然ではない私を呼び出したのだ。

 この時点でもう、私は自分の席に戻りたくなった。立ち話をするだけなら、別に私以外の人とでもいいはず。


「亜紀、私ご飯食べてたのに……」


「だって他の友達もご飯終わらなくて」


 その言葉に、ムッとしたのは仕方ないと思う。

 他の友達の邪魔はできないけれど、自分の邪魔はいいのかと感じてしまった。だから三分ほどで、すぐに席に戻ることにした。


「お腹空いてて辛いから、もうご飯食べに戻るね」と言って。


 さすがに亜紀も止められなかったみたいだ。残念そうな顔をして「じゃあ、また放課後にね」と言って自分の教室へ戻って行った。


 だけど亜紀の言葉に、私は頭からざっと血の気が引く気がした。

 まさか今日も、放課後にたっぷりと槙野くんと彼女の話を聞かされなければならないのかな。それは嫌だ。

 だから席に戻ってお弁当を急いで食べた後、芽衣と沙也に頼みこんだ。


「ごめん、今日からしばらくの間、私と図書館で勉強していることにしてくれる?」


「いいけど……どうしたの?」


「ははーん、平沢さん?」


 鋭い芽衣は、何かを察したようにそう言ってくれる。沙也の方はよくわからなかったらしく、芽衣と私を見比べた。


「え、どういうこと?」


「平沢さんが放課後に、って言ってたのが聞こえたから。たぶんつき合わされたくないのよね? 美月は」


 芽衣が声をひそめてそう言ってくれる。平沢というのは亜紀の苗字だ。


「平沢さんが何かしつこくしているの? 最近、ずいぶん美月のこと訪ねてくるなとは思ってたけど」


 ふんわりしている沙也でさえ、亜紀の行動が急変したことを気にしてはいたようだ。


「それと、平沢さんが来る度に、美月が困った顔してた」


 芽衣に指摘されて、思わず頬を両手でおさえた。


「え、顔に出てた?」


「大丈夫、私、わからなかったよ?」


 優しい沙也がそう言い、芽衣が一刀両断する。


「気乗りしてないな、ってのはすぐわかったよ。ていうことは、何か話したくない話題にでもつき合わされてた? 美月の場合変な頼み事されたぐらいだったら、今みたいにさっさと戻ってくるでしょう? それをしないのは、何か理由があるのよね?」


「ぐ……」


 芽衣が鋭すぎて、私はうなった。

 でも説明しなくていいのは助かる。さもなければ、相手にわかるように詳細を話さなければならなくなる。


「そんなとこ……」


 うなずくと、芽衣は請け負ってくれた。


「ことが終わった後で理由を教えてくれれば、別に名前出してもいいよ」


「よくわかんないけど、私もいいよー」


「ありがとう」


 本当に二人には感謝しかない。私は頭を下げた。

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