第12話 決着
「よかった!上手くいったみたい!」
「まさか、本当に自我を取り戻すとは……」
「あ、あり……えん!自我まで……再生させたのかッ!?」
優香は恵美の自我を取り戻すために恵美と共に転移し、外の世界を見せることで思い出と記憶を刺激した。その結果、恵美には変化が生じていた。
「私は……何を……」
「恵美!大丈夫!?」
優香は恵美の元へ駆け寄った。
「優香、ここは?……何があったの?」
「ここは、水鳥院があった場所だよ。その、色々あってさ……」
「こ、ここが?」
「そう、何があったのかわからないよね。恵美と子ども達はね、香苗先生に……実験材料にされたの」
「じ、実験?……香苗、先生に?……ッ!そうだ、私は……あの時……」
恵美は何かを思い出したようだった。
「あ、あの時……あぁぁ!!子ども達が!!あ、あぁああぁ!!うぅぅッ!」
「どうしたの!?恵美!落ち着いて!!」
「うわあああぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!!!!」
膝から崩れ落ちた恵美は頭を抱えて泣き叫んだ。
――――――――――――――――――――――
そこは水鳥院の地下深く、院長の部屋から入り秘密の出入りの仕方でしか行けない場所。そこには大きな機械や人間サイズの培養カプセルが並んでいた。
「ここって何するとこなのー?」
「ここはね、病気を治すための部屋だよ」
そう、ここは子ども達が患っている不治の病カース・マリーを治すための研究をする施設だった。
「でも、前来た時となんか違うような、こんなに物々しい雰囲気だったっけ?」
恵美は一度優香と共にこの部屋に来ていた。しかしその時はまさに研究室といった雰囲気だったのだが、今は研究をする場所というより、何かの実験をするような雰囲気となっていた。
「なんだか、嫌な感じがする……」
恵美は何かを感じ少しずつ奥に進んでいく。奥に進むにつれ培養カプセルの数は増していき、雰囲気どころか空気が重くなっていく感覚に襲われる。そしてついに、恵美と子ども達は地下施設の最深部へと辿り着く。
「な、なに、これ?!」
そこは天井まである巨大な培養カプセルが立ち並び、いくつものパイプやケーブルが混在していた。そして全ての培養カプセルと太いパイプで繋がった場所に、不思議な文字で描かれた円状の模様があった。近くにはテーブルがあり、その上には紙の束が置いてあった。
「これって、研究データの資料、かな?」
恵美はテーブルの上にある資料を手に取り、中身を読んだ。そこには理解しがたい衝撃的なことが書かれていた。
「……何、これ」
その資料に書かれていたのは、カース・マリーの研究データなどではなかった。そこにはカルテのように子ども達の身長体重から血液型、抵抗力や適応力などの一般的なデータが一人一人詳細に書かれていた。しかしそれぞれのデータの隣にはもう一つのデータが書かれていた。それは実際のデータではなく、何かに対する予想のデータのようだった。
「何かの予想値かな。でも、そんなことより……なんで、なんで一人一人のデータに優香のデータも書かれているの?」
全員のデータの中になぜか優香のデータも書かれていたのだ。何かの予想のデータは、その人と優香のデータから算出されたもののようだった。しかし優香はカース・マリーを患っていない。それにわざわざ優香のデータと照らし合わせる意味がわからなかった。まるで優香の何かを掛け合わせた場合を想定しているようだった。
「それに、この神威って、なんの数値?」
予想データの中には、聞いたことのない意味不明なデータも書かれていた。そしてもう一つ、気にかかるデータがあった。
「魔法適正値……まさかこれって、優香の力のこと?優香の力と私たちを掛け合わせた予想データってことなの?」
魔法なんて言葉、普通聞くことはないはずだが恵美は優香の力のことを知っていた。そのためこの資料がどんあものなのか予想がついてきた。
「……私たちに優香の魔導王の力を取り込ませる、その研究についての資料なんだ。でも、どうやってこんなデータを?それに予想にしてはデータが詳細すぎる。まるで、実験をしているかのような……」
恵美が資料について考えている時、最後の紙に書かれている事に衝撃を受けた。そこには日付と数人の子ども達の名前が書かれており、恵美の名前も何回か出てきている。そして紙の一番上には、実験日と書かれていたのだ。
「じ、実験?!う、嘘だ。そんなことされた覚えはないし……」
恵美が混乱しているその時、後ろの方から誰かが歩いてくるのに気がついた。
「か、香苗先生……」
それは片腕を失い、いくつもの怪我を負った姿の森香苗だった。
「せんせー」
「かなえ先生けがしてる!!」
「だいじょーぶー?」
「ああ、なんとかね。しかし、どうやら見てしまったようだね、秘密の実験のデータを」
子ども達は怪我をしている香苗を心配しているようだったが、香苗は軽く流し資料を手に持つ恵美に近づいていく。
「先生、一体ここで何をしていたんですか?このデータどうやって算出したんですか?」
「前にも言った通り、ここは研究施設だよ。そのデータも研究で算出したものだよ」
「その研究って、カース・マリーの研究じゃないですよね?カース・マリーの研究だったら、優香のデータは必要ないはず。治療のために優香の力を借りているのは知っています。しかしこの予想値のデータは何ですか?まるで、優香の力を私たちに取り込ませる時の想定のように見えますが……」
恵美は香苗に問いただした。もし自分の想像が正しかったら、自分たちは何かのための実験体にされていたことになる。
「ほう、そこまで思考を巡らせるとはな。まぁ、この状況なら教えてもいいか。正解だ、大正解だよ。お前の想像通り、私はカース・マリーの治療と称してある実験を行なっていたのさ!」
「なッ!なんでそんなことを!?それに一体何の実験を……」
「だから言っただろう、お前の予想通りだと。優香の持つ力である魔導王の力、それをお前達に与えることで、強大な力を持つ存在を作り上げる。それが私の真の研究、
香苗の研究とは、自分たちの病気を治すための研究だと思っていた。しかし真の研究は私利私欲のために子ども達を研究材料とした人体実験だった。恵美はその真実に強い衝撃を受けた。
「そ、そんな……私たちを騙していたの!?」
「まぁ、そういう形になるね。でも安心しな、お前達は強大な力を手に入れられる。つまりはこの施設から出て、外の世界にも行けるんだよ!」
「おそといけるのー?」
「ほんとー?」
「そうだよ。お前達が私に身を任せてくれればの話だがね」
子ども達は憧れの外に出られるとあって大喜びだった。しかし恵美だけは違った。恵美は香苗から子ども達を庇うように間に立った。
「ダメ、絶対にダメ!!よくわからないけど、この実験は良くない実験なんでしょ!?」
「そんなことないよ、力は得られるし外にも出られる。お前達が外に出るためには、私の実験しかないんだよ。恵美、お前も外に出たいだろう?」
「外には出たい。でも、なぜかわからないけど、この実験を受けたらいけないような気がする……」
「根拠はあるのかい?……まぁどっちでもいいさ。すでにお前達は私の実験を受けているんだからね!!」
「……え!?」
恵美は香苗の発言に驚いた。確かにカース・マリーの治療のためと称した検査を受けたりはしていたが、自分は香苗にそんな実験を受けた記憶はない。この部屋に入った記憶もない。そう、そんな記憶ないのだ。
「ま、まさか……嘘でしょ?」
「ようやく気づいたかい?そう、私の実験を受けた時のお前達の記憶は、私が消したのさ!!」
「そんな……だからこの資料にも……」
「ああ、その資料はお前達に実験をした時に算出したものだよ。実験はかなり厳しいものだったからね、スムーズに実験するために記憶を消させてもらった。お前達の苦痛に歪む顔を見るのは辛かったよ。おかげでいい実験結果を得られたんだが、お前達は覚えちゃいないか」
机の上にあった詳細なデータ資料。ただの予想にしては詳しすぎるそれは、香苗が子ども達を実験隊にすることで得たデータだったのだ。さらに実験を受けた子ども達の記憶までも香苗は消していた。それは自らの実験をスムーズに行うためという身勝手な理由で。
「そんな、そんな酷いことするなんて……信じてたのに、香苗先生のこと信じてたのに!!」
「そうかい、そいつは有り難いね。それじゃあこれからも私のことを信じてくれるんだね?」
「……え?」
「なにこれー」
「こわいよ恵美お姉ちゃん!」
その時、香苗から薄紫色の煙が生み出された。それはみるみるうちに部屋中に充満していき、恵美や子ども達を包んでいく。
「最後まで、私のことを信じてもらうよ!!!」
香苗から生み出された煙を吸った恵美達の意識が遠のいていく。恵美達が最後に見たのは、香苗の不気味で不敵な笑みだった。
――――――――――――――――――――――
「思い……出した!私は……あの人に……ぐッ!」
「しっかりして恵美!何を思い出したの!?」
「私は、私たちは……あいつに騙されてた!私たちに、非人道的な実験をし、記憶まで消した!」
「実験をしていた!?それに記憶まで!?」
恵美に真実を聞かされた優香は、自分だけでなく他の子供達の記憶まで奪っていたことに驚いた。今までそんな危険な実験をしていたそぶりなんて無かったからだ。
「どこ?……あいつはどこ!?私は……くッ!あいつを!」
「恵美!とにかく落ち着いて!!」
恵美は優香に支えられながらよろよろと立ち上がる。その身に再び白い光を纏いながら。
「森、香苗ぇェェぇ!!よくも、私タチを!!」
「え、恵美?どうしたの?」
優香も見たことがないほどの鋭い眼光をしていた。そして恵美は香苗をその鋭い目で捉えた。瞬間、恵美から先程の戦闘時以上の力の波動が放出された。
「あああぁぁぁぁアアアァァァァあアぁァアアアァァァァァァ!!!!!」
「きゃあッ!」
恵美は再び濃密な光でできた槍を持ち、膨大な力を放出しながら香苗に向けて突進していった。そのとてつもない勢いに優香は吹き飛ばされてしまう。
「ま、待つんだ恵美!!」
「死ネェェェェェェェッッ!!!!」
一瞬で香苗の目の前まで移動した恵美は、その手に持つ光の槍を躊躇なく振り下ろした。
「ぐッううぅぅぅ!!」
「ッ!?ダレ……だ!!」
しかし恵美の光の槍は香苗には当たらなかった。高速で動いた恵美に追いつき、香苗との間に入った神斗によって防がれていたのだ。恵美の槍を受け止めた神斗の腕は凝縮された炎を纏い、炎でできた腕になっていた。
「神斗!!」
「やらせない。恨みや復讐、悪意で人を殺したら、一生人の道に戻れなくなるぞ!」
「アナタには……関係ナイ!そこを、ドケ!!!」
神斗と恵美の力は競り合っており、二人は鍔迫り合いのような状態となった。
「くっそ!!……こうなってしまえば、もう逃げるしかないか!!」
「貴様!!」
「ググッ!!絶対二逃ガサン!!!」
神斗に守られる形になった香苗は、神斗と恵美が競り合っているうちに逃げようとした。神斗も恵美も相手に押し返されまいとしているため動けない状況だった。優香も連続の転移による疲労のため動けず、その場には逃げようとする魔女を止める存在がいなかった。
「ハッハッハッ!!そのままお互い潰し合ってな!!私はこんなところで死ぬわけには……ッ!!」
ドゴオオオオォォォォォンンン!!!
突如として鳴ったその轟音は瓦礫の山から発生した。轟音とともに瓦礫は吹き飛び、中から槍を持った一人の女性が現れる。
「まだ私がいることを忘れるな!!」
「お前は!海鳴り姫!!生きていたのか!!」
それは先程恵美によって吹き飛ばされ、瓦礫に埋もれてしまっていた海乃だった。
「ッ!海乃!やれ!!」
「分かっている!!」
瓦礫から脱出した海乃は槍を上段に構え、水を纏わせた。
「これで終わりだ!!疫病の魔女!!!」
海乃は水の推進力を利用した突進で香苗まで一瞬で接近し、水を纏い鋭さを増した槍を香苗に振り下ろした。
「刃無き斬撃ーー
「ぐああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!!!」
海乃の斬撃は香苗の体を斜めに真っ二つに切り裂いた。その斬撃の勢いは止まることなく、大地をも切り裂いていき、真っ二つになった香苗は切り裂かれた大地に落ちていった。
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